第3話
「少年。」
「……はい……………?」
宮本さんに呼ばれた。
「名前、なんて言うん?」
「え……。」
「大丈夫。安心してええ。俺は決して、怪しい者やない。」
白衣姿なのにか。
………まあイマイチ信じられないが、宮本さんは悪い人ではなさそうだ。
俺は決めた。
「………翳です。苑條翳。」
「かげる……。おう。いい名前やな。ご両親いいセンスしとるやないか。これからよろしゅうな、翳。」
「は?え…………“これから”って、どういうことスか?てゆーかまず、なんで俺はここに連行されたんスか?」
そう言うと宮本さんは真剣な眼差しで俺を見つめてきた。
「翳。これから言うことは、夢のようなことであって夢やない。全部、現実に起こっていることなんや。笑わずに、聞いてくれ。」
「…………はい………。」
宮本さんは重々しく口を開いた。
「まず、俺は研究者やっちゅーことを教えとく。まあ“研究者”ってゆうてもそんな大層なモンやない。とある科学者の片腕って感じやな。ただ、その研究内容が他と比べもんにならん。これは自負しとる。実際に成功しとる実験もあることやしな。」
なるほど。それで白衣なわけか。
「その研究内容は、“夢”や。」
「夢ー……?」
「そうや。
《夢は人間の心理と切っても切れない縁仲にある。それはなぜか。》
始めはそれを追求しとるだけやった。でも、だんだん研究の方向性が変わっていった。
原因は、先生………俺を片腕として使ってくれていた先生の、娘さんにある。」
「娘さんに?」
宮本さんは、近くにあったペットボトルの中の飲料水を飲んだ。
「ああ。ほら、さっきからそこにおるやろ?俺と翳の話に着いて行けんでボケーっとしとるやつが。」
眼差しの先には例の少女がいた。宮本さんの言う通り、こちらを向いてはいるがぼけっとしていた。
「この子が、その、……科学者の娘さんなんですか?」
宮本さんが頷く。
「え…じゃあ、原因ってなんなんですか?こんな幼い子が、何かしたとか?」
「幼い…………ねえ…………………。」
妙に長い間。
「別に、何かしたっていうわけやない。ハッキリ言うと、アリアは何もしとらん。あ……彼女の名前はアリアや。悪ぃ。紹介忘れとった。」
実は知っていたというのは、場の空気を読んで言わない。
「翳。」
いきなり名前を呼ばれた。
「はい?」
「ちょっくら昔話に付き合ってもらってもええか?」
「はい。」