第二十二冊 『銃闘法炸裂』
うぉおおお! 八時ギリギリ投稿! 遅くなってすいません!
街道を抜け、整備されていない道を超え、ヨウと築波は『銀の森』へとたどり着いていた。
外見は普通の森だ。二人の身長の1,5倍程度の大きさの木が立ち並び、まだ昼下がりだからか木漏れ日が出ている。そしてその奥には巨大な鉱山が存在している。ちなみにヨウと築波では、若干築波の方が身長は高い。
「セルビスに来る前も森の中に居たけど、この世界の森は綺麗だよな。全体的に」
ふと、ヨウは思ったことを口に出した。空気中の汚染やオゾン層(そもそも存在するかすらわからないが)の破壊などが少ないこの世界では、まず自然が荒れるということが無い。なので、地球の森に比べて大分過ごしやすいのだ。その手の話題は、異世界人である築波だから通用する話である。彼は両手に持つ魔銃────ホロウ&ラクスの内、片方で肩をトントン叩いた。
「そうだね。ガスとかが使われていないから綺麗ではある。けど、魔法だって無害ってわけじゃないんだよ?」
「そうなのか? 自然に影響なさそうなイメージだが」
「ヨウ君、魔力については知っているよね? 魔力は空気中に漂っていて、自然の『調和』を取る役割を担っているんだ。だから、人々が魔法を使い続けて、大気中の魔力まで汚染させ始めれば、何れ自然も腐っていく。原因は違くても、結果は同じなんだよ」
「便利は破滅しかもたらさない、か」
魔法を使う際、基本的には体内で生成される魔力を使う。だが、魔法を使ったりすると、魔法に込められた魔力が空気中に存在している純粋な魔力を汚すのだ。そうすると、自然の調和を取っている魔力が少なくなり、やがて自然は崩壊する……と、いうことである。世界は違っても人の行く末は同じだ。
「そういえば、その神製道具にはどんな武器が入っているんだい?」
「剣とか、杖、鈍器とか色々入ってるな」
正確に言えば、カルムの皇帝の杖や、フィリアの替えの剣なども入っている。だが、総てを口にする必要は無いだろう。鈍器などといった誰も使わない武器種があるのは、カルムが『念の為』と持っていたからだ。万物収納異空間展開鞄に収納限界があるのかは分からないが、少なくとも余計なものを入れた程度では余裕である。
「神製道具は便利でいいね。僕も欲しいけど、あれは高い。ヨウ君はどの武器を使うんだい?」
「基本的には剣だな。というか、それしか使えない」
段差を飛び越え、ヨウは答える。
ヨウの場合、才能が無さ過ぎてどの武器もまともに使えず、スタンダードな剣が一番まともだった、というだけだ。ティアが剣の達人だったことも由来ではある。結果的に『龍神の武器』が剣だったので、偶然的に正解ではあったが。
やがて数分歩けば、近くでガサッ、という音がたった。築波はその時点で手を出し、ヨウに『前に出るな』という合図をし、木陰に隠れる。同じく、ヨウも隠れた。
築波は顔だけ物音の方へ出す。ヨウにも、葉の合間からわずかに見えた。薄緑の体、黒い複眼、鋭い鎌。その姿は、
「いたよ……けど、あれは緑獣族じゃなくて蟷螂だ。森ならばどこにでもいる魔物だね」
「蟷螂……聞いたことがある。虫の魔物の中では弱い部類だよな? たしか」
「そうだね」
築波の説明にヨウも確認を取る。
蟷螂についてはいつも聞いていた。カルムは虫が嫌いな様で、よくぐちぐちと話していたものである。他の魔物の様に大層な名前が付いていないのは、それだけ当たり前の魔物だからである。岩石蜥蜴などは蜥蜴という魔物の亜種であるため、そのような名前が付いている。この蟷螂は蜥蜴と同じ様に『種の基本形』であるため、簡素な名称なのだ。
「さて……ヨウ君。君には三つの選択肢がある。一つは、君がこのまま蟷螂を相手にすること。二つは、『試験は緑獣族を討伐することだから、試験官である僕が代わりに討伐する』こと。三つめは、無視して迂回することだ。どれ選んでもあまり変わらない気はするけど、どうする?」
築波は顔だけこちらに振り返り、指を三本立てる。
