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最弱で駆ける道  作者: 織重 春夏秋
第二章 『ギルセル王国第三都市セルビス』
21/34

第二十冊 『冒険者ギルド』

不安要素があったので朝に投稿です。

※一部修正しました。

 セルビスへと入れば、辺りを包むのは喧噪だ。どこ彼処も賑わっており、値段を値切ろうとする声や、今日の夜に肉を強請る子供の声も聞こえている。その様子は、敢えて言葉にするのなら─────


「─────正に、異世界」

「ん? ヨウ君如何したの?」

「うえぇ? あ、いや、なんでもない」


 ティアの疑問のに呆けた声を出し、ヨウは首を振って意識を戻す。

 眼の前に広がるのはまごうことなき異世界で、その感想は正しいものだ。だが、それをこの世界の住人であるティアに理解できるわけがない。ティアはヨウが此処とは違う世界から来た、という事は知っているが、だからと言って理解とは程遠い。


「それにしても、かなり賑わっているな……俺の居た世界じゃ、こんなに賑わっていたのは都会の方だけだぞ」

「都会?」

「あー……王都のところだけだった」


 ティアはヨウの訂正に納得すると、頷く。

 都会という言葉はティアには理解できないことを一瞬忘れていた。だが、そこはヨウの異世界知識で誤魔化す。ヨウの記憶には『東京』が入っていて、実際首都であるのだから、あながち間違ってはいないはずだ。


「とりあえず、この賑わいについては歩きながら話すよ。とりあえず人類同盟ギルド支部へ向かおう。この世界で活動するんだったら、登録は必須だよ。案内するから付いてきて」

「ああ、頼むぜ」


 町の奥の方を指さしながら、ティアはヨウを先導する。人類同盟ギルド、異世界では定番の組織だ。お決まりではランク制度が有ったり、初見で絡まれたり、珍しい素材を持っていったらギルドマスターと面会したり。その手のテンプレが溢れている。


「この町、正確には都市はね、『観光都市』として有名なの。一面に特化していたり、特徴がある訳ではないけど、他国との交流が盛んで、貿易も富んでいて、基本的にどんな種族に関しても開放的。だから、自然に人が集まりやすいの」

「尖った特徴は無いけど、様々な面に特化している、と言う訳だな」

「そう。他にも、いろんな施設が揃っているの。他の都市や国にない施設だって、大抵セルビスには揃ってる。人類同盟ギルド然り、クラメント商会然り」


 ティアの説明が始まる。ギルセル王国のセルビスは、そんな特徴で有名な都市らしい。この都市に居れば大抵の道具が揃うから、自然と人が集まる。それが拡大して、観光都市になった、と。


「クラメント商会? なんだ、それ?」

「クラメント商会っていうのは、この世界で一番大きい商会の名前。創設者:リゼシャロッテ・クラメントが作った商会よ。気に入った町にしか支店を置かないんだけど、この国には置かれているの。メインストリートのやや西にあるらしいよ」


 出てきた新しい単語について質問すれば、その答えを返してくれる。今すぐは覚えられないだろうが、生活の一部と成れば自然と覚えるだろう。もっとも、後数百日の内に神を殺さなければいけないのだから、生活の一部に成ったら手遅れかも知れないが。


「らしい?」

「実は、私も行ったことが無くて……この町に来てからすぐ、超越の魔宮に向かったから」

「じゃ、登録終わったら行ってみるか?」

「そうだね。ついでに服とかも見繕おっか。ヨウ君のは私に任せてよ!」

「頼む。この世界の服なんかについては疎いからな」


 才能が無いし、ファッションセンスも比例して無いのは明白。どうせいい選択が出来ないのなら、人に任せる方がいいだろう。武器は龍神の剣があるからいいにしても、防具にしては少し考えた方がいいかもしれない。アニメの様に戦闘中ずっと軽装というのも、ある種異様な話だ。ティアの場合は動きが遅くなるため、軽鎧の類を装備しているが、ヨウの場合は龍の魔力による身体強化が可能なため、重量の問題は解決できるかもしれない。


