第4話
アリアに起こった過去です。
「昔話ってゆうんかなぁ。まぁ、ちょっくら聞いていてくれればええ。」
そういうと宮本さんは、近くに置いてあったライターで火をつけ、煙草を吸い始めた。
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とある所に、“夢”について研究していた科学者がいた。
その科学者の名はハリッド・クラドラー。
近所では「クラドラー博士」と呼ばれ、慕われていた。
妻がいて娘もいる、幸せな家庭の大黒柱でありながら、その傍ら偉大な科学者でもあった。
とある日。娘が学校のテストで満点を取った夢を見たという。やがてそれは、正夢となった。
そしてまた。今度はリレーで一等になる夢を見た。それも正夢になった。
クラドラー博士の娘は、他にもたくさんの正夢を見るようになった。
でもそんな時。娘はある日を境に苦しむことになる。
その日娘は、いじめられている子を目撃している夢を見た。
それは、やはり正夢になった。
次の日。今度は自分がいじめられている夢を見た。
やっぱり、正夢。
そして次の日、そのまた次の日と、どんどん見る夢の内容は深刻化していき、それが全て現実に起こるようになった。
耐えきれなくなった娘は、不登校になった。
一般ではそのようなことをヒキコモリなどというが、娘の場合は違う。一種の超能力ではないかと思うほど、その夢は、はっきりと現実に起こってしまうのだ。
それを見兼ねた父・クラドラー博士は、娘を助けてあげようと、更に研究に没頭した。しかしその日から、研究の方向性が《幸せな夢を見せるには》に変わった。
半年。研究を始めてから実に半年間、その研究は実を結んだ。
マウスを使った実験により、ほとんどの確率で幸福な夢を見ることができる薬品が完成したのだ。人に使用するまでにはいかないが、それは大きな進歩だった。
でもその日。薬品が完成した日、博士の娘は夢にうなされた。娘は何をしても起きない。その身体を揺らしても、その柔らかい頬をつねってみても、決して起きる気配はなかった。あまりにも苦しそうな娘を、博士とその夫人が見つめる。
その時博士は、例の薬品のことを思い出した。あれを使えば楽になるかもしれない、博士はそう思った。
自分のデスクからその薬品を持ってきて、娘の口に入れ、飲ませる。
するとその瞬間。
娘の身体を、どこからともなく現れたグレーのベールが包んだのだ。
そのベールはどんどん大きくなり、腰の抜けた博士と夫人を包むと、はじけた。