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お断りしたのに、転生させられた。

「……」

 所々跳ねた癖っ毛が特徴的なワインレッドの長髪に、若干吊り上がった翡翠色の瞳。

 そして如何にも冒険者の初期装備的な服にフード付きのジャケットを着た、窓ガラスに映り込んだ謎の美少女の姿を凝視しながら……一歩、後退りしてみる。

 するとガラスに映り込んだ少女も、顔を引き吊らせながら後退した。

「む……」

 手を上げると、同時に手を上げる。跳ねたら跳ねる。全ての動作を、鏡写しで同時にこなして。

「やっぱこの子、オレなのか……ッ」

 ――受け入れがたい現実が、そこにはあった。

 だが、まさか性別まで丸ごと変わる可能性があっただなんて……こんなになるとは考えていなかったから素直に受け止めきれない。

「……いや待てよ」

 此処で一つ、まだオレには俺というワンチャンがあることに気付いた。

 そう、それは……もしかしたら、可愛い見た目というだけで体は!? というパターンは無いだろうかっ。

 俗に言う男の娘、と言うヤツだ。よぅし、そうなればさっさと触って確認を――、



「…………無い」



 ――はいっ、やはり女の子でしたぁっ!!

(ま、まぁアレだな。胸が小さいから動き易いからそこまで気にはならないし髪は膝くらいまであるがそのうち慣れる慣れるこれからの人生において性別の違いに不安しかない訳だがそこはどうにか頑張るしかないのではないがそれに――)

 ――くるりと、一回転して。

(可愛い……ッ!)

 それに、いつの間にか一人称の表記が変わってるのね。声から受けるイメージの違いって所かな?

 ……って違うだろ、落ち着けオレ。

「そ、そうだ確か」

 ふと、あの野郎が別れ際に言っていた言葉を思い出す。


『君の能力等の説明はポケットに入れとくから後で見てねー』


「えー……っと、これか」

 手当たり次第着ている服のポケットを弄ると、折り畳まれた紙切れが3枚ほど出てきた。

 なんか、丁寧に番号が振ってある。……とりあえずは1と書かれた紙を広げて。

「えーなになに……?」


◇イツキ

・女性

・9歳

・人間

基礎クラス

・魔法使い(変更不可)


「女性、歳は9、魔法使い……」

 おおーなんか見たことのない言語だけどすんなり読める、親切サポート凄い。

 しかし少し若過ぎないかな。此処ファンタジー世界なら、少なくとも18くらい行ってないと冒険するにしても手続きとか色々苦労しそうなイメージあるけど。ううむ。

 変更不可は……知ってたしいいや。

「……ん?」

 すると何やら隅っこに小さく、走り書きなようなものがあった。

「なになにー? 年齢を決める際は特別に10面賽子(0〜9)を使ったんだけど、運が良かったね☆ ……だとぉう!?」

 っと、あまりにもふざけた事が発覚して思わず紙を破きそうになった。危ない危ない。

 だが、うん、よし。やはりあの野郎は次会う事があったら必ずぶん殴ってやる、慈悲は無い。

(っと……気を取り直して)

 ステータスとか見てみるか。

「……え、ナニコレェ」

 軽く目を通して唖然。


・筋力D−

・魔力SS

・敏捷S


 うんうん、魔力は流石と言うべきか魔法使いらしい。

 落ち着いて考えてみると、基礎クラスなのにSSってのはやはりチートじみた設定なのかもだけど。そして足早いやったー。

 ――しかし問題は、そこじゃあないッ。


・物理耐性SSS+

・魔法耐性A+


「何を思ってこの耐性にしたんだあの野郎ッ!?」

 オレの中のイメージだと魔法使いは魔法に関する知識があるし魔法に対する耐性もありそうな感じだったからそれはまだ分からなくもないなーとか思わなくもないけど魔法使いって基本は相手と距離を取って戦うクラスだから物理耐性はあまり意味なさそうなのではーとかツッコミを投げつけるべきなんだろうが。

 そんなもんよりただ一言。これに尽きる。


 ――オレ、超硬ぇなっ!?