どれも利点はある選択肢だ。一つ目は戦闘経験を積める。二つ目は築波の力を見れる。三つめは単純に楽。だが、その中でも一番を選ぶとするのなら─────
「そうだな……築波さんの戦っているところを見てみたい」
────二つ目だ。せっかく築波が戦う、と言っているのだ。銃もしかりだが、戦闘を見てみたいのが事実である。それに魔物の特徴などは分かっていても初の相手はやはりやりずらい。戦闘の場面を見れるのなら幸いと判断した。
築波は肩を銃でトントン叩き、浅く息をつくと「よし」と声を漏らした。
「さて……格好付けたい性分だ。それなりに頑張ろう」
築波は銃を構える。いったいどんな戦法が出るというのか。目にも止まらない連続攻撃かも知れないし、圧倒的物量による射撃かも知れない。もしかしたら奇想天外な戦い方だってあるかもしれないし、どれにせよ強いことに変わりは『バンッ!』、
「ん?」
「ギィイイイイイイイイイイイイッ!」
気が付けば、近くから射撃音。一瞬視界に映った銃弾は、空気を切り裂きながら蟷螂へ着弾する。反応する暇もなく頭部を爆散させられた蟷螂は、脱力してその場に沈んだ。緑色の血がそこら中に散らばる。
「すげぇ。参考になるどころか戦闘すら発生させなかったな!?」
「遠くから撃てば終わるんだ。わざわざ接近する必要はないよ?」
「言っていることは正論だけど、俺の中での築波さんの評価が『SSランクの強い人』から『SSランクのチキン』に下がったぜ?」
「……世の中って、残酷だよね!」
「残酷なのは神だ」
いや、割とマジで。
そう言いそうになったが、流石に思いとどまった。参考にするつもりが築波は射撃一発で終わらせてしまったようだ。これでは築波が強いというよりホロウ&ラクスが強い、という方が正しそうである。
「つ、次はカッコいい所見せるよ!? ダイジョブ! 僕はカポエラを使うんだ。この四丁拳銃でね!」
「はい!? 四丁拳銃ゥ!?」
さらっと出た衝撃の言葉。二丁拳銃が両手だというのなら、四丁拳銃は何処を使うというのだろうか。というより、使えるのだろうか。
一先ずはアワアワする築波を落ち着かせれば、
「アンタ、べヨ〇ンテじゃないんだからさ。何だよ四丁拳銃って」
「実は僕、魔法使いなんだ」
「あぁ、はいはい。アンタが残念な人なのはわかったから」
「……神から授かった二丁拳銃の他に、知識を教えて作ってもらった拳銃がもう二丁あってね。使い道は無かったんだけど、友人から『足に付ければいいじゃないか』と言われてね。ほら」
築波は靴を強調してくる。妙に大きな靴だと思って居たら、なるほど。銃が備え付けられていたわけだ。黒いブーツの様な靴は、明らかに築波の体格には似合わない。しかし、ぱっと見では分からないところを見ると、恐らく見ただけでは分からない細工がされているのだろう。暗器の系統の技術かも知れない。
足に付けている拳銃をどうやって使うのか、という疑問だが、そこでカポエラの出番だろう。足で蹴ると同時に何らかの手段で発砲させ、蹴り+銃弾のダメージを与えるのだ。考えてみると恐ろしいコンボである。自分にやられても、対応出来るイメージが沸かない。
「足に付けるって……どうやって起動させるんだ? まさか、糸が付いているとか言わないよな?」
思いつく手段は、足をピンッ、と伸ばすことにより、糸かなんかでトリガーを引くという方法。だが、それはあまりにも非合理的だし、それでは背伸びをしただけで地面に発砲してしまう。想像すると可笑しい場面だが、日常では恐怖だ。
「糸はさすがにないよ……結構恐ろしいこと考えるんだね」
「手足で拳銃扱っている人にだけは言われたくねぇ!」
「しまった! そうだった!」
へらへら笑う築波。ヨウの方も大分緊張や警戒は解けてきたが、しかし疲れる。どうやら人の心をおちょくるるのが好きらしく、会話の節々に馬鹿な言葉を挟んでいるのだ。嫌いではないが、別に好きではない。天然ではないところがまだ幸いか。一しきり笑えば、築波は腰を深く落とし、魔力を全身に込め始める。