「あはは、見るからに疎そうだもんね。ヨウ君って。だって、外見が物語ってるもん」

「……カルムの苦労が分かった気がする」

「?」


 ティアの天然を受け流し、ヨウは苦笑いをする。その頻度が多くなっているのは、心に余裕が生まれてきた証拠だろうか。この前まで死にかけていたから気を抜けなかったが、それが解消されているのなら、それは望ましいことだ。


 そこでいったん会話が途切れるが、ティアは『そうだ』と口に出し、顔だけをヨウの方へ向けて話し始めた。


「これもまた、洞窟を出て思い出した事なんだけど、ヨウ君ってさ、『コトナ』の人に似てるんだよね」

「『コトナ』? 其れも場所の名前か?」

「うん。コトナっていうのは国の名前。小さい国なんだけど、特徴的な文化が存在してるの。その辺についは今は説明しないけど……ヨウ君って、其処の人に似ているんだよね。黒髪、黒目。あ、片方は赤かな?」

「え、赤?」


 そう言われて、ヨウは自分の眼に意識を向ける。鏡が無いから確認できないが、変化しているのだろうか。だとすれば、龍神の力を継承した影響だろう。身長も変化していたところを見ると、下手したら体の他の部分も変化しているかもしれない。

 身体の変化が、『肉体の強化』なのか『龍神の体に近づけている』なのかは分からないが、赤目は恐らくヴァリアントレリオンの眼を受け継いだのだろう。


「気づいてなかったな……なんか赤って変じゃないか?」

「え? 全然変じゃないよ。ほら、私の眼だって空色なんだし」

「そりゃ、そうなんだが……」


 空色の瞳。ティアの場合は綺麗だし、似合っているからいい。だが、ヨウの場合は分からない。十数年連れ添った自分の眼が、赤目に変化しているというのは少し違和感を感じる。異物が入り込んでいる様な、そんな感じ。


「ヨウ君だって、かっこいいんだから。胸張ればいいの!」

「ちょ、いた」


 ティアは笑いながらヨウの頬を引っ張ってくる。すぐ離されたが、びよーんっ、と引っ張られたので、少し痛い。ヨウは自分の頬を撫でながら、


「……お世辞でも嬉しいけどよ」

「? ほんとにいってるんだよ? ヨウ君はカッコいいって」

「フィリアの能力があったらなぁ……」


 世辞ではない。そう言われて、少し頬が赤くなった。ティアの場合、世辞の場合は世辞という。だが、世辞ではない、と断言している以上、それは世辞では無いのだ。

 幸いにも、引っ張れたところと同じぐらいの赤さなので周囲からはバレてはいない。だけど、ティアには筒抜けのようで。


「あ、照れてる? ねぇ、照れてる?」

「……照れてない」

「照れてるよね? ね?」

「……んん! いくぞ、ほら!」

「誤魔化さなくてもいいのに」

 

 恥ずかしくなって、咳払い。そしてティアの背中を押して進んでいく。褒められ慣れていないのもあるが、ティアに褒められる、ということ自体が恥ずかしい。ヨウはティアが好きだ。洞窟でのことも在り思いを伝えるなど出来ていないが、それでも、好きな人からカッコいいと言われたら、大概は照れてしまうだろう。


 その後、数十分以上歩いたところで、セルビスのに中央通り到着した。そして、一際気配の違う建物を見つける。

 全体的に大きく、年季が入っている。二階建てで、入り口には映画でよく見る酒場のドアによく似たドアが付いており、上の方にはデカく、『一本の杖から魔力の様な不定形が出ており、それが螺旋状に成っている』マークがついていた。そして、さらにその上には『人類同盟ギルドセルビス支部』と書かれていた。