 てかこれほぼ死なないのでは? 少なくとも物理では、防御無視みたいな特殊スキルでもない限り。

 いやまぁね。防御紙っぺら過ぎて昔の極端なレトロゲームみたいに被弾した瞬間即アウトってよりはマシだけどね。

(……そして)


・運S+


 もう一つ、触れるべきなのか悩む項目が。

「あー、またなんか走り書きが……裏面に続く、ねぇ」

 あまり良い予感はしないけど、紙をひっくり返すと。


『君のラックは特別に弄っておいてあげたよ。得られる特典としてはそうだねぇ、例えばラッキースケベとか起きるかも? あ、戦闘面では期待しないでね』


「……ホント勘弁してください、そんなん当事者からすりゃ百害しかねぇんだから」

 あまりのしょうもない特典に、膝からがくりと崩れ落ちた。

 考えて見てほしい。裸を見られた方も見た方も、いい思いなんかしない。そして繋がるのは正当防衛を称した過剰な暴力だ。

 あんなんで喜ぶのは性根の腐ったバカか、被害の出ない書き手と読者だけと相場は決まっている。

『……などと憤慨、又は呆れたりしているのだろうけど、よく考えそして思い出して欲しい。今の君は……女の子な訳で』

「――ッ!」


 つまり――合法!?


「いやいや無理無理無理無理」

 女の子同士ならそれはもうラッキースケベなのかとか、そーいうどうでもいい疑問は置いておいて。

 前世で童貞チキンニート舐めるな。ソレに喜べる程肝座ってたら真面目に働きに出れてたわ!

 ……多分。

(あー……そうだ、チート能力は……?)

 この調子だと、期待して良いのか怪しい。絶対面白半分で決められているから。

 ピラリと、紙を捲って2枚目をばー。


「………………んんんんん?」




………

……




 ども、イツキです。

 ……うん。こんな境遇になってからだけど若干中性的な名前で良かったとか思わないでもなかったりする。

 新しい名前とか考えても良かったけど、我ながらネーミングセンスが絶望的なのとやはり呼ばれ慣れた名前の方が気も楽だしなー。

「さーて、っと」

 合計3枚あった説明書を読み終えたオレは現在、初めにいた町――リムニテ(と案内板に書いてあった)を一度離れて近くの森に来ている。あ、町を出る際に門番さんが心配してくれて地図と緊急時用の発煙筒を貰いました。コレ使えば駆けつけてくれるって、優しい。

 ちなみに説明書によると、この世界には数え切れない程の多種多様な種族で溢れているそうだ。ま、定番だな。

 なおリムニテは所謂冒険者達にとっての始まりの町らしく、見たところあまり目立ったヒトはいなかった(ケモミミは割といた)。


 さて……それより、驚いた事が一つある。

 何とこの世界は――人々の争いこそあれど、魔王の支配みたいなファンタジー世界の〝お約束〟は無いし起きない仕組みになっている、らしい。


 まぁもしそんな事になってたとしても「世界を救う為、オレは命を懸けるッ」なんて柄では無かったので助かりました、はい。


「よし、この辺でいいか」

 話は戻り……森に来てからしばらく散策していると、良さげな平地に出た。

 門番の話だと町の付近とはいえ、この辺りには一応低級のモンスターが出るとの事だったが運良く遭遇エンカウントはせず。

 しかしながら今から現れないとも限らない。周辺を見渡し、人目や危険が無い事を確かめる。背が低いから森の中遠くまで見渡すには苦労する、が……ッ。

「ッ〜〜〜……ま、まぁ大丈夫かな!」

 辺りの視界良し、遮蔽物無し、人も魔物の気配も無ーし……崖の付近なのは気になるけど、まぁいいでしょうっ。

 別に後ろめたい事を始めるわけではないけれど。まだこの世界に来てから勝手が分からないし、用心するに越した事はないと思う。

「さてさて」

 オレがこんな所に来ている理由だが、それはおそらく簡単に予想出来るものだ。

 これからこの世界で生きていくならば、絶対にマスターしなきゃならない。


 そう――それは前の俺ならば絶対に出来る事は無かった男の浪漫!


