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やみよのもの 妖怪鬼譚  作者: ゆーやん
百々目鬼編
8/11

2話

「滑稽とは思わんか?お前達人間が妖怪に自らなっていく様は」


百々目鬼は笑う。百々目鬼の伝承が本当ならこの女も罪を犯してきたのだろう。


「せっかく新しい仲間の気配が感じられたからの、迎えに行っただけじゃが、邪魔者に見られてしまってつい殺してしまったわ」


「……じゃあ、あんたは最初から私が目当てで皆を殺したっていうの?」


女は口を開く、理不尽に殺された事への恨みだろうか、言葉を荒げて妖怪を睨みつける。


「この……化物!人殺し!皆をよくも……」


「お前にそんな事が言えるのか?その皆とやらにお前は何をしてきた?その結果は……わかっているんじゃろう」


百々目鬼の言葉に女は手の甲を押さえる、反論しようとするも言葉が出ず、うつむきながら涙を流していく。


「……そうよ、私は生きる為に盗みをしてきたわ。でも、好きでしてきたわけじゃない、両親がいない私にはそうして生きるしか……」


「お前は人間じゃない」


百々目鬼が無慈悲に告げる。心を見透かされるかのような言葉


「その姿が人間であると言えるか?人間でなければお前の味方なんぞ、誰も居ない……人間ならな……」


それは自分を妖怪と認めてしまえという囁き、誰でも一人は辛く自分の味方が居ないのは耐え難い事だろう。……一人ならば


「おい、いつまで喋ってやがるんだ?」


百々目鬼に向けられる刃。鋭い切っ先をかろうじて避けるも、続く斬撃には対処できなかったようだ。瞳を剣で切り裂かれ、百々目鬼が呻き声をあげる。静かだが、激しい怒りを春人は妖怪にぶつけ、言葉を続ける。


 「妖怪はお前だけだ。相手の心の弱さ、罪の意識に取り付き、数を増やしていく。それがお前の正体だ。人は強くなんかない、だが弱さを乗り越えるからこそ、本当の強さを手に入れる事ができるんだ」


 「何とでも言うがいいわ小僧。そんな化物を見て誰が味方になぞなるものか。」


 肩を震わせ女は顔を上げる。その姿をちらりと見て春人は迷いなく言葉を告げる。


 「いるさ……少なくとも、ここに一人な!」


 春人は剣を構えて意識を集中する。剣の刀身が黒から赤に染まっていく、赤の力をその刃に纏わせ百々目鬼と対峙する。百々目鬼の目の色が変わる、それは春人からの力を感じとったのだろう。

赤く染まった剣が振るわれるたびに百々目鬼の体から血が吹き出していく、先ほどのように捨て身で攻撃を受け止める事が出来ずに、防戦一方になっているようだ。だが、その瞳の力のせいで致命傷を免れているのか、倒れる様子はない。


 「何で……私なんかのために……私みたいな生きる為に、手を汚してきた弱い……」


 「俺の里は昔妖怪に襲われ滅んだ」


 俺は立ち上がり、忍具の用意をする、女は俺を見ている様だが、気にせず用意と話を続ける。


 「子供だった俺には妖怪を倒す力はなく、目の前で仲間と両親が殺されるのを見る事しかできず、圧倒的な力の前にはなすすべがなかった」


 今でも覚えている、目の前で引き裂かれた両親の姿、俺を逃がすためにかばってくれた友の顔を。何故自分を助けようとしたのか昔はわからなかった、だが今なら……


 「自分の不幸を嘆くかどうかは自由だ。だが自分が後悔する事だけはしてはいけない。」


 そう、かつての俺は何もかも諦めようとしていた。だが、あの人を見て俺は進むことができた。俺は両手に苦無を構え、百々目鬼に歩みをすすめる。


 「一歩でも前に進み妖怪を斬る。それが生き残った俺がするべき事だ」


 激しく斬り合う春人が下がる、さすがに力を使い続けるのは侍の血筋といえども辛いのだろう。俺は春人の肩を叩き、前に出る。


 「譲れ春人、この獲物は俺が仕留める……」


 返事を待たずに俺は走り出す。俺は両手の苦無を構え切っ先を擦り付ける。火花が散った苦無をそのまま投擲する……が


 「馬鹿の一つ覚えか!死ね虫けら!」


 百々目鬼は苦無を見切ったのか、巨体とは思えぬ動きで苦無を避ける。その勢いのまま両手を振り上げ俺の頭上に振り下ろした。轟音が響き、あたりに土煙が舞い上がる。ようやく煙が晴れた頃にはボロボロに引き裂かれた軍服が一つ転がっていた。


