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10話

 躍斗が目を覚ましたのは夜だった。

 上半身を起こすと、少し目眩を起こしたように額を押さえる。

「うー、怠い……。えーと」

 周囲を見渡すと、エステルの領地にある家の中ということがわかった。躍斗に割り当てられた部屋である。

 ベッドに寝ているその横のサイドテーブルには、煌々と光る石の入ったカンテラと。

 そのさらに横に、椅子に座ってベッドに倒れ伏しているレオナの姿があった。

 何があったか躍斗は思い出そうと天井に頭を向ける。

 しかし、どうにも頭が回らない。

 血が足りていないような、そんな感覚だ。

「そう言えば、災害を二回再生して――」

 自然とそう口にして、それが記憶の端に引っかかったのか、一瞬ですべてを思い出した。

 蟲を倒すために、災害を二回目の再生を行って倒れたことを。

 あれから何時間経っているかどうかもわからない。

 そこへ、カチャリと扉を開ける音が響いた。

「あ、ヤクト様! 起きましたか!」

「よう、エステル。そっちも無事だったか」

 躍斗が軽く手を上げてそう返すと、エステルは頬を膨らませる。

「そっちも無事だったか、じゃないってば! 一番危険だったのはヤクト様だったんだよ!?」

「お、おう。悪い」

 怒られ方が予想以上だったのか、躍斗が目を白黒させる。

「三日も寝てたんだよ! ホントにこのまま目を覚まさないかと……!」

 エステルの瞳には涙が溜まっていた。

 そんな泣き顔に、躍斗は罪悪感を覚えたのか、ばつの悪そうな顔をする。

「ん~……?」

 すると、ベッドの方がもぞもぞと動いた。

 レオナが起き出して、上半身を起き上がらせると、目の前には躍斗がいる。

「あ……」

「よ、よう……」

「ヤクト様! よかった! よかった!」

 目に涙をたっぷりと溜めて、レオナは突撃してくるように躍斗に抱きついた。

「うぐっ、ひぐっ……ごめんなさい。わたしの、未熟な作戦で……ヤクト様を危険な目に……」

「いや、レオナのせいじゃないよ。失敗ぐらいいくらでもあるから、そんな責任を自分だけで負うなって」

 躍斗はレオナの頭を撫でる。

「むしろ、レオナが無事でよかった」

 特に理由があってそうしたわけではないが、なんとなくそうするのがよかった気がしただけだ。

 何しろ女の子に抱きつかれるなど、葛葉がいた時まででそれ以降はずっと縁がない。

「ううっ、ヤクト様ぁ……よかったぁ……」

 レオナが泣き止むまで、躍斗はずっと頭を撫でていた。


 レオナが落ち着いたところで、三人は情報を共有する。

「作戦は成功したよ。砦に残った三匹はシモナが倒して、魂結晶は全部回収。記憶を見せてくれる魔法使いも命の息吹が戻ったから。ただ、目が覚めるのはまだ少し後かも」

「了解。そう言えば、あの信号弾は見えたの?」

「うん。赤と白のあれだよね? 丁度、魂結晶を回収したところで。シモナが『異常があったに違いない』ってすっ飛んでいったんだ」

「そうか。じゃあ、もう少し待ってればよかったかな」

「……むー」

 エステルが難しい顔をして躍斗を睨み付ける。

「な、なんだよ」

「レオナさんに聞いたところによると、すごい無茶をしたとか」

「そりゃ、あの状況なら無茶するさ」

「……こっちとしても状況がわからないんで無闇に責められないし、魔法と疲労についても教えてこなかった手前、何も言えないけど……ホントに無茶しないでくださいよ! ヤクト様が死んじゃったかもしれないって思ったんですからね!? というか、下手したら死んでた可能性もあったんですよ!」

「う、む、まあ。悪かったよ。でも、ここまでヤバいものだって思ってなかったんだ」

「ボクだって心配したんだからね!? ヤクト様の力が使えなくなってもいいけど、命を失う真似だけはやめて」

「俺の力がなくなったら、存在価値ゼロじゃねーか」

「馬鹿なこと言わないで下さい。次にそういうこと言ったら本気で怒りますよ!?」

「お、おう」

 先程から、エステルは「何も言えないけど」と言いつつ言っている。

 今も「本気で怒りますよ」と言ってる割にはすでに怒っている。

 支離滅裂だが、それほど怒っているということなのだ。

「ごめんな。次からはもう少し考えた上でやろう」

「そ、そうです。むしろ、わたしの作戦立案が……」

「いや、そもそも仕留めきれなかったのが」

「それを言ったら、助力できる人材を連れて来られないボクが……」

 そんな平行線な話題を辿りつつ、ひとまず無茶したことについての説教は終わった。

 それから話題は次へと移る。

「そう言えば、ボクも見ましたけどあの蟲、完全に凍ってましたね。あれは吹雪か何かの災害を使ったんですか?」

「ああ。俺たちの世界であったとんでもないブリザードだよ。それを極限まで圧縮して使った」

 やろうと思えば、氷河期を再生することも可能かもしれない。

 その場合、むしろ隕石を落とすことで大気が変化し、氷河期が発生することになるのかもしれないが。

「あれが他でもあるなら、もしかしたらそれを主力にした方がいいかもしれない」

「そんなに有効か?」

 エステルは強く頷く。

「一気に生命機能が止まったらしいからね。水に弱いってこともあるのかもしれないけど、動きを極端に鈍くする意味でもあれは有効だと思う」

 凍らせることに、相手を倒す、そして戦力を無効化、あるいは弱体化させるという二重三重の意味があるわけだ。

「だとすれば、魔法で氷を作って攻めるのも有効ってことか?」

「う、うーん。正直に言えば、蟲を全体で覆えるような魔法はまだないんだよね。氷を飛ばすようなものはあるけど」

 すると、レオナが横から質問を投げる。

「エステルさん、これは結構重要なことなんですが、そういう魔法を開発できますか? 吹雪を発生させて蟲を凍らせる魔法を、です。あるいは蟲の周囲の気温を一気に下げるのでも構いません」

