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囚人魔王・序章・

人間界にあっても特異な「色」を見てしまう魔眼を持ってしまったタクト。

同じ特異なる魔眼を持ちえた二人の共有・・・。

しかし、タクトは盲目で、色でさえ世界を見える事はなかった。

ただ、セピアの色、モノクロの世界生きている親友。

共有し、共有したい二人で誓われた事。

「必ず、おまえの目で、その美しい世界をおまえに見せて見せる」

言い残し、誓いを結び、魔王は異世界へと飛ぶ。

友が、新友が、言い残した世界へ。

夢をみた。

なつかしい夢だった。


コケコッコー

「……む?」

窓から差し込む朝日と、アパートの庭に放し飼いにしてある鶏の声のせいか、懐かしい夢から引き戻されてしまったようだ。寝ぼけ眼をこすりながらむくり、と上半身をツギハギだらけの布団から持ち上げる。もはや目覚まし時計などなくとも、体内時計で完璧にこの時間、朝の六時には目が覚めるようになっていた。それもこれも、一重にあの悪魔の調教のたまものである。本当に口惜しいが。

 うーん、と一つ大きく背伸びをすると布団から抜け、カーテンのない窓を開けた。四歩も歩けば壁とにらめっこするような狭苦しい部屋ではあるが、東に窓があるというのはありがたい。おかげでこうして億劫な朝でも、少しは快適に目覚める事が出来る。

 もっとも、この部屋をあてがった悪魔は、「魔王なんだから、暗くてじめじめしてて湿気があるくらぁ~い雰囲気のなにか出そうなお部屋のほうがいいですよね~?」と純情無垢そうな笑顔でいい放っておきながら、日当たり抜群、風通しも最高という全く真逆である部屋にわしを放り込むあたり、あの悪魔の性格の腐敗っぷりがうかがえるが。

少しの間窓の桟に体を預けて日光浴をしながら、鶏のえさを庭に撒く。無邪気に餌に群がる鶏を少しの間ぼ~っと眺めていると、

がん! がん! がん!

「ぬぉ、び、びっくりした。もう飯の時間か」

 けたたましい金属音がガンガンと耳を叩く。

毎度の事ととはいえ、毎朝これではかなわない。いくらなんでも壊れたインターフォンの修理代をケチって、代わりにフライパンと金槌を玄関にぶらさげて代用品にするとは、この委員会はちょっと頭がおかしいんじゃないであろうか。

 がん! がん! がん!

「わかっておる! 今出るから起きぬけにそれはやめてくれ! 頭が変になるっ!」

 慌てて鍵を開けて、ドアを開ける。すると目の前には、なにやら「硬そうで」「太くて」「黒光りする」なにか凄くたくましいものが目の前に突きつけられていた。

 拳銃である。

「……一つ質問なんじゃが」

「なんでしょう~?」

 ほんわかしたかわいらしい声で、わしの眉間に銃口を向けたままニコリと笑顔を向ける茅原。

「いったいこれはなんなんじゃろうか?」

「あらあら~? 見てわかりませんか~、トカレフですよ~、使いやすくて日本のヤクザ屋さんでは大流行なんですよ~?」

「いや、そうではなく、何故にわしは今そんなものを額に突きつけられ……い、痛い、痛いぞ茅原、 額にグリグリと銃口を押しつけるでない!」

「いえですね~、インターフォンを鳴らしても魔王さんが出てこないみたいなので~、まだお休み中なのかな~と思いまして~」

 言いながら、右手に持った銃で左手に持つ金槌を指してみる。

「コレでダメならコッチなら起きてこられるかな~と」

「何を言っておる、ほれこの通りちゃんと起床時刻は守って起きておるじゃろ。わかったらさっさとその危ないモノを懐にしまってわしの朝飯を―――」

 ガウン! ガウン! ガウン!

「起きてるんなら~、なんですぐに出てこないんですか~? 舐めてるんですか~? ちばけてるんですか~? ダメじゃないですか~? 魔王さん~」

「も、申し訳ない! 申し訳なかった! 謝るから! 謝るから撃つな! 銃口をこっちに向けようとするでない! 死ぬから! わしがいくら魔王でもそんなもので撃ち抜かれたら即死するから!」

 足元にはコンクリートに広がったクモの巣が三つ。やはりこの悪魔、伊達ではなく実弾をこんな早朝から、所構わず撃ってくるあたり頭のネジのゆるみ具合が違う。わしより邪悪だ、間違いない。