「ここか。意外に遠かったな」

「しょうがないよ。各都市の人類同盟ギルド支部は、大体その都市のメインストリートに設置されているから。どこの街門から入っても同じくらいの歩行距離で付ける様に作られているらしいよ?」

「有難いのか、迷惑なのか……まあいいや」


 大体メインストリートに設置されている、というのなら、かなり重要度が高いんだろう。

 だが、交通手段が徒歩と(おそらく)馬車などしかない以上、外から入ってきた者にとってはあまり利点の無い話だ。いっそのごと、都市すべての入り口、そしてメインストリートに設置すればいいのでは、と考えもしたが、それはいろいろ問題があるのだろう。


「んで、この螺旋状のマークは何だ? 魔力の塊か?」


 指で指し示す先、人類同盟ギルドのマークだ。端から見れば不思議でしかなく、動物などであったなら『あぁ、これは人類同盟ギルドのトレードマークなんだな』と理解できる。が、杖であるが故に分からなかった。

 しかし、ティアは首を振る。

 

「さぁ……私はあまり気にしていなかったけど、このマークなんだろうね? そういえば、他の国だと別のマークだったりするけど……何か意味でもあるのかな?」

「杖ってところも妙だよなぁ……ティアが分からないんじゃ仕方ない。中の職員にでも聞いてみるよ」

「うん、ごめんね」

「いいって」


 わざわざ謝る律義なところに笑い、「さて」、と二人で中に入ろうとする。ドアを開き、中へ入れば、其処は受付のようなところだ。というより、想像した通りの『ギルド内部』と言った感じである。奥には複数のカウンターがあり、その横の壁には紙が乱雑に張られている。建物の横側にはバーカウンターがあり、イスもいくつか並べられていて、酒場も兼ねているようだ。


 かといって、人が飽和しているのかと言われればそうでは無い。現在室内に居るのは、バーカウンターのマスター一人、冒険者(と思われる人間)四、五人。閑古鳥とまではいかないにせよ、それなりにガラン、としていた。


「案外人数少ないんだな……ギルド、って、もっと人が多いイメージあったんだが」

「依頼を受ける人はもっと早く。それこそ朝に来るだろうから。今は昼過ぎだから、酒場に来る人もいないしね」

「まぁ、登録するなら人がいない方がいいか」

「そうでもないよ」


 登録にどれだけ時間がかかるか分からないが、人が少なければそれだけ早く済むだろう。そう思ったのだが、どうやら人がいた方が利点もあるらしく、ティアはそれを否定した。


「登録する時に人がいれば、新星ニュービーとして注目されるかもしれないから。そりゃ、本当に実力も経験も無い初心者なら、何れは注目度も下がっていくだろうけど、ある程度の実力があれば、パーティーの誘いなんかも来るしね。利点はそれなりにあるよ」

「一長一短ってやつだな。けど、別に注目されなくてもいい。俺達の目的は『別』にあるんだから、人に注目されようとされまいと変わらないだろう」


 あえて、神、という言葉はボカしておいた。こんなところで『神を殺すのが目的』なんて口走れば、何が起こるか分からないからだ。当然この世界にも神を信仰する文化はあるだろう。この場に信仰者がいるかは分からないが、いたら大問題である。


 ティアはヨウの言葉に「そっか」と納得する。やはり、ティア的には、まだ冒険者目線で物事を考えるのだろう。『超越の魔宮』へ向かったのも知名度とランクを上げるためとのことなので、それ等に関連する出来事は嫌でも考えてしまうのかもしれない。


 そして二人は受付へ進もうとする。だが─────


「ん?」

「え?」


 ─────受付。窓口の数は五つあるのだが、そのうち一つしか人間がいない。さらにいえば、思いっきり顔を机に突っ伏している女性が一人。金髪のロングの女性だ。いや、もう見事なまでに寝ていた。いびきや涎は出ていないが、規則正しい呼吸の音がはっきり聞こえてくる。


「あのー……」

「……………」

「すいませーん…………」

「…………………………」


 駄目だこりゃ。


 一瞬に悟った。このタイプは何をしても起きないタイプだ。異常事態や自ら起きない限り、早々目を覚ます事は無いだろう。目の前で手を叩いてみたり、頭を叩いてみたりしたが、反応が無い。とりあえず、髪はふわふわだった、とだけ言っておこう。

 さて、どうすかな、と考えていると、ティアが前に出た。


「ティア? 何か手でもあるのか?」

「たぶんね……『魔力漏れてますよー』」


 ガバッ!