「……足の二丁拳銃は、魔弾を発射できるんだ。トリガーの部分が潰されていて、魔力が銃口に到達すると自動的に発射される。つまり、『撃ちたい』と思いながら魔力を込めればそれだけで発砲できるんだよ」
「……普通に考えて恐ろしいな」
思わずヨウは戦慄する。その言葉を普通に受け取るのであれば、装填が必要ないと言う事だ。魔力を通せばいいのだから、予備動作すら必要としない。つまり、今築波がヨウを殺そうと思えば容易と言う訳で。その反応を愉しめば、築波は地面に手を付ける。
「フッ……!」
短い声を上げ、その場で足を高速で一回転。パンッ! という空気を破裂させる音共に何かが視界の端を掠め、近くの木に着弾。貫通はしなかったものの、一点をかなり抉った。
その場で回転を辞めれば、態勢を治し、築波は手に付いた埃を払う。
やはりというべきか、恐ろしい性能だ。もし築波が敵だったとしたら、ヨウはもう殺されている。銃弾を取り出されればまず混乱するだろうし、アニメやラノベで見る『弾丸切り&弾丸見切り』なんて出来そうにない。心臓にドカンッ、で終わりだ。だが、一つ、一つ懸念があるとすれば─────
「それ……蟷螂を倒すときにやっておけばかっこよかったぞ?」
「……確かに」
「アンタ、本当はものすごく残念な人間なんじゃないのか……」
思わず突っ込む。築波の場合、天然というよりは計算された行動なのだろう。道化師という名称が一番合っているだろうか。
「うぐっ……僕だって本当のことを言われると傷つくんだよ? 反省してくれっ!」
「反省するやつはそんな風に拳銃を押し付けたりしない! 怖い、怖いから!」
ゴリッ、と、眉間にホロウを押し付けられて戦慄。
言葉自体は可愛い物だが、やっている行動は鬼だ。安全装置が付いているか分からないので、本当に発砲されたら死んでしまう。
ヨウは悪かった、という風に手をひらひらと振る。彼は拳銃を眉間から遠ざけると、再び進み始める。ヨウも同じく歩き出した。
「今更だけどよ、どっちがホロウでどっちがラクスなんだ?」
「んー?」
ヨウが指し示すのは、築波の持つ二丁拳銃。
一つは黒く、正に『拳銃』という感じの銃。知識が無いヨウにとってはその程度の感想しか浮かばない。
もう一つは白く、外見だけなら俗に言う『回転式拳銃』に似ている。リボルバーは白銀だが、この銃は正に『純白』という感じだ。
築波は二つを順番に前に出しながら、
「こっちの黒いのがホロウ、白いのがラクスさ。それぞれ性能を高め合う性質をもっている。干将・莫邪って聞いたことあるかい?」
「干将莫邪? あの、中国の話に存在する双剣か?」
脳内に浮かぶのは、黒と白の双剣だ。ヨウも何らかの理由で調べたことがあった。勾玉のイメージがある。どうやらホロウ&ラクスは、『二対揃う事で速度・威力などを向上させる効果』があるらしい。実際の干将莫邪にそんな効果は無かった気がするが。
「そうそう。この双銃は、神によって作られた夫婦銃。神様は地球が好きらしくてね、夫婦剣に似たのを再現したかったらしくて、ホロウ&ラクスを作ったらしいよ?」
「んで、それを貰ったと」
「そうなるね」
「……神は地球が好き、ね……」
神、と出てきたらいい気分にはなれない。死記神、ヴァリアントレリオン。龍神という意味ではヨウも『神』ということに成るのかもしれないが、それはどうでもいい。ヨウはティアを助けたいだけだ。
その後、数分移動したところで、今度こそ緑色の体の生物を見つけた。数は五、六体ほどだろうか。木が周囲にない、少し開けた場所だ。草は生い茂っている。
「見つけた。緑獣族だ」
築波は再度、ヨウの前に手を出す。そして顔だけを出して観察しだした。
蟷螂の時も手を出していたが、それほどまでにヨウを信用できないのだろうか。魔物がいるからといってすぐ飛び出す様な精神はしていない。度胸も無ければその手の常識はもう教わっている。
「……築波さん、態々手を出して止めなくても、飛び出したりしないぜ? その辺は分かっている」
