第十二冊 『龍神:ソラシロ ヨウ』
ルビ、本領発揮でございます。あと、異世界人って皆カタカナですよね。名前
───G4L1G4I5
─────J2RH2A3L2J3
────────『B2G2j3B5I5Ⅽ4』
「────ぁッは!」
気味の悪い残響、木霊する謎の言葉の羅列、それらを聴き、空城陽は────ソラシロ ヨウは目を覚ました。荒い息をつき、右手に力を込めた所で、本を握っていることに気づく。紅い本、それの一文を読んだ所までは覚えている。
「何が……」
ヨウは原因を探るため、立ち上がろうとし───違和感、そして転びそうになった。
少し声を漏らし、足を前に出してそれを阻止する。だが、それらの一連の行動すら、違和感を感じる。新しい魔法を試している時の様な、新しいことを始めているかの様な、そんな感覚。
前を向けば、違和感の正体に気づいた。
「え?」
目線が高い。
例えるのなら、脚立や何かの上に乗った時の様な感じだ。今までとは違い、見えていたもの全てが少しだけ、下に見える。具体的に言えば……5,6Ⅿといった所だろうか。他人から見ればそれほどでもないが、本人にとっては大きな違いだ。
「どういう……」
一つだけ言えるのは、目線は高くなっているのに、陽の足元には地面しかないという事。その場だけ盛り上がっていることも無ければ、洞窟全体が小さくなっている、という事でもない。つまり……ヨウはデカくなっていた。物理的に、身長的に、大きくなっていたのだ。
転びそうになったのも、今までとは感覚が違うからである。いきなり身長が伸びていて、すぐ対応できる人間など稀有だろう。ヨウがその手の『特殊』を持っていないのは自覚している。その他大勢の一人、それがヨウだ。
─────自身は気づいていないが、その容姿は変化している。髪の色などは変化していないが、目の色が黒と赤の左右非対称眼に変化している。
「っ、そういえばっ」
右手の本を地面に置き、服の袖を捲る。すると、目覚める前より筋肉が少しついていた。今までは見ても分からないぐらいだったのに、明らかに差が出ている。といっても、筋肉ムキムキ、という感じではなく、細マッチョ、という感じである。他にも、全体的に引き締まっていたし、鼻も高くなっている気がする。
─────陽自身は気づいていないが、その顔も変化していた。髪の色などは変化していないが、目の色が黒と赤の左右対称眼に変化している。
ヨウは再度本を拾い上げ、開く。そこには先ほどの一文。『我は龍神、龍神の後継者成り』、それが全く変わらず書いてあった。
「龍神……後継者……?」
あの時、首を切られた時(今生きているのだから、錯覚だったのだろうが)、脳内に響いた言葉。脈絡も無ければ、意味も不明だ。
「龍神って、なんだ……?」
分からない。情報が少なすぎるし、何より意味不明だ。何を言っているのか分からない。恐らくこの本が何かを理解できれば別なのだろうが、それは無理だ。
ただ一つ言えるのは、今のヨウの状況と、本、そして脳内の言葉、それらすべてが関連性を持つという事だけである。
「……わからない」
考えても無理な妄想だけで結論に至らない。普段ならばオタク知識を存分に発揮して考える所なのだが、混乱して頭が正常に回っていない。のだが、頭が回っていないことを理解しているが故に落ち着こうとして、逆効果になっていた。とてつもなく歯痒い。
「くそっ、分からねえ……龍ってなんだ? あの壁画か?」
ヨウは少しイライラして、地面を足で叩いた。体も満足に扱えず、現状も理解できない。今だティアやフィリアが脳内にちらついているのだ。怒るのも無理は無いのかもしれない。
叩いた地面は当然砕けることもなく、すかっ、という音を鳴らして……と、普通は成るはずだった。
叩かれた地面は砕け、穴ぼこの様になり、空中に破片が散る。ヨウの足によって地面は砕かれたのだ。
「……、……おいおい」
驚く、というよりは溜息に近い。異常が立て続きに起こっているせいであまり動揺はしなかったが、それでも驚いてしまう。こういい方もなんだが、先ほど無力だった自分の足が地面を砕いたのだ。
そこでヨウは、一つの考えに達する。
「……本によって俺の体が変化して……?」
地面を砕くほどの脚力。ハッキリ言って異常だ。魔力を込めたつもりも無ければ、そんな雰囲気もしなかった。ただ、怒りに任せて地面をたたいたというだけの事。それに全力ではない。いや、全力でも、地面は砕けない。
「……じゃあなんだ? 本は体を変える魔法みたいなもの? 強化?」
そう考えるのが妥当だろうか。本を読んだ瞬間に気絶し、起きたら強化されていた。これは間違いなく魔法─────いや、違う!
