表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱で駆ける道  作者: 織重 春夏秋
第一章 『始まりの洞窟』
1/34

第零冊 『プロローグ』

────真っ白な、空間にいる。

先ほどまでいた場所とは違う景色に、ただただ驚愕を浮かべる。


────どこだ……? 俺はさっきまで信号を渡っていて、トラックに


 記憶の最後がフラッシュバックする。そう、最後に見たのはトラックだ。だが、まだまだ頭がぼやけて、記憶が曖昧だ。

 はっきりしない記憶にイライラしながら頭を掻く少年、空城(そらしろ) (よう)はため息をついた。


 自分の名前以外何も思い出せない。自分は何をしていたのか、いったいどんな人間でどんな容姿なのか。一般常識なのはあるが、自分の情報だけがぽっかりと抜け落ちている。

 いや、容姿だけは、地面に反射され、分かった。日本人らしい黒髪、アーモンド形の目、そして何の変哲もない服。


「目が覚めたか」


 状況を整理するように、陽は視線を巡らせる。やはり白い。白い。縦、横、どこもかしこも白く、距離感すらつかめない。暑さも寒さも感じず、かなり異常な感覚だ。

 ふと、視線に一人の幼女が見えた。金髪で薄い布を羽織っており、まさに天使という言葉が似合うような格好である。

 

 白い空間に、トラックに跳ねられた直後、そして当然のようにいる不思議な人物。

 その情報を紡ぎ合わせ、陽はある一つの結論を導き出す。すなわち、


「……異世界召喚?」

「正解。君がオタクということは知っていたが、こうもあっさり把握してくれるとは。こちらも楽でいいよ」


 ウンウンと頷き、何やら勝手に納得する幼女。

 まだまだ混乱だらけだが、陽が予想した通り、これは異世界召喚らしい。陽はその手の話に目がない。異世界召喚しかり、能力者しかり。


 陽の予測通りなら、目の前の幼女は転生担当の天使、もしくは神のはずだ。

 大概異世界転生する場合は、若くして死んだ者を異世界に送ったり、神様のミスで送られたり、はたまた世界を救ってほしいとかいうパターンである。


「あなたは神様?」

「そうだねー。神様だ」


 陽の言葉を肯定し、幼女改め神は満足そうに息を漏らした。

 やはり異世界召喚らしい。その事実が分かり、陽は少し胸を躍らせた。まさか本当に異世界なんて言葉を聞くとは思わなかったが、状況からみるとそれしか考えられない。トラックに跳ねられ、神とあって異世界召喚でないというなら逆に何だというのか。


「じゃあ、分かっているとは思うが一応説明しよう。空城 陽。あなたはトラックに跳ねられて死亡した。そして異世界転生をしてもらうことになる」

「ふむ……予想通り。こっちも聞くけど、俺は何者? それと、トラックは神様が間違って殺しちゃったり?」


 頭にハテナを浮かべ、陽は言葉を神に投げる。

 なぜならば、前世自分が何をしていたのか気になったのと、なぜ自分は死んだのかが気になったからである。異世界転生の場合、トラックに跳ねられることが多いのはご存知。さらには、神様が間違って殺した、なんて場合もあるのだ。


 命の炎に水を零した、人の幸運がなくなった、人を管理する書物かなんかを破いた、無くした。

 そんなふうに、神がやらかした場合もあるのだ。所謂ドジである。神様は随分職務怠慢のようで、やたらと寝ぼけている場合も多いのだ。


 もっとも、若くして死んだから転生させてあげよう、なんてこともあるが、雰囲気からそんな感じではないと察することが出来る。何かの抽選に当たったような感じでもないし、恐らくその類だろう。


「ん? 別に私がやらかしたわけでもないよ? 間違ってもないし、極々普通だ」

「……じゃあ、なんで俺は異世界転生することになったんだ? 世界が危険なのか?」

「いやいや、魔物はいるが平和だよ。それに、世界を救ってくれなんて普通の人間に頼むわけないじゃないか」


 バカなの? と、挑発するかのように陽を煽る神。言っていることは正しいが、行動はイライラするものばかりである。

 