「ふぁぉい! すいませんッス!」

「!?」

「……やっぱり」


 ティアがその言葉を言えば、突然突っ伏していた女性が飛び起きる。そして声を上げれば、周りの視線が一気に集中した。恥ずかしそうに顔を赤らめ、女性は周りにぺこぺこと謝る。周りは、『なんだ、またの子か』とばかりに目線を外していく。どうやらこの現象は日常茶飯事らしい。受付嬢が寝るのが日常とか、大丈夫なのだろうか。

 女性はため息を付くと、目を擦り、カウンターの席に座った。だが、その表情はまだ眠そうで、それが彼女の平常運行なのだろう。


「やれやれ。変わらないね」

「す、すいませんッス。完全に寝落ちてました……ところで、そちらの貴方。なんであの言葉を知っていたんッスか? それに、変わらないとは……」

「え? なんでって……貴方が教えてくれたんじゃない。シーラ。『自分はこの言葉を言われたら、どんな状態であっても反応しますッスから』、って」


 二人は知り合いの様だ。だが、微妙に会話が噛み合っていない。目の前で会話しているというのに、認識がずれている様な違和感を感じる。

 受付の女性─────シーラは少し逡巡したが、やはり見覚えが無いの様だ。ヨウは人の感情を読み取る技術などないが、見た感じ、それが嘘ではないと分かる。嘘だった場合は逆に尊敬するだろう。


「……あの、どちら様ッスか?」

「え? ど、どちら様って……私だよ? ティア。ユースティア・ローゼンヴァイス」

「すいませんが、分からないッス。仕事柄、人の顔を覚えるのは得意なはずなんッスけど……」

 

 おい、仕事柄とか言っておきながらお前さっき寝てただろ──────とは、突っ込んではいけない。そんな軽い口を言える場面ではないと、そう思ったからだ。

 

「でも、そんな……けど、私はあなたのことを知っている。シーラ・ランクスリア。ギルドに所属する受付嬢で、出身はぺシリア王朝。今年で勤めて一年、今年で十六歳。私たちが冒険者を始めた頃に新人として派遣されてきたじゃない!」

「そ、そんなことを言われても……それに、自分は今年で勤めて四年ッス! 名前と出身地は合っているッスが、それは以外はデタラメッス!」

「え? そんな……」


 ティアが捲し立てるが、相手はそれすら知らない様子。記憶の咀嚼に違いでもあるのか? それとも、ティアの記憶がまだ混濁しているのか? それとも、全くの別人なのか? しかし、合っている情報もある……其れから考えられるのは、


「なぁ、ティア。お前の持っているギルドカード、最終更新日とか確認できないのか?」


 ヨウは口を挟んだ。少し、考えがあったからだ。それに、これ以上二人が争うのは見ていられない。ティアの記憶違いだろうと、相手の記憶違いだろうと、こんなところで言い合うのは普通に良くない、というのもある。


「最終更新日? 確認できるはずだけど……そうだよね? シーラ」

「あ、はい。確認できるッス。ちょっと貸してくださいッス」


 ティアは頷くと、懐からギルドカードを取り出す。それを手渡せば、シーラはカウンターから謎の拳大の道具を取り出した。長方形で、黒い道具だ。地球でいうカードをスキャンする機械に似ている。彼女はそれに魔力を込め始め、ギルドカードを翳していく。どうやらそれで情報を読み取るらしい。