「やってやれなくはないかなぁ。少し大気の動きとかをいじってやれば……」

「あと、それを誰かに教えられるようにして下さい」

「え……」

 エステルは少し困ったような目でレオナを見る。

「ボク、ちょっと教えるのは苦手で……」

「そんなことを言ってる場合じゃないのは、レオナさんもわかっているでしょう?」

 レオナは引かなかった。強い意志を宿した瞳で見つめ返す。

「ここまで蟲に有効打が打てなかったのは、蟲の情報をほとんど調べてこなかったのもありますが、何よりも兵士の育成カリキュラムがまったくないことです」

「……うん」

「以前も言いましたが、軍事力を保つため、あるいは上げるためにはドクトリンやルーティンが必要なんです。鋼鉄の蟲を斬るあの技法を他の兵士に覚えさせることができれば、今後、蟲一匹に対して必要な兵士が減らせます。もちろん、それは非常に困難が伴うことはわかりますが……」

「ボクも蟲を一匹を無力化する氷魔法を開発して、それを周囲に教えるべき……ってことだよね?」

「はい。ちなみに蟲一匹じゃなくて、複数匹でも構いません」

「あはは……無茶言うなあ」

 エステルは困ったように笑う。

 しかし、次の瞬間には気合いを入れるように頬を叩いた。

「いいね。久々に魔法を開発してみよう。何ヶ月かかるかわからないけどね」

「お願いします。それを有効に使う作戦は必ず立ててみせますので」

「うん、レオナさん。頼んだよ!」

 熱い誓い。

 そして、躍斗自身にも今回のことで密かに考えていることがあった。

「あの。俺もシモナに頼みたいことがあるんだけど」

 そんな躍斗に、エステルとレオナは首を傾げるだけだ。


     ◇     ◇     ◇


「剣を習いたい、ですか?」

 夜が明け、エステルの家に寄ったシモナに、挨拶や作戦成功の労いもそこそこに、すぐに本題へと入った。

 躍斗がそう言うと、その場にいたエステルとレオナは目を丸くする。

 シモナも突然の申し出に戸惑っているようだった。

「剣でなくてもいいんだけど。扱いやすい武器なら」

「しかし、なぜまたそんなことを?」

「……実感したんだよ。俺の力が、本当にここぞという時にしか使っちゃいけないものだってことに」

 シモナは黙って躍斗の話を聞いている。

「今回、俺たちが襲われたのはたった一匹、それも瀕死の蟲。それから逃げることも、戦うこともできずに右往左往するだけだった。せめて……自分の身を守れて、時間を稼ぐぐらいはできるようになりたい」

「時間を稼ぐ、ですか」

「もちろん、倒せるようになるのならそれに越したことはないけど。それでも今回の時みたいに、シモナが助けに来てくれるまで耐えるだけの力が欲しい」

 すると、シモナは複雑な表情を作った。

 そして、躍斗を、少し恨みがましい、あるいは怒りか、悲しみか、一言では言えないような瞳で睨む。

「……なぜ、あなたはそこまでするんですか?」

「え?」

「あなたにとっては、別世界の話で……ここまでする義理はあるのかと」

 シモナは非常に冷め切っていた。

「シモナ!」

 エステルが少し怒ったように呼ぶと、シモナは小さく溜息を吐く。

「……忘れて下さい。少し言い過ぎました。ただ、剣を習うのであれば別に構いません。私自らが訓練に付き合うのは時間が取れずに厳しいですが、前回会ったと思いますがイジンカにやらせましょう。あれには基礎を叩き込んでありますので」

 シモナがすっくと立ち上がる。

「手筈の方はこちらの方ですべてやっておきます。では……」

 そう言ってシモナは躍斗に頭を下げてから、エステルの家を出て行った。

「筋金入りだなぁ……シモナは」

 エステルが疲れたように息を吐く。

 エステルにとってシモナは親友だ。彼女が世界を救うということに積極的にならないことが歯痒いのだろう。

「それにしても、ヤクト様、そんなことを考えてたんですね」

「まあ、な。魔法が使えればそっちにいったけど、使えないなら仕方ない。それに本気で手負いの蟲にはもったいなかったしな」

「……無茶しないで下さいね」

「大丈夫だよ。たぶん。それに葛葉が……英雄が強くなったのなら、俺も多少は強くなれるかもしれないし」

 躍斗にも、打算的な考えもあるはある。

 もっとも、そう上手くはいかないだろうとも考えていた。

 最終的に頼ることになるのが、災害の力になるということも。


 そして、その午後。

 記憶を見る魔法使いが、目覚めたという一報がエステルにきた。


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