「っ、龍神!? 後継者!? それって───!」
目を見開き、ヨウは焦りながら紅い本の文を見る。
『我は龍神、龍神の後継者成り』─────理論や原理、理由は分からない。だが、この本は龍神の後継者を定めるものなのだろう。分からない、正しいことは分からないが、今はそうとしか考えられ無い。
龍神、カルムの話などでは聞いたことが無かった。そもそも龍という存在について初めて聞いたのが先ほどの壁画だったし、そんな強力な魔物とは遭遇したことも無い。
「……後継者? ……わからねえ」
地面を砕いた力も、龍神の力、という事なのだろうか。だが、何故本なのか。後継者ということだから、龍神の力を継承するのだろうが、何故先代龍神はいないのか。わからない、わからない、そうやって何度も考え────
状況を終わらせるような莫大な情報が、頭の中に流れ込んでくる。
『歴史───』
声も分からない、何処から響いてくるかも分からない、風前の灯。死に際の朧景色、その瞬間に差し込まれるただの言葉だ。脳内に直接文字を書き込まれる様な気持ち悪さを感じ、ヨウは手から本を落とし膝をつく。
「くっぅ……うぅ!」
────そこからは、唯の言葉の欄列だ。
『歴史────この世界には、昔神が繁栄していた。神人族、森神族、龍神族、狼神族、豚神族……名称はそれぞれ、形もそれぞれ、生活もそれぞれ。小規模の戦いなどは起きながらも、地球とは違う『魔法』という力を扱い、生命は平和に暮らしていた。
だが、ある時、森神族と狼神族の間にて、領地の奪い合い、詰り戦争が発生した。それは『狼森戦争』と呼ばれている。
勝者は狼神族。森神族の領地は一時的に奪われることになるのだが……そこは問題ではない。
その戦争はかなり規模が大きく、魔法の力に優れていた森神族が力を開放したせいで、世界の法則が乱れ、『生まれ行く生命』に影響が出てしまったのだ。
というのも、狼森戦争から数年後、多数の種族で『劣化した存在』が生まれるようになったのだ。
数も少なく、魔法も満足に使えない劣化した存在は、大抵どこの種族でも負け組の人生を歩まされたり、奴隷として扱われた。
『強大な力を持つ存在』は『劣化した存在』を『劣化種』と蔑んだ。
『劣化した存在』は『強大な力を持つ存在』を『強化種』と崇めた。
その頃からだ。『人の形をしている劣化種は人間』、『獣の形をしている劣化種は野獣』、そういう認識が生まれたのは。人間族、森人族、海人族。人の形をしている者は種族名に『人』を。
豚獣族、狼獣族、蜥蜴族。獣の形をしている生物には種族名に『獣』を(一部例外はあるが)入れ、名称しているのだ。
端的に言えば、『人型ならば人間』、『獣ならば野獣』、そう名所付けられているのである。森人族などは人間と定義されている。『人間の形をしているのならばとりあえず『人間』扱い』と言う訳である。地球で言う、肌の色が違うだとか、そう言う扱いなのだ。
最初は少なかった。劣化種は百万に一程度だったのが、十万に一、一万に一、千に一……神が生まれる数が減り、人間や野獣等のが生まれる数が増えたのだ。
相変わらず力は神の方が上の為、関係は覆らないものの、焦りを覚える神が増えていったのだ。
その時、神の間で二つの勢力が発生した。『劣化種をこれからの世界の中心とし、繁栄を願う』、劣化種肯定派。『劣化種を下に据え、神が中心の世界を望む』、劣化種否定派。
当然起こるのは戦争。世界全土を巻き込み、いくつもの国を崩壊させ、これからの世界を決める戦い……『第一次神世界大戦』。それは数十年も続き、決着はつかなかった。
そこで当時の神人族のリーダー、死記神がある一つの提案を全神にした。
『神の中でもリーダーを一人定め、その者だけを残し他全員が死ぬ』────狂気の提案だ。
だが、強化種は生命力が強いため、死んでも『精神生命体』として生き続ける。本当に死ぬわけではないため、強化種にとって、死とは『死』では無かった。
全種族はその提案を渋々受け入れ、王を決定。戦争は終結した。
だが、手違いが起こり、『龍神族』は全滅してしまったのだ。といっても、内部で反対意見が出て、争いに成り滅んだだけだが。こうして世界に平和が訪れる。
