表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/34

7話

「び、びっくりしちゃうかな? 楠葛葉です……。やっくんの幼馴染みの。覚えてるかな?」

 覚えてる。

 躍斗は彼女のことを一日たりとも忘れたことはない。

「やっくんが手に持ったら反応するようにしてあるんだ。いつか……こういうことが――奇跡が起こるかもしれないからって精霊様に言われたから、この指輪に言葉を込めてるけど……どうなんだろ。本当にいつか届くのかな」

 葛葉の声は指輪から一方的に囁かれるだけだった。

「これ、魔法なんだ。すごいでしょ? 誰でもできるわけじゃないんだって」

「いきなり自慢からか」

 躍斗が呆れた声を出すものの、葛葉の声は止まらない。

 エステルとシモナも少し困った顔をしている。

 ただ、驚きの感情の方が強そうだ。

「あの津波で……あたしは死んだと思ったんだけど、何の因果かディアナちゃんに召喚されたんだ」

「御先祖様をちゃん付け……英雄様っぽい」

 シモナも頷いている。

「口調も声も、英雄様と同じだ」

 どうも古文書や物語に於いてもかなり砕けた性格だったようでらしく、ふたりはその一端を感じ取ったようだった。

「頑張って、あのおっきなワニみたいなの倒してきたんだよ」

「……ワニ? もしかして龍のことか?」

 龍ではなく、ワニときた。

 ある意味大物だ。英雄らしいと言えば英雄らしいのかもしれないと、躍斗はふたりには気付かれないほど小さく笑う。

「……あのワニを倒したら帰れるってディアナちゃんが言ってたんだけどねー。結果の参照に失敗、とか言ってたかなー? よくわかんないけど、帰れないってわかったから、あたしは旅に出ることにしたのです!」

 突然そんなことを明かされた。

 英雄の物語において、最後に記されるエピソードのことだろう。

「元の世界に戻る方法があるかもしれないし……それにこの世界の魔法って可能性は無限大だから。色々と調べてみるつもりなんだ」

 それで躍斗は旅に出た合点がいった。

 彼女は元に戻る方法を捜していたのだ。

 ……しかし、それでも微かな違和感は残るが。

「まあ、世界は平和になったみたいだしいいよね。龍毒素っていうのもなくなったみたいだし。どこに行くか決めてなくてノープランだけど、まあ、なんとかなるかなー。やっくんと一緒だったら……楽しいんだろうけど」

 声が一気に寂しそうなものになった。

「やっぱり……思い出すと寂しいね。やっくん……………会いたいよ。でも、もう無理、なの、かな?」

 すすり泣きまで混ざり始める。

「やっくん……。ごめんね。あたしが鈍くさかったせいで……でも、たぶん……やっくんは逃げ切れたんだよね? これを聞いたってことは、生きてるってことだよね? で、こっちの世界に来たってことだよね?」

 そこから、泣き声はうっすらと消えていき、今度は興奮気味に語り始めた。

 感情納期沈むが激しいのは相変わらずだな、と躍斗は懐かしい思いに駆られる。

「あれ? でも……これを聞いてるってことは召喚されたってことで……きっと世界が危なくなってるってことだ! 召喚魔法は世界の危機に使われるってディアナちゃん言ってたから。やっくんまで喚び出されたってことになるからね」