「んじゃ早速……試してみますかね、〝魔法〟ッ!」







「くっははは! 今日はツイてるなぁ兄弟!」

「きひひひっ、違いねぇぜ兄貴!」

 まだ、時刻は昼間だというのに。

 町外れの森にある、崖の下にひっそりと佇む野営地にて……二人の男は、上機嫌な様子で酒を飲み交わしていた。

 初めに声を上げた大男はラッグ、二人目の細い男はバセという。この辺りの見習い冒険者達をターゲットとし、殺害・窃盗・人身売買などなど様々な悪事を働く事から懸賞金まで懸けられているそこそこ名の知れた盗賊だ。

「ぷはぁっ! ……にしても、なぁ?」

「……っ」

 ラッグはグラスに注がれたアルコールを一気に煽ると……横で転がっている少女を一瞥する。

 首の後ろで纏められたベージュの長髪に、ルビーのように輝く赤い瞳。歳は若く、ざっと見て10〜11という割りに豊満な胸を持つその少女は手足に枷を付けられ、二人を睨みながらぐったりとした様子で横たわっていた。

「まさかこの小娘、窃盗品を運搬してる俺達を商人と勘違いして荷台に乗り込んで来るとはなぁ」

「しかもかなりの上玉ときた、奴隷市場に出せば一生遊んで暮らせるかも知れねぇな?」

「――っ!?」

 下卑た笑みを向けられ、男の言葉を聞き少女は青ざめる。

「…………ぁ、ぐ……っ」

 しかし満足に体は動かせず、助けを呼ぼうにも舌が上手く回らなかった。

 それはこの男達が本性を見せる前に差し出してきた飲み物の所為だ。その中には強力な毒が仕込まれていたらしく、全身が痺れたように動けなくなってしまった。

「安心しな、命を取る程の毒じゃない。ただ数日は声もまともに出せないくらい痺れて動けないだけだ」

「あーあ。それにしてもどうせ若い身体を楽しみたかったが……商品に傷付けるわけにはいかないか」

「だがこのデケェ胸を楽しむくらいは許されるだろ」

「確かに!」

 無抵抗の少女に、鼻の下を伸ばしながら二人の男の手が迫る。

 でも少女は逃げる事も叫ぶ事もできない。自らの不用意な行動で、こんな事になってしまった事に泣きそうになる。

(だれか……たす、けて……っ)

 確か、この近くには小さな冒険者の町があった。

 でも、それは目の前の崖の上にある。地図で見れば近く思えるが、実際はあまりにも遠い。


 ――ドッカァァァァンッ!!


「「「ッ!!?」」」

 その時――二人の遥か頭上から、激しい爆発音がした。




………

……




 結論から言おう。このド派手な爆発、オレの仕業です。

 何が用心するに越した事はない、だ。力加減を間違えて的諸共崖まで吹き飛ばしてたら意味ないよね? 


 ――いや今はそんな事よりもぉ!?


「ぎゃぁぁぁぁぁあ!?」

 現在、吹き飛ばした瓦礫と共にうん百メートル先にある崖下へ向かって頭から真っ逆さまに自由落下中。はい、オレも爆発に巻き込まれてぶっ飛ばされました。

 どうやら自分の魔法によるダメージは無いっぽいけど……嗚呼、グッバイ始まったばかりの第二の人生。まさかの自爆からの落下死、これはあの世で笑い者間違いなし。

「……いや待て諦めるのは早い、この状態も魔法を使えばどうにかな――ふぎゅっ!?」

 何事においても行動が遅れて後悔するのが、オレの悪いところか。


 そんなわけで、先に落ちた瓦礫の上に顔面から着地。オワタ。


「…………って、生きてる。というかノーダメだー!?」

 流石物理耐性SSS+! あんな高所から落ちたのに無傷とかまるでモンスター狩人のプレイヤー並みのタフさなのでは!?