「それは?」

「ギルドカードに書いてない精密な情報まで読み取る神製道具アーティファクト、『情報解析用長方形型道具ギルドチェッカー』だよ」

(漸くまとも名前が出てきやがったなおい……)


 それにより、情報を読み取るという事だろう。先ほど横から見た感じ、ギルドカードには『名前、性別』などの、プロフィールが書いてあった。が、ギルドカードにはそれ以上に緻密な情報が組み込まれている。

 しかし、その言葉を聞いたシーラは魔力を込める手を一瞬止め、反応した。そして再び魔力を込め始めれば、口を挟んでくる。


「あの……この道具が神製道具アーティファクトと呼ばれていたのは三年前の話ッスよ? 今はギルドマテリアルと呼ばれていて、魔法具に識別されているッス」

「ま、魔法具? 魔法具って何? 私、そんなの知らないんだけど……」

「知らない? そんなはずは……だって、今や生活の一部ッスよ? 神製道具アーティファクトだと思われていた道具の中に、『人でも再現できる道具』が発見されて、それらの道具が魔法具、と呼ばれる様になったというのは」

「え? ちょ、ちょっと状況が……」

「たぶん、だがな」


 これ以上混乱させるのはいけない、と思ったヨウは、そう切り出す。二人の視線が集中した。少し身構えてしまう。それほど、二人は混乱しているのだろう。ヨウの言葉が真実であろうとなかろうと、解決策を見つけたいのだ。


「ティアが洞窟に向かったのはいつのことだ?」

「人代暦1640年、今年だよ」

「人代暦1640年!? 今は人代暦1643年ッスよ!」

「へ!?」

「やっぱりな……シーラさん? だっけ? もう解析は終わったのか?」

「あ、はい……」


 シーラは解析が終わったギルドカードをティアに返すと、『情報解析用長方形型道具ギルドチェッカー』(ギルドマテリアル?)に目を通し始める─────そして、目を丸くした。


「こ、これ! 最終更新日が人代暦1640年に成ってるッス! 三年前ッス!」

「え、どいうこと!?」

「やっぱりな……ティア」


 ヨウはティアへ言葉を投げる。予想通りなら、それは正しいはずだ。第一、それ以外考えられ無い。ティアが道具に向かったのが人代暦1640年。そして今は人代暦1643年。そして、神製道具アーティファクトと魔法具。其処から考えられる答えは────


「─────ティア、恐らくお前が洞窟に向かってから、もう三年経過してるんだ」


 巡る廻る新事実。まだまだ情報は多そうだ。




「正直、驚いたよ……まさか三年だなんて……」

「自分もッス。まさかティアさんが記憶喪失だなんて……」


 時間は少しばかり過ぎて、情報の整理が終わったところだ。最初は二人も驚愕していたが、今は落ち着き話している。ティアは自分の知るあらん限りのシーラの情報を喋り、シーラはティアが知り合い以上の関係であることをハッキリ自覚した。


 何が原因か、どれが要因か。分からない。分からないが、ティアが洞窟に向かい、ヨウと巡り合い、そして現在に足るまで、合計で三年が経過していたのだ。魔法具は二年前に魔学者(魔力などに関する研究をする学者)によって発見された道具。その存在を、三年前に洞窟に来ていたティアが知るよしがないのだ。


 だが、シーラがなぜ覚えていないのか、どいう疑問はまだ残っている。これについてはいくら話し合っても解決しなかったので、とりあえずは保留だ。

 しかし、何かしらの原因で忘れているのは事実だろう。ティア、カルム、フィリアの三人。彼ら彼女ら程印象が濃い相手など、なかなかお目に掛かれるものではないのだから。


「じゃ、ティアさん……ティア! もう一度、仲良くなりましょうッス!」

「え?」


 突然出された提案に、ティアは困惑する。だが、シーラは手を差し出し、


「記憶が無いのは自分だし、申し訳ないッス。だから、もう一度、仲良くなればいいんッス!」

「シーラ……」

「ティアは自分のこと知っている様ですし、自分がティアの事を知るだけッス!」

「そう、だね!」


 そう言う事である。この二人の関係について、ヨウは全く知らない。だが、仲良くする、ということは良いことだ。

 二人は握手をすると、


「よろしくするッス! ティア!」

「うん、シーラ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ところでシーラ。その『なんとかッス~』は癖なのか?」