とうとう上位種は生まれなくなり、『強化種が中心の時代』を『神代暦』。これは神代暦864年を持って終わりを迎えた。『劣化種が中心の時代』を『人代暦』。合わせて『総造暦』。そう呼び、世界はこれからも発展していく─────
────というのが、表の歴史。
龍神族が滅んだ理由、本来は『龍を恐れた死記神によって滅ぼされた』だったのだ。
世界で神人族を上回る種族は龍以外いなかった。感情で戦況を巻き返す『運命力』、時々出現する『英雄』。強い者の数は少ないが、余りある強さを持っていた。
しかし、龍は全体的に強大だったのだ。戦闘能力を10段階で表すとすれば、龍がそれぞれ『7,8,5,9,5.この様に平均が高いのに対し、神は『2,4,6,3,10』。振れ幅が大きいものの、戦争をすれば神が勝つ。
戦争には勝てるだろうが、龍を恐れた死記神は龍神族を虐殺。理由を『内部の反乱』と称し、隠ぺいした。何故同じ神であるのに、こうも簡単に殺されたのか。それは、死記神ら神人族は、『龍殺し』の力を持っていた。
龍神族、竜獣族に対する絶対殺害権。その力を、有していたのだ。
だが、龍神族もバカではない。死記神に負けると悟っていた当時の龍神────ヴァリアントレリオンは、龍神族の力が滅ばない様、己の力を本として残した。
龍の血族、その誰かの体を丸ごと『龍神に作り変える』技術。それがこの本。それが『赤の魔導書』。それが『龍魔法』。龍神の技術をそっくりそのまま再現する魔法────
────それが真相だ。満足したか? 後継者?』
「っ───────ハッ! 八ァ、はぁ……は”あ……」
死ぬかと思った。今まで感じたどんな痛みよりも強いが、声を上げることも許されない。間髪入れずすべての知識が詰め込まれ、実際今響いた言葉は忘れることなく、一言一句ズレが無くすべて記憶している。
これも先代龍神:ヴァリアントレリオンの力、という事だ。
「……だけど、どうして……」
ヨウは地面に手を付きながら荒い息をつき、だが、確かな意思を持って疑問を抱く。
────どうして、龍神の後継者が『ヨウ』なのだ?
この紅い本が龍神の後継者へ力を譲渡する物という事は分かった、龍神族が死記神に滅ぼされたことも分かった。だが、何故後継者がヨウなのか。
その理由が分からない。定石で考えるのならば、ヴァリアントレリオンの力を受け継ぐのは同じ龍神族、若しくはその劣化種である竜獣族でなければいけないはずだ。
だから、理由が見つからない。何故ヨウが継承出来たのだろうか。龍獣族でもなければ、特殊な人間でもない。特異性といえば言語理解しか─────
────『言語理解(最上)』
「─────!」
何故、気づかなかったのだろうか。言語理解、そして龍しか使えないという『言語』。これが示しているのは即ち、『全ての言語を理解するヨウは、龍しか読めない=龍しか受け継げない力を受け継いでしまった』。と、言う事だ。
「龍神ヴァリアントレリオン……俺が今代……龍神の力を俺は今、持ってる……?」
ヨウは先ほどの地面を砕いた力を思い出しつつ、己の手をまじまじと見る。まだまだ分からないことだらけだ。疑問を上げればキリが無い。そもそも話が突拍子もないし、本の事も、戦争も、神さえも、事実がどうかも分からない─────唯、頭に一つだけ浮かんだことがある。それは、この力ならば、ティアたちを救えるかもしれない……という事。
「────────」
立ち迎える勇気があるとは思えない。どこまで戦えるか分からない。だが、人の神をもってして『脅威』と言わしめた龍神の力なら。地面を砕く、なんていう『チート』の様な力を再現してみせたこの力なら。あのオークを、 倒せる───殺せるかもしれない。
だが、ティアやカルムがまだ生きている保証はない。あの二人がそう簡単に死ぬとは思えないが、フィリアの様に何が起こるのか分からないのだ。死んでてもおかしくない。
考えろ。
(……俺は二人の為に、まだ生きてるかも分からない二人の為に行動できるか……? 使えるかも分かんない不確定の力で動けるか……?)