 「く、くははははは!大口叩いてこの程度か。しょせん人間はわしらに殺される運命のようじゃな」


 「否。死ぬのは貴様だ」


 勝ち誇る百々目鬼の背後から声を掛け、俺は両手を引く。百々目鬼は声に気づいて振り返ったが遅かった。その腹部には苦無が二本深々と突き刺さり、百々目鬼の巨体が揺らぐ。腹部に刺さった苦無はずぶずぶと飲み込まれていき、意思を持ったかのように動き出す。


 「な、何があった!お前は確かに……おごっ!」


 体を進んでいく刃に百々目鬼は苦しみの声を上げる、俺は両手で操りながら言葉を告げる。


 「さっきお前は俺が苦無を合わせたのを見たな。あの時お前の意識は俺から離れた。その少しが……俺が動くのに十分な時間だ。お前は俺の残像を潰したにすぎない」


 俺は事実を淡々と告げる。その言葉に怒りの声をあげながら百々目鬼は俺に飛びかかる。


 「貴様ら!貴様ら虫けら如きにこのわしが!」


 「お前が虫けらだった、それだけだ」


 動いたのを見て俺は両手を合わせる。その瞬間体を移動していた苦無が磁石のように体内でくっつきあった、まるで探していた相手を見つけたかのように。百々目鬼の腹部が弾け、あたりにやつの肉と血が飛び散る。


 「……こりゃ後始末が大変だな」


 動かなくなった百々目鬼を見て春人は苦い顔をする。自分で仕留めたかったのだろう、少しは皮肉も含まれているようだった。俺は春人の横を通り、一部始終を見ていた女の前に立つ。気づいた春人は慌てて俺の前に立ちふさがった。


 「伊吹……この子も殺すつもりなのか?こいつは人を殺したわけじゃない、むしろ被害者……」


 「否。俺達に与えられた任務は事件の解決だ。彼女が今後人を襲わないという保証はできない」


 言葉を聞いた春人は、とっさに彼女をかばうように覆いかぶさった。俺は懐に手を入れ、彼女に手を向け……


 「だが今回は」


 何も持っていない自分の手を見ながら言葉を続ける。


 「武器切れのようだ、対象を排除、及び確保するのは難しいと判断する」


 「……伊吹」


 春人の言葉に答えず背を向ける。春人は女に今後どうするかの話をしているようだ。


 「とりあえず魅雨のとこに相談して……まさか女を連れてきたからって殺されないだろうな……俺が」


 頭を悩ませているようだがほって置くことにする。女は春人の様子を見て少し笑ったようだ、その時彼女のそばの死体……百々目鬼の腕が彼女を掴み上げた


 「きゃああああああああ!」


 「じ、じね。裏切り者ががががが!」


 春人が気がつくが間に合わず。彼女は百々目鬼に捕まってしまう。そしてその両手がゆっくりと握られ……


 「否」


 俺は両袖から苦無を取り出し投擲する。正確に飛んだ二本の刃は百々目鬼の腕を吹き飛ばし額に突き刺さった。起き上がろうとしていた百々目鬼は音を立てて崩れ落ち、二度と動くことはなかった。俺は対象の最後を確認し、背を向けた。


 「任務完了。帰還する」


 俺は現場から離れるように歩いていく。今回の任務を春人と一緒に組まされた理由が俺にはわからなかった。だが、俺に無くてあいつにある物を大佐は教えようとしたのだろうか。


 俺はまるで自分に言い聞かせるように呟き、歩き出す。


 「守る役目はお前に任せる春人。……俺は騎士ではない、猟犬だ」


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