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魔法"処女"、狩屋三咲。 その4

次回も狩屋三咲編更新です。

あと次回あたりから前回までのあらすじを簡単に前書きに書いときます。

「狩屋三咲さん。失礼ですが、身分証明証をお持ちで?」

 木下は相変わらずすっぴんの薄い顔でにらみつけてくる。魔法少女としてそれなりの修羅場をくぐってきた三咲にとっても、それは言いようのない圧力を感じるものだった。大男さえにらみ殺しそうなその勢いたるや、かの怪物メデューサにも劣らないだろう。少なくとも今の三咲にはそう思えた。

「いや、その」

 一歩引いてしまう三咲に、木下はますます不信感を募らせる。

「失礼ですが貴女のその服装からいたしますと、家出少女そのものにみえます。それが? 公園で? 寝ている? こんなうららかな連休に?」

 ずい。ずい。ずい。ずい。

 木下のつり上がった瞳が迫ってくる。これはまずい事態になった。そう思うものの、魔法を使うか迷う。このまま逃げてしまえばそれで済むのではないか。

「ああ、それはあのですね、ちょっとこんな陽気なんで昼寝でも、って思ってですね」

 あはは、と乾いた笑みをもらすがそれで追及を免れるわけもなし。

「あの、迷惑なら帰りますから! じゃあ、あたしはこれで!」

 言いくるめるのは無理だ、と判断した三咲はとっさにぴっ、と敬礼をして回れ右をした。その肩を、強靱な力で押さえ込まれる。体を動かそうとしてもぴくりともしない。脇に抱えたルシファは白目を剥いたまま役に立たない。

 絶体絶命である。

「わたくしが言うのも何ですが、当家は明治時代からこの街で医療を生業としてきた名士です。医療、それすなわち仁術。人助けを仕事とする方を主に持つわたくしが、貴女のような子供を見逃すわけにはいきません」

「いや、それはありがた迷惑ってやつですよ・・・・・・」

 ぽつりと呟くも、木下は聞き逃さない。

「黙らっしゃい!」

「はいっ!」

 涙目になりながら三咲は思わず返事をしてしまう。

「事情を聞くまで放しませんよ三咲さん。ですが、このままここで立ち話できるような簡単な事情ではないようです。坊ちゃんのお言葉通り、お食事をとってらっしゃいな。その後、たっぷり、絞るとるようにお話を聞いてあげますから。ね?」

 最後の「ね?」だけ異常なぶりっこトーンだったが、正直可愛らしさのかけらもなかった。いくら美人でもーーいや、美人だからこそ恐ろしいことがある。幽霊は顔立ちが整っているほど恐ろしく感じるのと同じ原理である。

「いや、けっ・・・・・・ぐふぇぇ」

 結構です、と首を振ろうとするもキメられているのでそれどころではない。

 結局半ば拘束状態で豪邸に連れ込まれるのであった。


※※※


「この館の現当主は真柴秀隆様です。名前くらいは聞いたことが?」

 木下は職務に忠実な家政婦モードに入ると、三咲を案内してまわった。

 屋敷は東館と西館に分かれており、どちらも二階建て。一階と二階にそれぞれ渡り廊下がある。ロの字型に回廊が続き、各部屋が中央に固まっている造りになっている。

 下に敷かれた絨毯はどうやらトルコ製の高級品のようだ。

 三咲は正直木下の説明をよく聞いていなかった。土足であがれる家も、絨毯が敷いてある家も、回廊がある家も、そのすべてが三咲にとって初めての体験だった。その驚きが先行してしまって、それどころではなかったのだ。

(ここは、家、なのか? 博物館とかじゃなくて? 住んでんの? マジで?)

 このような家を一つ建てるのにいくらかかるのか、頭の中で数字を浮かべて見るも、正直桁がわからない。庶民の中の庶民の生活をしてきた三咲にとって、あまりに遠い世界だった。

「ご存じありませんか。医学界では有名なのですが。まあ、中高生では無理がないのかもしれませんね。

 先ほど当家は医療を生業としてきた、と申しましたが医者というわけではありません。むしろ経営のほうです。明治時代は欧米の医療器具や薬を輸入したり、医学書を製版したりする政府の仕事を請け負っていました。その後独立すると民間の医療施設で最新の医療を提供する環境を整えるようになりました。それが今日まで脈々と受け継がれているわけです。

 最近の成功例でいきますと、最新のサナトリウムの経営でしょうか。この街の郊外にあるーーつまりこの屋敷のすぐ近くなのですがーー『緑樹院』も秀隆様のお仕事の賜物ですね」

「はぁ」

 興味もなければ、聞いたこともない話だった。適当な気の抜けた返事を返すが、木下はため息をついただけで特に文句は言わなかった。

(うっ・・・・・・頭痛が)

 その時、懐で小さくルシファがうめいた。

(あ、あんたねぇ、肝心なとこで延びないでよ、ほんと!)

(なんだ、こりゃ。どこだここは。博物館はペット禁止だぞ三咲)

 まだ虚ろな瞳で状況を把握しきれずボケをかますルシファ。いい加減におきろ、と首根っこをつかんで目覚まし代わりに少し乱暴に振る。

(馬鹿悪魔! 起きろ! 変な家政婦に捕まっちゃったんだよ! あのガキんちょ大金持ちだったの!)

(待て! 意味がわからない、しっかりするのはお前だ! それと首を絞めるな!)

(あ、ごめん・・・・・・いや、そんな場合じゃなくて。とにかくすごいことになっちゃったの。あの少年、ヒデノリとかいうらしいんだけど、それがこの博物館みたいなお屋敷に住んでいるらしいの。何でも地元の名士だってさ)

 ルシファは懸命に状況を把握しようと努めるも、出てきた答えはこれだった。


(いいか、三咲。博物館てのは公共の場所だ。公共の場所って意味、わかるか。みんなの場所って意味だ。みんなの場所を独り占めなんてできーー)

 

 ぐきっ。

 怒りのあまり強く握りすぎた首から変な音がして、再び黒猫は深い眠りに落ちるのだった。

 今度は、醒めるかわからないが・・・・・・。


続く・・・・・・

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