考えろ。
(フィリアみたいに死ぬかもしれない。助けられるか? 俺に、俺に?)
龍神だなんて訳の分からないこと言われて、フィリアも死んで混乱してて、自分の体の状況すら完全には把握できてなくて。そんな状態で、特殊な正義感や感性を持っている訳でもないヨウが、そんな『主人公』みたいな真似できるのか?
(……いや、違う。こんな状況だからこそ)
やれるのか、ではない。やるのだ。
「─────もう、しらねぇ」
首を掻き毟り、諦めたように声を出す。背丈が変わって操作に成れない体を動かし、本を拾い、耳を澄ます。目的は戦闘の音を聞く事だ。握力や脚力だけが強化されているとは思えない。聴力だって強化されているはずだ、という考えからの行動だ。
(……)
────聞こえる。激しい剣戟が。
ヨウは紅い本を持ち、そちらへ真っすぐ走り出した。
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今まででは考えられ無い速度で走り続け、地面に身体を打ち付ける事数回。ようやくたどり着いた先、そこは地獄だった。
「ッ……はぁ、はぁ」
戦闘の余波か、全体的に砂煙が舞っていた。
オークは右手で巨大な剣を持ち、左手でカルムを握りつぶそうと迫っている。カルムは杖さえ構えているが、魔法を発動できる様な気力も残っていないのだろう。
ティアは神製道具の剣を杖代わりにして、辛うじて立っている。その顔には憎悪が歪んでいて、足元を見れば血が出ており、怪我していることが分かった。意思は強く持っているようだが、体が自由に動けないらしい。アキレス腱でも切れたのだろうか。肉そのものが切れていた場合、初級の回復魔法では治療できない。
息を整える暇もなく、ヨウはその光景に戦慄を覚える。生きていたことは幸いだ。だが、最初ヨウを助けた時の力は何処へ行ったというのか。あの時はオークを一瞬で倒していたはずだ。確かに眼だけだし、今は復活している。しかし、何故ここまでぼこぼこにやられるのだろうか。あるいは、あの時は不意打ちだったから攻撃できただけで、本来ならば相手にするのも馬鹿馬鹿しい様な相手だったのだろうか。
「ヨウ君───!?」
「生きてたのか! よかった……」
二人がこちらへ視線を向けてくる。その瞬間、ヨウは。ヨウは、自然とこの言葉を出していた。
「二人とも────もう大丈夫だッ!」
ここに戻ってきたのは二人を助けるため。死んだフィリアの為にも、二人を助ける。龍神だろうがなんだろうが、今この瞬間、助けるためだけに力を使ってやる……!! カルムとティアだって、少しだけ安堵したような表情をしていた。ヨウの身に『力』が宿ったのを感じたのだろうか。それは別に龍神に関して知っている、という意味ではなく、端的に言えば溢れる力、とでも言うべきものだ。
もっと専門的に言うのならば魔力の強さ、とでも言うべきか。魔力が多いという事は、それ即ち魔法を大量に使えるし、弱い魔法でも魔力を込めれば強力に成る。
今までとは比べ物に成らない魔力量だ。力を受け継いだせいか、魔力自体が何十倍にも膨れ上がっている。そして……一番感じるのは属性の変化だ。
無属性の魔力、つまり魔法に変換される前の、体内や空気中に存在する魔力という物の『感覚』とは明らかに違う。元から属性に染まっている様な感覚だ。あえて言うのなら、『最初から体内で魔法が生成されている』と、いう感じだろうか。
ヨウは紅い本を開き、最初の『我は龍神、龍神の後継者成り』のつぎのページ────『龍魔法:初級』と書いてあるページを見る。この場に来るまでにある程度確認済みだ。
魔力を使用することを感じてか、紅い本自体も輝きだしている様な錯覚を覚える。
体全体から溢れる様な力を感じる。途方もない力の奔流の中心にいるのを、感じていた。気のせいか、爆発する様に高まる力を感じた空気が悲鳴を上げている。小石や壁が不規則に揺れ始め────陽は詠唱を開始し、
声を出せなかった。
(え……? お、お、おい。おい)
声が出ない。魔法を詠唱しようとした瞬間、まるで声帯を失った様に声が出ない。
同時に、足が震え始める。
(……い、いやいや。何やってんだよ。いや、おい、ぉぃ)
冷や汗が出てきて、本を握る手にも力が入らなくなる。全身に漲っていた力も解け、いつも通り、弱い状態に戻っていた。
違う。これは一時的なものだ。染まっている魔力だってあるし、溢れ出る様な魔力だって確かに感じている。だが、それを使おうとした瞬間、冗談の様に体に力が入らなくなった。
(……攻撃? 魔法?)