 ううむ、前世でこれくらい健康かつタフさがあったら良かったなぁ……。

「「……」」

「……ありゃ?」

 気がつくと、目の前には厳つい顔した男が二人いた。

 不味いところを見られたかと視線を泳がせると、男達の後ろには手足が拘束されぐったりとした可愛い女の子が一人。


 ……え、何この状況。


「おいどうしますよ、このガキ」

「あー、発育はあれだが……見た目は上等だ。その手の奴らに売れるだろう」

「それに丈夫そうだしな。コイツはいい金になるぜ」

「だな。へへっ、商品が二回も自ら転がり落ちて来るとは今日は本当にツイてるな!」

「そうと決まれば、この爆発で人が来る前にさっさと捕まえてズラかろう」

「わぁ、そーいう方々かー」

 品定めをするかの様に下卑た視線に晒されて、把握した。

 おそらく此奴らは奴隷商とかそーいう事をしてる奴らだ。そういや町にこんな顔の書かれた紙が貼ってあったような……。

「……げ、て……ッ」

「……え?」


 ――逃げて。


 倒れている少女は、今にも泣きそうな顔でそんな事を言ってきたのだ。

 誰が見ても明白なくらい怖い目にあって……何か薬でも盛られたのか、舌もまともに回らない様子なのに。

 ……いやでも、自分より年下にしか見えない今のオレを見て助けを乞うのはおかしな話か。

 むしろ、助けが来たかと思ったらこんなひ弱そうな女の子だったのだから、心底ガッカリさせてしまったかもしれない……よし、決めた。

「よっこらせ」

「「!?」」

 何処からか取り出したるは、親切な門番さんから貰った発煙筒ー。

 しかも何とこれ、マッチとかを使わずに着火出来る超絶便利アイテムらしい。えーっとどうやったんだっけか……あれぇ?

「ついさっき教えて貰ったはずなのにすーぐ忘れるとか。へへっ、やっぱオレって……不可能を可ぅおっ!?」

「さっさと捕まえろっ!」

 もたついていると、オレが手に持っているものを厄介だと判断したのだろう。

 悪人Aと悪人B(仮)は先程までの下卑た表情とは打って変わり、獲物を狩るような鋭い目つきで襲い掛かってきた。

「きゃっ、私に何する気ですかっ……なぁんて」

「ぐっ、すばしっこいぞこのガキ!?」

 取り押さえにきた二人に、素早く後退して距離を取る。敏捷Sは伊達じゃないってな。

 ……しかし、このまま逃げるのは無しだ。あそこに倒れている少女は意地でも助けると決めたから。

 てな訳で、オレは転がっている石ころを一つ摘まみ上げると。

「ていっ!」

 とりあえず片方を片付ける為に、細い方の男目掛けて投擲。……したのだが。


 石は美しい曲線を描いて、まーったく関係無いあらぬ方向へと飛んでいった。真横に飛ぶかなフツー。


 前世でも結構ノーコンだったけど、今回は以前より非力だから群を抜いて酷いのでは。

『……』

 そんなこんなで、この場にいる全員が言葉を失う。そして、

「ぷ――ははははっ! 何がしたいんだこのガキ!?」

「きひひひひっ! ダメだ、俺は笑いが止まんねぇよ!?」

 放心状態の此方を指差して、腹抱えて爆笑するお二人。

 対してオレは、みるみる顔が熱くなっていくのが分かった。こーいうの苦手なのだ。失敗して、バカにされ笑われるこの空気が。

 ……こんな事なら、何もやらなければ良かったと自己嫌悪してしまうから。

 

「……だぁぁあっ、もうめんどくせぇっ!!」


「「――っ!?」」

 でもそんなはもう死んだ。だから、オレ・・は後悔の無いように生きていく。

 驚く悪党共を余所に、先ず細い方の懐へと躍り出て。

「早――」

 石を起点に・・・・・しようだとか、そーいう変な小細工を考えたのがいけなかったのだ。

 故にもっとシンプルに、分かりやすく敵を倒す。だからオレは――相手の体に、軽く〝触れて〟。


「死なない程度に凍ってろ・・・・


「――は?」

 刹那――細男の体は氷塊に包まれた。よし、今回は加減できたかな。

 って、うわ近くにいると寒っ! 離れよ離れよ。

「な、なんだ今の……コイツ魔術師か!? でも無詠唱って……ッ」

(あの子、凄い……っ)


 そう。コレが神様のお節介チート能力――〝接触魔法〟。

 触ったものを標的ターゲットとして魔法を発動させる……と聞くと、あまり強い印象は無いだろう。

 でもわざわざ手で触れないといけないという制約はあるものの、代わりとして無詠唱かつ対象の数に制限は無いときた。これなら接近というデメリットも、敏捷Sと物理耐性SSS+、そして即時発動可能の魔法で乗り越えられるって寸法だ。あれ? それチートって割にはちゃんと戦ってる様な?