「え! なんて!?」

「いや、だからその、何なのかなって……」

「え! なんて!?」

「……」

「え! なんて!?」

「駄目だこりゃ」

「え! なんて!?」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ソラシロ・ヨウさん。年齢は十七。若いッスね」


 とは、ヨウが必要事項を用紙に書き込み、それを確認したシーラの言葉だ。

 若い、と言われてもあまり自分では分からない。目線でティアに尋ねるが、『普通じゃない?』という感じで肩を竦められた。


「ソラシロ・ヨウって名前から考えると、コトナ出身ッスカ? まぁ、書いてないってことはそれなりに事情があるんでしょうし、聞かないッスけど」


 それにしても、白紙の場所が書いてない場合聞かないというのは、というのは凄い良心的だ。そこまで人に飢えている感じには思えないが、なにかルールでもあるのだろうか。


「得意武器は剣、適性は……皆無ッスか。それはお気の毒に……」

「同情はしないでくれよ、シーラ」


 得意武器は書いておいたが、龍魔法については書いておかなかった。というより、『俺が使うのは龍神の力だぜ!』なんて言えるわけがないからだ。

 ちなみに、ヨウがシーラと呼んでいるのは、そう呼んでくれと言われたからである。


「ちなみに、ティアの適性は何なんッスか?」

「ギルドカードを見た時に確認しなかったの?」

「見そびれたんッスよ。気に成るから教えてほしいッス」


 シーラは興味津々、という感じで尋ねる。

 そういえば、ヨウもティアの適性については知らない。少し気になる所ではある。ティアは少し考える様なそぶりを見せるが、言う気になった様だ。


「まぁ、ティアは剣士だからな。そこまで適正はなさそうだが──────」

「えーと、炎に適性が無くて、水魔法が中級まで取得可能、後は風魔法が上級まで取得可能だったはずだよ? 土もそれなりにあったはず……」

「やっぱりティアも才能溢れてるじゃねえか! 俺は適性皆無なのにぃ!」

「が、がんばれッス! 世の中魔法だけじゃないッスよ!」


 同類かと思いきや、まさかの才能が有った。カルムほどでは無いが、あの剣の腕に魔法の適性までそれなりに持っているとなると、少し悔しかった。シーラの気遣いが逆に響いてくる。

 ティアは『?』マークを浮かべながら不思議そうにしていた。此処でなぜ天然を発揮するのか……あ、天然だからか。


「で! と・り・あ・え・ず! ギルドについて説明するッス!」

「よしこい! 魔法なんてしらねえ!」


「ギルド─────人類同盟ギルドとは、主に冒険者ギルド、商業ギルド、魔法ギルドの三つから構成される総合組織ッス。『日々の生活の助けに』をモットーに作られた組織で、冒険者ギルドが一番有名ッスね。冒険者ギルドは魔物討伐、採集。商業ギルドは雑貨、武器、等々の販売。かのクラメント商会も、商業ギルドに所属しているッス。魔法ギルドは、新種類の魔法の研究、魔法具の開発などをしているッス。また、人類同盟ギルドはその規模から、国以上の権力を持ち、人類同盟ギルドが無くなれば世界が崩壊すると言われているほど、巨大な組織ッス」