頭に浮かぶのは現実逃避に等しい言葉の数々。
なぜ、力が入らないのか。なぜ、言葉が出ないのか。なぜ、体が震えているのか。その正体を、ヨウは無意識の内に感じ取っていた。
簡単なことだ──────
ヨウは怖気づいたのである。この状況に、殺されるかもしれないという現状に。
(ふざ、ふざけんなよ……!?)
一体、どこに保証があっただろうか。『強い力を持つ者は強い意志を持っている』、だなんて。異世界物の主人公などはチートを貰い、初めての戦闘でそれを遺憾なく発揮する。
ヨウだって今はその状態だ。
龍神ヴァリアントレリオンの力を受け継ぎ、実際力を実感している。だが、だ。それ即ち、ヨウが強いことに直結はしないのだ。
力は確かに強いのだろう。神の力だ。『神』の力だ。最強クラスといってもいいかもしれない。
だけど、ヨウは普通の人間だ。肉体は『龍神』でも、精神は『人間』なのだ。
少し前にちょっと、命と向き合う覚悟が出来ただけで、人の命を背負うだとか、誰かを救うだとか、そんな決意を一切していない、唯の一般人。
そんなヨウに、神の力など扱えるはずもない。ヨウは主人公の器ではない。与えられた力を活かすことなど出来ない。これは物語では無い────物語の様に良く出来た『現実』だ。空想でも虚像でも無い、まったくのリアル。
何の代償も追わず、覚悟もなく、努力もなく、力を扱える道理など無い。
『大いなる力には大いなる代償が付きまとう』─────正に、その通りだ。
「ヨウ君……!? どうし、」
「─────来るゥッ!」
刹那の硬直。その間にオークは動いた。左手でカルムの首を掴むと、そのまま持ち上げてギリギリと力を入れ始める。
「くぅ、ヴ”ァ、ア”、ア”ァ”ァ”ァ”ア”ア”ア”アッ!!」
「カルム──あぐぅっ……!」
絶叫上げるカルム、立ち上がろうとして、足に走る痛みに呻くティア。
そんな状況、止めを刺す様に、オークはギョロリと、赤目を陽に向け、
『h3j1a2e1,『irh2a3l2j3』.c5e5d4a2m5e1e5b1─────a3c4i5,『b5i5c3l5』?』
意味不明な呂律、欄列。ただ、最後の一言、『b5i5c3l5』。それには明確な殺意が込められていて、
ヨウを行動に移させるには、十分な力を持っていた。震える脚は止まった。そして足を動かし、
「────ハハッ」
「く─────ァ」
「ッゥ─────カルムゥウウウウウウウウウウウウウウッ!!!」
ヨウは二人とは反対側へ、逃げ出した。
最後に聞こえたのは、カルムの壮絶な絶叫、ティアの悲鳴、肉が潰れ、千切れる音。
それが聞こえてもなお、ヨウは止まらなかった。唯全てを見捨て、助けられる力があったにも関わらず、その全てを諦め、逃げ続けた。
ただひたすら、逃げた続けた。
逃げ続けた。
今回出てきた用語等に関しましては、ハッキリ言って、あまり覚えていなくても大丈夫です。飽くまで今回の用語などはヨウ君がどんな知識を得たのか、というのを表している物でありますので。今回の用語は次出てきた時にも説明が入ります。次回もよろしくお願いします。
今回の世界観の説明について分からない場合は、『過去に神の戦争があって、その結果龍が滅んで、龍の力をヨウが受け継いだ』ということを覚えておけば最低大丈夫だと思います……多分(え




