6、「哀しい星」の住人
マナに話して自分自身が思い出した。
彼は面倒臭い事や自分の嫌なことに対しては頑なに自分の殻を作って閉じこもる。
話し合いができないタイプの人間だった。
何度かそう言う場面に遭遇して、落ち込んだこともあった。
問題に直面しないで逃げるってずるいと思ったことがこの数ヶ月で何度もあったんだ。
そして私もそれに対して何も言えない。
結局前に進めない二人。
私はマナにこう言った。
「本当は、私も彼の連絡は心のどこかで毎日待っているの。
でもね、今連絡をもらっても情がわくだけでズルズルと先のない意味のない付き合いになるだけだというのもわかるのね。だから矛盾だけど連絡はいらない。私からもしない。そして彼もずるいから傷つきたくなくて連絡をよこさないんだと思う。
それか他に楽しみを見つけて私のことをうざく思ってるか、それは解らない。」
「完全に縁が切れるのは嫌なんだね
いつの時代も男が優位なのかな。恋愛って」
マナはそう言った。
「そうは思いたくないね。
いつか後悔させるのが私の目標。
そうやって何人もの男を踏み台にしてきた(笑)
結局、男はずるいけど、
子供産めない分、母乳出せない分、…女より子供だ。
そんな奴らに負けてたまるかと思う」
マナも似たような想いなのだろうか
「そうそう。子供のこと思ってるようなこと言ってるけど、面倒、殆ど見てるのは女じゃない!」
そんな返事が返ってきた
どこでも似たような不満を抱えている
男は自分の胎内に生命を宿すことができない。
相手を見つけてその相手の胎内に生命を宿すことはできても
自分自身の体でそれをすることは出来ない。
産まれてきた子供を見て男は
あっさり「自分は父親になった」なんて言うけれど
女はその10倍も100倍も深い経験をしている。
子供を産む時、旦那は応援するふりして本当の痛みは解っていない。
自分の身を削って自分の体液を子供に吸わせて子供を大きくすることもできない。
そうして自分は干からびていく。子供を大きくする為には仕方がない。
そうやって体のラインが崩れて
おっぱいも垂れて
髪の毛も抜け落ち
白髪も増えて
疲れた顔になって
”女”から”雌”に変わり、
社会的地位は奥様からオバサンに変わる。
それでもなりふり構わず子供は育てなければならない。
女ならいつかは当たる壁じゃないかと思う。
女は母になると強くなる
勿論、女じゃなくても男だって、
あらゆる事を犠牲にして家庭を守らなくてはいけない。
そうやって男も女も色々なものを犠牲にして家族は育っていく。
”絆”ってそうやって生まれるのかもしれない
だけど、そんな貴重な家族の成長途中で本当の自分の家庭を守れずに家を飛び出す人間って、人間として必要最低限なことが出来ないダメな人間だと思う。
そういう人間は女でも男でも哀しい。
私も彼も哀しい星の住人になってしまったんだと思った。
日も暮れてきた
そろそろ夕焼けチャイムの時間だ。
子供のお迎えに行かなくてはいけない。
二人の主婦の公に出来ない恋愛相談はここで打ち切られた。
「今日はありがとう
あと1ヶ月、誰にも相談しないで一人で解決しようと思ってたから
このタイミングで連絡くれたのホントに嬉しかった。
ホントに凄いタイミングだと思う。」
マナにお礼を言った。
「良かったわ。」
「泣きたいのに泣けないのよ。不思議な事に」
「まだ決断しきれてないからだね ドンマイよ いい方向に行くといいね」
そうして二人のやり取りは終わる
「決断かぁ。いい方向ってなんだろう…」
考えても考えても、今は答えが出せそうもない
時の流れに任せるしかないのかもしれないな
マナはまだ戻れる。一度くらいの情事ならまだ道を引き返すことができる。
「哀しい星」に辿りついちゃうとしばらく悲しみから逃れられない。
せめてマナだけでも幸せな星に戻ってほしいと心から思った。
でも、その「幸せ」の尺度は一人一人が違うので
答えなんてやっぱり出せない
これ以上大人になりたくない