「ふむふむ」

「この冒険者ギルドでは、誰でも冒険者に依頼をすることが出来るッス。所謂便利屋ッスね。けど、魔物討伐などを夢見て冒険者を志す人が多くて、一番有名ッス」


 どうやら、地球で言われているギルドとは少し、違うらしい。大部分は合っているようだが、人類同盟ギルドは複数存在する。冒険者ギルドはそのうちの一つだ。


「冒険者ギルドには、仕事の具合や実力によって定められたランクがあるッス。最初はGから始まって、一度でも依頼を達成すればFランク。これ以上はプラスやマイナスが増えていきます。そこから、F+。E、Ⅾ、Ⅽ、B、A、S、SS、SSS、Ⅹランクと上がっていきますッス」

「Ⅹランク?」


 SSSまでは聞いたことがある。ラノベなどでもよく使われる設定だ。だが、Ⅹランクというのはあまり聞かなかった。最後に来るぐらいだからすごいのだろうが、単純に『Ⅹ』と言われても見当がつかない。


「Ⅹランクというのは、ギルドの最高戦力を表すランクッス。世界に数人しかいなくて、異常事態、災害、人知を超えた厄災の時に出動する人達っすね。誰もかしこも歴史に名を残す人達ばかりで、ちょうどこの国にも一人いる筈ッスよ? 確か……『灼熱皇帝インフェルノエンペラー』が」

「い、灼熱皇帝インフェルノエンペラー? 二つ名、ってやつか?」


 それが名前だとは思えず、そう尋ねる。二つ名とはよくある話だ。

 その人物の活躍ぶりや功績によって、周りからそう呼ばれて、いつの間にか根付いたり。自分から名乗っている場合もあるだろう。


「そうッス。基本的にⅩランクの方々は素性を知られない為に本名などを明かされていないんッス。んで、そういう人たちは二つ名────人類異名ギルドネームがつけられるんッス。けど、二つ名自体はAランク以上だと人類同盟ギルド公式に名付けられるッスよ? ヨウさんも、Ⅹランク目指して頑張ってくださいッス!」


 Ⅹランク……ヨウの目的は神を殺す事だが、そんな事を言われると目指してくなってくる。世界に数人しかいない最高ランク、だなんて言われたら、それこそ厨二心が疼くというものだ。

 シーラはうカウンターの横を指し示し、


「続いて、依頼についてッス。依頼はカウンターの横にある掲示板に張られている紙を持ってきてくれれば受けれるッス。採集依頼については一つ上まで、討伐依頼については同ランクの依頼まで受けれますッス。また、期限内に成功できないなど、依頼に失敗した場合は、罰金と、ランクを上げるためのギルドポイントの減少があるッスから、注意してほしいッス! また、Ⅽ-以上の依頼は、受ける本人がⅭランクに成っていること。そして、特殊な試験を受ける必要があるッス」

「特殊な試験?」

「Aランク以上の冒険者と戦ってもらい、その戦いぶりを見てギルド役員とAランク冒険者が大丈夫と判断すれば受けれるッス。さらには、どんなランク、例えばGやFランクであっても、『いや、これはⅭでも大丈夫だろう』、と判断された場合は、Ⅽへ昇格となるッス! 詳しくはこの冊子を見てくださいッス」


 説明が一通り終わり、渡されたのは冊子と、ヨウのプロフィールが書かれたギルドカード。ティアの持っているカードと同じだが、そのランクには差があった。


「俺が登録したばかりでG……そういえば、ティアは何ランクだっけ?」

「私はB+だよ。あと数十回依頼を受ければ試験を受けれる感じかな」

「B+か……」


 ティアでもB+。この世界の実力の基準が分からないが、ティア以上の人間はゴロゴロといると言う事だ。先ほど話していた『灼熱皇帝インフェルノエンペラー』だって、どこまでの強さか計り知れない。ヨウ以上なのか、分からない。


「これで説明は以上ッス。依頼を受ける際はまず監督官を同行させた上での試験が必要になるッスが……」

「監督官?」

「その人が基礎的な能力を持っているかどうか、を判断する監督官ッスね。基本的には冒険者であればだれでもいいんッスが、ランクが高い人を連れて行くのが推奨されているッス」