 しかしこの能力を考えると、あの野郎もわりと考えてステータスを決めていた気がしてくるなぁ。真実は分からないけども。


「よしよし。殺すのは寝覚めが悪いし、一先ずこんなモンとして……だ」

 ニタリと頬を吊り上げながら、残りの大男へと振り返る。

 さて如何してやろう、まだ試してみたい魔法はいくらでもある。

 殺さない程度に痛め付けるなら電気とか? どうせなら炎属性の魔法を使いたいけど火だるまは危ない気がするし……うむむ。

「く――来るなッ。こいつがどうなってもいいのか!?」

「ぁ、ぐ……っ!?」

「んな――っ!」

 なんて考えていると……相棒の惨状に錯乱した大男は倒れていた少女を抱え上げ、ナイフを引き抜き首元に当てる。

 くそぅ、だから先ずは石を起点にして片方潰したかったんだ。その時にオレも驚いていれば無詠唱なのもあって遠くからの攻撃と勘違いさせられて、動揺しているうちに……という完璧な計画だったのに!


「……でも、まぁ」


「がっ――!?」

(……ぇ?)

 何をするモーションも此方は見せず、大男は地面にのめり込む様に倒れる。というかのめり込んでる、徐々にメリメリと。

(こ、これは……重力魔法……ッ!?)

 ふっふっふ、さぞ驚いているだろう。実は一番初めに襲い掛かられた際、既にコイツには触れてマークしていたのだ。

 本当は逃走しようとした際に身動きを止めて笑ってやろうとしてたんですけどね。調子に乗るべきじゃなかったな、反省。


 一先ず意識が飛ぶくらい、圧力を掛けてー……あら、白目剥いて泡吹いた。まいっか。


「ぁ……」

「――っとと!?」

 支えを失い、倒れ込む少女を抱き止める。

 ここでね、カッコよく受け止められたら良かったんだが……こちとら筋力は弱い。それに脱力した人間というのは、女の子に悪いが結構重く感じてしまうわけで――。

「のわっ!?」

「ぁう……っ!?」

 結局、仲良く地面に倒れ込んでしまう。

(――って!?)

 あばばばば、なんか甘いいい匂いがする。そして何やら柔らかいものが二つ押し付けられて……この子、身長はオレより少し大きいくらいなのに何だこれ。何だこれ!?


 これが、運S+の力……? ふぅむ。悪く、な――。


「じゃない!? だ、大丈夫か? 怪我、は……」

 慌てて抱き上げると……少女の瞳から、ポロポロと大量の涙が溢れてきて言葉を失う。

 泣かせた!? 不本意とはいえ邪な感情を抱いてしまったからか!?

 ええっと、こーいう場合どうするのが正解なのだろう!? ……土下座、土下座すれば許してもらえるかな!? 女の子と関わった記憶とか遥か昔すぎてテンパるんですけど!?

(っ、震えて……)

 ……嗚呼、そりゃそうか。

 厳つい男共に捕まって、薬で動けなくされて、殺されかけていたのだ。尋常じゃない恐怖があった筈。……最後のはごめんなさい。

「……えと、失礼しま、す」

「――っ」

 少しでも安心させたくて、自然と頭を抱き寄せる。

 泣き噦る女の子は見ていたくないんだ。なんか、とても胸が痛くなるから。

「ご……め、あり……が、と……っ」

「……いいから、今は泣け」


 その後、この少女が泣き止むまで数時間掛かり。

 日が暮れそうになってから慌てて発煙筒を使い、ギリギリ気付いてもらえたオレ達は町の憲兵の方々に助けてもらえました。

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