プロローグ
「あんた正気か!この女は妖怪だぞ!」
村人の怒声に私はびくりとする。私は自分の状況をあらためて見返す。周りには村人が数人で私達を取り囲んでいる。私の胸に抱かれた少女は小刻みに体を震わせている。その前に軍服を着た男の人が私達をかばうように村人達と対峙していた。
ここはとある山村。年に一度山の神に生贄を差し出す風習があり、それは昔から続けられていた。そうしないと、この村の天気は荒れ、雪が降り続けると言われていた。毎年生贄を捧げる事でこの村の人々は平和に暮らせていた……去年までは。
「見ろ!この天気を、春だというのにまだ雪が降ってやがる!その餓鬼が帰ってきたからだ」
少女を指差し、村人の一人が声を荒げる。私が抱いている少女は今年の生贄に選ばれた少女だ。山の神に捧げられ山頂の洞窟に運ばれていた、それを見た私は村人達からこの少女を取り返し、逃げてきた。
「この女の格好……言い伝えで聞いた事がある。雪のような白い肌と着物姿、蓑を着て顔を隠しているが雪女の子供に違いない!」
そう、私は雪女。本当は人間とは関わらないようにして生きてきた。でも、私にはこの子を見過ごす事は出来なかった。いくら村の為とはいえ、こんな小さな女の子を生贄にするなんて私には理解できない。人間は自分達が助かればそれでいいのだろうか……こんな醜い争いをしてまで生き残りたいのなら私がいっそ……そう思い、ぎゅっと自分の手に力をこめ……
「ふざけるな!人を犠牲にして得られた平和が何になるって言うんだ!」
その声は雪の中でも響き、村人達が後ずさる。この男の人が怒っているのがわかった、まるで獰猛な動物に出会った時のような感覚を感じる。強く吹いた風に私は自分が着ている蓑を飛ばされないようにぎゅっと押さえる。
「その子が妖怪かどうかなんて問題じゃない、女の子が生贄にされて殺されそうなところを助けたんだ。その行動が間違っているなんて俺が言わせない!」
そう言って男は剣を抜き、村人達に向けながら言葉を続けた。
「俺は外一少隊所属、田島春人。村長の依頼により、帝都からこの村を救う為にやってきた!」
軍服を着た男の人は名乗りを上げる、村人からざわざわと、どよめきが起こっていく。
こんな時だけど私の名前を教えるね。
私の名は雪実。
この山で暮らしている雪女の子供、今は何故か村人に追われ、軍人さんに助けられてるけど。
あうあう。