「ちなみに、試験の内容は?」

緑獣族ゴブリン討伐ッスね。出来ない場合は薬草採集になるッス」


 緑獣族ゴブリン討伐と薬草採集を選べるのは、戦闘力が無い人への救済措置だろうか。

 とりあえず、人類同盟ギルド登録は済んだ。だが、試験が必要な様だ。監督官は冒険者であればだれでもいいという話だが、ティアに頼むべきだろうか。


「ティア、頼めるか?」

「んー……それなんだけどね。私、少しやりたいことがあるの。三年、私の知識とズレがある訳でしょ? その違いをしっかり調べたいの」

「なるほどな……」

「もしかしたら、ヨウ君に教えたことも違っているかもしれないし、なるべく早くしたいから……試験を受けるのは後回しでもいいかな?」

「大丈夫だ」

 

 ティアが申し訳なさそうに言ってくる。そういう理由なら仕方ないだろう。時が流れていることに一番困惑しているのはティアだし、安心したい気持ちはわかる。そう思ったヨウはそう返事をし、じゃあどうするかど考え始め─────


 バンッ


 ──────不意に、ドアが開けられた。その瞬間、ギルド内の視線がそちらへ向く。 

 入ってくるのは一人の青年だ。黒髪、黒目で、美形だ。全身を執事服の様な黒い服で包んでおり、圧倒的な存在感を感じる。両方の腰に付けたホルダー以外の装飾品は見られず、全体的に身軽そうである。

 なにより、物腰に隙が無い。どこから飛び込んでも殺されそうな感覚がピリピリと伝わってくる。これは感覚が優れている者、一定以上の実力を持つ者にしか分からないだろう。


 少なくとも、今のヨウには敵わない。そう確信させる何かがあった。


「……誰だ、あれ」

「強い……!」

「──────こんにちは。新人さんかい?」


 青年は静かに歩み寄り、二人に話しかけてくる。そこでヨウはハッとしたが、それでもなんと返事をしていいか分からない。例えるのなら、『新人の芸人がトップスターを見た時、緊張してしまう感じ』だろうか。敵わないと確信できる相手を前に、緊張してしまったのだ。

 シーラは身を乗り出して、


「ツクバさん! おかえりなさいッス! 調査はもう終わったんッスか?」

「うん。終わったよ。けど、今回も強敵だった。体長20mぐらいある大蛇を相手にしたけど、発砲・・して倒せなかった相手は久しぶりだよ。『銃闘法じゅうとうほう』が聞いて呆れるね」

「またまたぁ。ツクバさんはいつも謙遜してるッスねぇ。偶には傲慢に成ってみてもいいんじゃないんッスか?」


 ツクバ────そう呼ばれた青年は手を顔の前で振り、「悪いけど、こういう性格でね」と苦笑いした。どうやら二人は、正真正銘の知り合いらしい。


(この人……今なんて言った? 銃刀法・・・? 日本の法律だぞ……)

「シーラ、この人は一体……?」

「あ、この人っスカ? この人は────」

「いいよ、シーラさん。ボクが自分で言うから」


 シーラが説明を始めようとするが、ツクバは手を出し、それを遮る。そして浅く息を吸うと、


「────僕はギルドランクSS、人類異名ギルドネーム:『銃真万来ガンスリンガー』の築波・・・レイライン」

「SS!?」


 ティアが驚きの声を上げる。それに対し照れ臭そうにツクバは─────築波は頬を掻くと、ヨウに対し手を出す。握手だ。反射的にそれを握り返せば、ふっ、と、力を入れられる。油断していたヨウは築波の方へ引き寄せられた。そしてヨウの耳元へ口を近づけると、


「よろしく。『転生者』同士仲よくしよう」

「──────ッ!?」


 驚きの一言を言ったのだった。


今回の章ではシーラよりも築波が大事ですかね。

あ、ブックマークがつくと泣いて喜びますのでできればお願いします。モチベーションの向上にもつながりますので。

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