 またも一方的に告げていく。

 世界の危機にしか使えない魔法らしい。

 確かに今は世界の危機だ。

「ああ、指輪だと小さいから言葉を長く込められないんだった。それじゃ、やっくんも世界を救ったら……追いかけてきてね? 会いたいから。きっと待ってるから」

 それでそのメッセージはあっさりと終わった。

 躍斗もエステルも、シモナも黙り込む。

 衝撃的すぎて、何から言っていいのかわからない顔を揃えた。

「……まあ、俺の幼馴染みの葛葉だったってことは証明されたってことかな」

 ひとまず躍斗は絞り出すようにそう告げた。

「ヤクト様が触った瞬間に魔法が反応したからね。実際にヤクト様だけに反応するようにしてたんだと思うけど。まあ、そういうことになりますね」

「でも、ホントに凄い確率ですよ……」

 エステルとシモナもその確率に震えている。

 ただ、どれだけ確率が低かろうと事実は事実だ。

「まあ、すげー短い言伝だったけど、あいつが苦労したことはわかったよ」

 いきなり喚び出され。

 龍を倒すことを求められ。

 結婚までして。

 そして、元の世界に帰れなくなった。

 それでも、葛葉は一所懸命に生きていたのだ。

 ただ……。

「あいつ、まったく子供のことに触れなかったな?」

 自分のことで手一杯という可能性はわかる。

 ただ、躍斗の中で葛葉が一児の母というイメージがまったく湧かないのだ。

「………」「………」

 すると、シモナとエステルは気まずそうな表情を浮かべていた。

 色々隠してますと顔に書かれている。

「よければ教えてくれないか?」

「……では、私の方から説明を致しましょう」

 少し渋ったが、シモナが説明を始める。

 それは英雄の一族の秘密、その種明かしだ。

「簡単に言えば、クズハ様は結婚をしたふりをしたんです」

「え」

 躍斗にとって不意打ちな情報だった。

「結論から言えば、我々の一族は英雄様ではなく、ラトカ・ブルザークという方との子供の子孫になります」

「ラトカ・ブルザークって英雄の物語に出てきて、最後に仲間になった女戦士だっけ?」

 躍斗が問うと、シモナは頷く。

「人気取りのために英雄の血を取り込みたかった当時の王族のひとりが英雄様に求婚したんですが、英雄様に拒否されたんです。ただ、それでも国の中に取り込みたかった王様は、エリアス・ベルカ……私たちの御先祖に婚約を命じました」

「エリアス・ベルカはそれを断ることができなかったわけか」

「はい。ただ御先祖様も英雄様には無理強いをできなかったんです。そこで旅の中でエリアスがラトカ・ブルザークと恋仲になってまして……」

「そう言えばエステルも、ラトカ・ブルザークが母親代わりって言ってたな」

 つまり。

 葛葉は王族、あるいは王族に近い一族、つまりベルカ家と結婚をする必要があった。

 人気取りという理由で。

 あるいは、強さを保ちたいとか、象徴を残したいとか、そういう理由もあったかもしれない。

 国であれば当然のことだろう。

 しかし、英雄、楠葛葉はそれを嫌がった。

 そこでエリアス・ベルカは一芝居を打ったわけだ。

 葛葉は結婚をして、子供を産んだと見せかけた。

 しかし、その子供は楠葛葉とエリアス・ベルカの子供ではなく。

 エリアス・ベルカとラトカ・ブルザークの子供なのだ。

 シモナにはまったく英雄の血が入っていない。そういうことになる。

「通りでシモナは、英雄のことを御先祖様と呼ばないと思った」

「……えっ?」

「自分でも気付いてなかったのか」

 シモナは、エリアス・ベルカのことを御先祖様と呼んでいるが、葛葉のことを英雄様と呼んでいた。

 英雄が自分の御先祖様だったら、御先祖様と呼んでもいいものだ。

 要するに他人行儀なのである。

「よく周囲を騙せたな……」

「凄い大変だったみたいだよ。王族には未だにバレてないし……」

 それは少し怪しい気がする、と疑わしい表情を浮かべるが躍斗は指摘しない。

「ただ……なんだろうな」

 誰に言うでもなく、躍斗は呟く。

「どうかしましたか?」

「いや。ちょっとな」

 躍斗は少しだけ救われたのだ。

 手を離してしまった時、本当に後悔した。

 そして、見捨てた自分を葛葉は恨んでいるのではないかと。

 そう思っていたのだ。

 しかし、彼女はそんなこと一言も言わなかった。

 あまつさえ、もう一度会いたいとまで言ってくれた。

 もう時代は四世紀――四百年以上も過ぎてしまった。

 会えることはないだろう。

 それでも、ここには彼女の痕跡があるのかもしれない。

 それを躍斗は辿りたくなった。

 しかし、そのためには――。

「葛葉を追いかけるためには、この世界を救う必要があるってことか」

 そう力強く呟いた。

 すでに人類は滅亡寸前という状況。

 島国のここは恵まれていた。

 大陸側はどうなっているかわからない上、何万何十万何百万といった蟲が跋扈している。

 そんな数の暴力に、災害の力で何ができるか。

 それはわからない。

 だけど、使い方さえ間違えなければ、その力は圧倒的だ。

「あいつも世界を救ったのなら、俺も世界を救わなきゃダメなんだろうな」

「そうですよ、ヤクト様! いいこと言います!」

 そう興奮気味に語るエステル。

 しかし、シモナは相変わらずその話には乗ってこなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