「そう、僕だってわかってるよ。けどこれは一応試験だ。君の事は『初心者』として扱うのがしきたりだからね。先導するのは試験官の役割。これも伝統ってやつだよ」
「まぁ、ならいいか」
ちらりと視線だけをこちらに向け、築波は説明する。それならば仕方ない。何だか子ども扱いされたくない子供の様になってしまったが、仕方ないだろう。
「……こりゃ、どうするかなぁ」
「ん? どうしたんだ?」
築波は緑獣族を見るために木々の隙間から出していた頭を引っ込め、困ったように頬を掻く。どうやらイレギュラーが発生したらしい。といっても、表情を見る限りそこまで深刻な問題でもなさそうだ。
「ヨウ君、緑獣族の中に高緑族がいた」
「高緑族……?」
人差し指を立てそういう築波に対し、ヨウは聞きなれない単語に疑問符を浮かべる。
言葉だけ聞いても分からない。『緑獣族の中に』という文からその一種、若しくは仲間だと分かるが、ラノベなどにはそんな名前のモンスターはいなかった。ヨウが知らないだけかもしれないが、少なくともメジャーなモンスター出ないことは確かだ。
「高緑族っていうのは、ラノベとかで言う『ハイ・ゴブリン』の事だよ。ゴブリンリーダーとかでも呼ばれるかな。ハイゴブリンからゴを取って、高緑族らしいね」
「……この世界の人ってネーミングセンスないのか?」
「ダジャレ好きなんじゃない?」
思わず二人で苦笑い。神製道具の権といい、一部の魔物や道具の名称が残念過ぎる気がする。|情報解析用長方形型道具──────ギルドマテリアルなどは普通だが。
ハイ・ゴブリン、ゴブリンリーダーなどは異世界系のラノベでも登場するモンスターたちだ。その名称の通り普通の緑獣族よりも優れているとされるモンスターだ。
「六匹いるうちの一匹だけだけど、厄介だね……」
「高緑族っていうのは、緑獣族と何が違うんだ? 単純に強いのか?」
「そうだね。基本的に強いと考えていい。どちらかと言えば称号に近いけどね。人間が国王に仕える人間を騎士団長と名称する様に、強い緑獣族を高緑族と呼ぶ。外見の違いは殆どないね」
「外見の違いが無いなら、どうして高緑族ってわかるんだ?」
外見の違いが無いというのなら、なにが特徴と成るのだろうか。まさか『気配が違う……!』とか言い出すのだろうか。正直オーラ的な話、ヨウは分からない。なのでそんなこと言いだしたら本当に築波のことを引いた目で見てしまう。そう思って居たが……
「……(指差し」
「……(見る)……あぁ」
少し顔を出して見れば、明らかに違った。いや、外見は違わないのだ。だが、体中に付いた傷と目が違う。人を殺しそうな目だった。強いて言えば、洞窟で出会った魔物などと同じ様な目をしている。『外見は同じだが見分けはつく』とは、そんな違いからの言葉だったのだ。
「さて、試験の内容は緑獣族を二匹から五匹討伐し、その証拠を提出すること」
その言葉とともに、雰囲気が変わる。これから試験が始まる、という事だろう。とはいっても、緑獣族はもう何回も相手にしているのでそこまで緊張する事は無い。ヨウは態々しまってある龍神の剣を万物収納異空間展開鞄から取り出すと、何時でも肉薄できる体勢に構えた。
「出るタイミングは任せるよ」
「了解……!」
呼吸を整え、確認。剣よし、懐の魔導書よし。
ヨウは勢いよく飛び出した。
「……フッ!」
短く声を上げ、姿勢を低くして突っ走る。草を掻き分け、一番近くに居る緑獣族に剣を横なぎに振った。
「グギャ!?」
が、切られる直前で反応されたせいで、その一撃は緑獣族の右腕を切るにとどまる。瞬間、残りの緑獣族と高緑族が襲い掛かってくる。
「グギャァ!」
「グギャ」「ギャァ!」「グギャ!」
高緑族が叫び声をあげると、それに反応する様に緑獣族は動く。ヨウに右腕を切られた緑獣族は左手に持つ剣を振るった。それを横に回避すれば、さらに別の緑獣族による、戦棍(モドキ)の追撃が。
その攻撃を剣で受け止め、押し返す。相手が体勢を崩したところで縦に切り裂けば、頭から血を吹き出し、声を上げる暇もなく絶命。
その瞬間、ヨウの足元に矢が突き刺ささる。
(……!)