「なぜ死んだのか、それは私が君を嫌いだからだ。陽君」

「……はっ?」


 唐突に告げられた事実に、思わず陽は情けない声を漏らす。

 その言葉を理解し、数秒。思わず叫んだ。


「はっ!? っ、つまりは何だ。お前は俺が嫌いだからトラックで殺して、異世界転生させようってことか!?」

「ああそうさ。私は君が嫌いだからね」

「え、いや、なんで嫌いなの!?」

「だって君、のうのうと生きすぎだよ。目的もなく自己評価も低い。家族かも疎まれている。私はそんな人間が嫌いだ。君はその中でも群を抜いて卑屈だったよ。だから殺したんだ、ハハッ」


 にヘラっと笑われ、白い空間に金髪が揺れる。

 突然こんなことを言われれば、思わず拍子抜けしてしまう。世界の危機だから! とか、君にしてできない! なんて展開を想像したが、それほど甘くなかったようだ。


 陽は一瞬、目の前の神を殴りたいと思ってしまう。

 しかし、それは叶わないだろう。神というぐらいなのだから、人間を排除するぐらい簡単だろうし、殴れたら殴れたで異世界転生を中止にされそうな気もする。


 自分が生前どんな人間だったのかは記憶がぼやけてわからないが、相当卑屈な人間だったらしい。

 しかし、過去は過去。今は今。そこで陽は話題を変えることにした。


「……まあ、いい。それで、異世界転生をするにあたって、何がもらえるんだ?」


 次に来るのは当然、その欲求である。

 異世界転生は総じてチートを、つまりは強大な力を神からもらって俺TUEEEするのが有名である。魔剣だったり、魔法の才能だったり。

 

 これは異世界転生をするうえで必要なものと言える。たまに何ももらえず放り出される場合もあるが……大丈夫だろう。

 しかし、そんな陽の心境とは裏腹に、神は何言ってんだこいつ? という表情をした。


「ある訳ないじゃん」

「へっ?」

「だって、私君嫌いだよ? だからと言って更生してほしいわけでも無いし、幸せになってほしいわけでもないんだよ。だから、チートは上げない」


 あまりの事実に、陽は一瞬言葉を失う。

 異世界に勝手に転生させると言っておいて、何も用意しないというのだ。そもそも転生自体望んでいる人から見たら天国なのだが、陽はどうしてもチートが欲しかった。


「い、いや、さすがに何かくれないのか? 金とかでもいいから……」

「何にも上げない。最低限の服、最低限の装備で行きたまえ」


 投げやりに言葉を渡され、さすがに陽は怒りを感じ始めた。

 このままでは死ぬことは明白だ。異世界魔獣や魔王軍なんやら危険なものがつきものだ。自分が特別な才能を持っているとは考えにくいし、だとしてもすぐ死ぬそうである。それこそ、チートでもあれば。


「……それ、どういうことだよ」

「ん?」

「死ねって言うのか?」

「……そうだよ。私は君に死ねと言っている。異世界で苦しみながら、ね」


 事実をぴしゃりと告げられ、陽の怒りは頂点に達する。

 さきほど、自分から敵わないなんて考えていたにもかかわらず、神に向かって拳を振るう。


 だが、それは届かない。

 神が瞬時に対応し指を地面に向ける。次の瞬間、陽はガクンッと、体の力が抜けた。というよりかは、足に力が入らない。

 

 下を見れば陽がいる地点の地面が、ぽっかりと丸を作って空いていた。

 

 ──────あ、やばい


 陽がそう思った瞬間。落下が始まった。


「えあ、うわぁぁぁあ!」


 ひどい落下感が、陽を襲う。風が背中を吹き抜ける不快感は、今まで体験したことが無い程のものだった。


「──────『言語理解』は最高のを用意しておいたよぉぉぉ……」


 落ちる陽が最後に聞いたのは、そんな声だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「行ったか……往生際が悪いなぁ……そういえば、言語理解の最上級ってどんな効果だったっけ? ん? 『あらゆる文字、言葉を理解』? ……まっ、大丈夫でしょ」


誤字脱字は一応チェックしていますが、見るに堪えない誤字があった場合、報告などをしてくれると嬉しいです。何分節穴でして。


追記:こんな作品見るくらいだから分ってるかもしれませんが、言語理解とはご都合主義能力です。異世界ですから、地球とは文化。詰り言語も違うわけですが、それだと言語の差でぐだぐだに成ってしまいます。その辺を一瞬で解決してくれるのが言語理解と言う能力です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