彼女の内面
彼女を家に送り届けた別れぎわ、ボクは彼女にキスをする。
かすかに触れる程度の軽いものだ。
名残惜しさを押し殺し、ゆっくりと顔を離す。
が、彼女が両手でボクのほほを抑えた。
背伸びをして、彼女のほうから強引にクチビルを重ねてきた。
割り開こうとするかのように強く押し付けてくる。
彼女らしくない、積極的で激しい行為だった。
すこしだけ、互いに顔を引く。
彼女が、薄く開いたクチで大きく息を吸い込み、ふたたびクチビルを重ねてくる。
そのとたん、
ちゅるんっ――
滑るような音を立て、ボクは彼女に飲み込まれてしまう。
ボクは、ゴロンと前まわりをするかたちで彼女のなかに倒れ込む。
一回転の末、ふわっとやわらかいものに背中を受け止められた。
そこはフカフカした毛並みの絨毯の上だった。
驚きのあまりに、ボクは起き上がろうともせず、絨毯に寝ころんだままであたりを見回す。
ワインレッドで統一された、カベ、柱、窓枠、そして暖炉。
黒で統一された、シャンデリア、カーテン、ベッド、そのほかの家具。
それらには、すべて、昔のヨーロッパを思わせる飾りがしてある。
ゴシック様式、とでもいうのだろうか。
部屋全体がうす暗く、不気味な雰囲気を醸し出している。
彼女のなかにこんな一面があるとは思わなかった。
「……あれ! いない?」
上から、彼女の声が、ボクのいる部屋に大きくこだました。
声がしたほうを見ると、はるか上方に光の入口がある。
目を凝らすと、それはクチ型の穴だった。
穴の手前で、歯の裏側や舌らしきものが外からの光に照らされている。
あの穴は彼女のクチなのか。
さらにそのうえには、目のかたちにぽっかりとふたつの穴が開いている。
やはり、それが彼女の目なのだろう。
「おーいッ」
ボクが内側から大きく叫んだ。
みっつの穴の動きから推測して、彼女は左右を見回したがなにも見つけられず、小さく首をかしげたようだ。
「ん~…… まいっか」
そう言って納得すると、彼女は家のなかへとはいってしまった。
ボクはカラダを起こし、ゆっくりと立ち上がった。
ポケットから携帯電話を取り出すと、画面には圏外と表示されている。
部屋のなかを歩いてまわる。
なにか脱出に使えるようなもの、もしくはそのヒントがあるのではないか――
そう考え、周囲の目に見える物すべてをくまなく探る。
カチンッ
と、クツの裏に固いものを踏みつけた感触があった。
見ると、絨毯の毛並みに埋もれるようにしてカギが落ちていた。
サイズからして、小さな戸棚のものだろう。
物がそれほど多くはないため、カギのついた棚はすぐにみつかった。
カギを差し込んで戸棚を開くと、なかには蝋燭一本だけがはいっていた。
タイミングよく、目の前の燭台に一本だけ蝋燭が足りていない。
ボクはそこに手に入れた蝋燭を立てる。
すると燭台のうしろで、コトリッとなにかの落ちる音がした。
そうしてあらわれる、意味ありげな四ケタの数字、絨毯下のなぞのキズ、暗号の書かれたメモ、隠しスイッチ――
謎を解くと次の謎が現われる、それを何度も繰り返す。
ひとつひとつの意味を考え、手に入れた道具を駆使して調べて回る。
そして、すべての物を使い終え、最後には、バラが彫り込まれたエンブレムと、そのエンブレムの形をした穴だけが残った。
はめこんでみると、ぴったりとおさまった。
とたんに、地鳴りのような大きな響かせて、カベが左右に開いてゆく。
カベが開いたあとには、ピンク色をした大きな扉が現われた。
ノブに手をかけ、警戒しながら開いてゆく。
その先にはぬいぐるみがたくさん並べられたピンク基調のかわいらしい部屋があった。
彼女の新たな一面、とでもいうところだろうか。
ボクは次の部屋へとはいってゆく。