見れば、少し遠くから矢を放つ緑獣族が。そしてその背後には、剣を持つ高緑族が佇んでいる。
(なんだ? 知性が……? いや、これは────)
妙に知性のある行動と思いきや、どうやら高緑族が指示を出しているらしい。知性や戦闘力が高い、若しくは経験がある緑獣族である高緑族。『ゴブリン・リーダー』の名前は伊達ではないと言う事だろう。
(はっ!)
一瞬、恨めしそうに高緑族を睥睨し、ヨウは剣を投げる。今まで敵をスパスパと切ってきた龍神の剣。投擲であってもその切れ味は変わらないはずだ。立て回転をしながら高速で飛んでいく龍神の剣は、反応が遅れた弓を扱う緑獣族の胸に直撃。血を吹き出しながらその場にバタリ、と倒れた。
緑獣族三体目。残り緑獣族一匹、高緑族一匹。
「ゴアァァアアッ!」
「剣が無くなったからって、やられはしねえよ」
ヨウは肉薄する。
ジグザグに移動しながら高緑族に向かって跳躍。魔力を込め、『強化』と重力による加速を加え、拳をお見舞いしようとする。技術など存在しない素人パンチ。だが、それが龍神の身体能力で行われるとすれば、相手にとっては脅威だ。
「ギャァ……」
「グギャ!」
だが、『ボスは守る!』と言う様に、最後に残った石斧を持った緑獣族が立ちはだかる。ヨウの拳に対し、横なぎに石斧を振るってきた。普通なら驚いて拳を引っ込めるところだが、ヨウの拳は魔力によって保護、強化されている。怯むところではない。
拳と石斧が激突し、拳が弾かれる。どうやら相手は側面で打つことにより、『斬撃』ではなく『打撃』で攻撃したようだ。ヨウは着地し、すぐさま手刀を叩きこもうとする。
しかし、最後に残った緑獣族は今までの緑獣族と違った。どうやらこの中で二番目に強い個体らしい。手刀を移動することで避ける。手刀を振るう。避ける。石斧を振るってくる。避ける。こぶしを握って叩き込む。石斧で受け流す。
「チッ!」
「グッギァヤァアア!」
その時、ヨウの背中に高緑族が攻撃をしてきた。手に持つ剣をいままでの緑獣族と比に成らない速度で振う。さらに、正面には残った緑獣族による一撃も。ヨウは横に大きく回避すれば、ちょうど死体に刺さっていた龍神の剣を抜き、構える。
もう少し軽やかに回収、構えを行う予定だったが、これぐらいは誤差だ。予想以上に残った緑獣族と高緑族が強い、と言うのもある。洞窟のオークに比べれば個々はそうでもないが、やはり、二体一は厄介だ。
築波をちらりと見るが、『頑張ってね~』と言う感じで手を振ってきた。殴りたい。
姿勢を低くし肉薄。緑獣族に対し、逆袈裟懸けに剣を振るおうとする。相手はしゃがみ込む様に地面を転がる。ヨウの剣は空ぶった。だが、其処を更に追撃する。もう一歩、強く踏み込み、今度は袈裟懸けに、緑獣族を切った。
「ギャァ……!」
血が噴き出る。態勢を低くすることでそれがかかるのを回避し、最後に心臓に一突き。ズグンッ、と深く突き刺さり、脱力する。だらりと力を失った体から剣を抜けば、すぐ、高緑族の方を注視し──────大きく剣を振りかぶる高緑族の姿が。
(な……! しまった、一瞬遅れたか!)
ヨウはすぐさま龍神の剣を振るおうとするが、少し相手の方が早い。このままでは切られると警戒し、体勢を崩して背後に回避する。当然の様に追撃がくるが、最小限の動きで回避。高緑族は続けて突き刺そうとし、ヨウは剣で受け流そうとする。
だが、焦ってしまった。ペースを崩され、剣が滑る。声を上げる暇もなく、高緑族の剣がヨウの胸に吸い込まれ─────
「─────問題1、まだまだ初心者」
黒い閃光が走った。
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銃弾が高緑族の剣を弾く。大きく体勢が仰け反ったが、直ぐ復活した。そして同時に、築波がヨウと高緑族の間に跳んでくる。
「築波さん!?」
「ヨウ君、後は任せてくれ。数十秒で終わらせる!」
「わ、わかった」
一瞬、混乱したが、築波はヨウが危ないと判断し、代わりに戦うことにしたのだろう。あのまま戦っても死にはしないかもしれないが、今回は試験。死に物狂いで戦うものではない。いや、戦闘は命がけだが。
築波はヨウの返事に頷くと、すぐさまホロウを発砲する。
バンッ!
重低音が響き、黒い閃光が視界に映る。打つ放たれた弾丸は高緑族を絶命させようと迫るが、相手は横に体を大きく動かし、回避する。
間髪入れず高緑族は剣を連続で振う。だが、築波は軽やかな動き、そして足技でその全てを回避。
「よっと! 体術では負ける気がしないよ!」
逆に、攻撃の合間に築波は反撃する。後ろ回し蹴りが高緑族の顔を捉えた。同時に足の拳銃が火を噴く。蹴りと銃弾が顔を捉え、その体を大きく吹き飛ばし、十数m先の木に激突。物凄い音と共に木をへし折った。ドシンッ! と、気が地面に落ちる音が聞こえる。同時に、砂煙。
「ふぅ、こんなものかな」
「……いや、なんかもう、すげえなおい……圧倒的じゃねえか! 俺の苦労どうなったんだよ!?」
「まぁまぁ。死ななかっただけ儲けものだよ。それに、緑獣族自体は討伐できたんだし。それに、高緑族ももう死んでるよ」
築波の言葉にへし折れた木の方へ眼を向ければ、砂煙が晴れてきた。
そこには、無残に顔に穴が開いた高緑族の姿が。血を吹き出しながら身体がぐちゃぐちゃになっている。
「とりあえず、助けてくれてありがとう、築波さん」
「礼には及ばないよ。これも仕事だしね」
「とりあえず、後は緑獣族の武器や体の一部を回収しよう」
「そうだな」
二人は緑獣族の骸が抱く、武器を回収しようとする。それがヨウの人類同盟試験内容だ。正直に言えば、高緑族を相手にする必要は無かったが……そこはしょうがないだろう。討伐できるなら討伐した方がいい、というものだ。
「結構文明的だよな、魔物って」
「当たり前だよ。緑獣族はどっちかっていうと、魔物の中では人間に近いからね。武器も、森に迷い込んだ人間や誰かが落とした道具とかを使う」
「あ、あはは、そうなのか……」
ヨウの脳裏に、『超越の魔宮』の森にて、緑獣族達の道具を拾い、使っていた自分の姿が移る。そう考えれば、あの時は立場が逆転していたわけだ。思わず苦笑いが漏れてきた。
そして二人は道具を回収し終え、ヨウの万物収納異空間展開鞄へ仕舞う。そして町へ戻ろうと歩き出、
築波が叫んだ。
「ヨウ君ッ! 注意しろ!」
「ッ!?」
バゴンッ!
────空中から魔物が降ってくる。物音を立てながら着地した魔物は、その眼を光らせた。その瞬間、築波は大きく横に跳ぶ。だが、ヨウは回避できなかった。
その瞬間、ヨウの足が根元からピキピキと石化しはじめるが、
「ッ!」
「これで!」
驚くヨウに対し、築波はすぐさま弾を抜き、中身の入っていないホロウを発砲する。バゴンッ! と音がし、ヨウの石化が収まった。空気砲、もしくは何かの特殊能力だろうか。
「助かった……こいつは……」
「なんで、こんなところに……こいつはヴォレシアン帝国付近にうろついている魔物のはずだ!」
築波は魔物を睨む。同時に魔物はのっそりと起き上がり、その赤い目で二人を睥睨し、威嚇する様に翼を広げた。
「■■■■■─────ッ!」
「────石化鳥!」
登録試験はまだ、終わらない。
コカトリスだったぁあああ!(修正完了)