「わかったのならいいです~、今度からはいつもどうり、インターフォンが鳴ったらすぐに出てきてくださいね~」

「う、うむ。もちろんじゃ、そうしよう。そもそも今日はたまたまじゃ。いつもはきちんと出ておるじゃろうが。じゃからの、出来れば次こういった事があってももう少し穏便に―――」

「次はないですよ」

 カチャリ

「…………肝に銘じておくのじゃ」

 恐ろしい。かってこれ程までに人間に恐怖を感じた事はあったじゃろうか、わし。核をも凌いだ魔王を恐怖させるとは、やはりこの女、悪魔に違いない。

「ほらほら~、魔王さんがゆっくりしてるから~、時間がなくなっちゃいますよ~。早くお布団を畳んで布団部屋に持って行っちゃってくださ~い。部屋の掃除とトイレの掃除が時間内に終わらないと朝ごはんは抜きですよ~」

茅原の言った通り、今日はこの後管理委員会の会長と会う約束を取り付けている。あまり時間がないのは確かである。急いで日課である部屋の掃除を終え、茅原が持ってきた弁当を胃袋に流し込む。

「ほら~行きますよ魔王さ~ん、遅刻なんてしたら私の査定やお給料が下がっちゃうかもしれないんですから~」

「わかったわかった、すぐに支度をするからちと待ってくれ」

 壁に掛けてある自分の衣服に手を伸ばし、それを素早く身につけていく。

 品格を窺わせる漆黒の衣装に袖を通し、そして長年愛用している首から足元までもあるマントを羽織る。

 準備は整った。姿見で身だしなみを確認してから茅原の後に続き外へと出ると、茅原は既に車の中で待機していた。

あまり待たせると後が怖いので急ぐとしよう。

そうして、なにやら怖い笑みを浮かべる茅原の元へと急ぐ。

今日はなにか、面白いことでもないものか、と。



「相変わらず馬鹿でかいビルじゃのう」

 これまでに幾度か足を運んだビルを前にして、今更ながら感嘆のため息が漏れた。

 都心の中心地に立ち並ぶビル達の群れの中でも一際異彩と巨大さを誇示するそのビルは、魔王管理委員会の役員のオフィスビルとしてだけではなく、魔王によってうながされた未知なる新エネルギー、魔力の化学的な分析や研究も兼ねた施設だ。そのためか全面がマジックミラーでコーティングされており中の様子を外から窺う事はできない。

「急ぎますよ~、会長がお待ちです~」

 急かされて車から降りると、歩道を急がしく歩いていた周囲の人達が一斉にその足を止めて、人垣が割れた。

『魔王だ……』

『魔王…』

『あれが……世界を敵にした……』

『核をもぶっ飛ばしたという……』

 ふふ、噂しておるようじゃの。軽蔑や嘲笑の対象となるのは御免被るが、こうやって畏怖畏敬の眼差しを向けられるのは悪くない気分じゃ。

『なんであんなダサいマントなんて着てるんだ?』

『さぁ? 格好いいと思ってるんじゃない?』

『思ったより貧相だな』

『TVで見たより不細工ね』

 よーし貴様ら、全員ちょっとそこに並んで歯を喰いしばれぇっ!。

「魔王さ~ん急いでくださ~い」

 ちっ。命拾いしたな民衆よ。わしは今急いでおるからこの場は引くが、おまえらの顔はしかと記憶に焼き付けておくからの。

 そうして人垣で出来た道を足早に進み、会長の元へと急いだ。



「魔王。君に我が委員会よりの勅命を下す」

「嫌じゃ」

 無駄に広い高級感溢れるオフィスに沈黙が漂う。地上五十八階からの眺めを背に背負って座る、黒漆塗りのデスクに両肘をついた偉そうな男。魔王管理委員会会長。柳葉統一郎の禿げあがった頭のコメカミには、浮かんだ青筋がピクピクと波打っていた。

「……魔王、君に我が委員会よりの勅命を―――」

「繰り返すなハゲ。じゃから断ると言っておろうが」

「誰がハゲだこのニート魔王が!」

「そうですよ~魔王さん~。会長だってお給料の半分くらいを発毛剤につぎ込んだりと無駄な努力はしてるんですから~、そういうことを言ってはダメですよ~」

「……茅原くん、頼むから君、少し部屋の隅で黙っててくれないか」

 え~、と不服そうな返事を返して、しぶしぶといった体で茅原は部屋の隅っこにちょこんと座ってしまった。ふははは。ハゲ頭め、部下にまで舐められるとは情けない。

「……とにかくだ。これは委員会からの勅命、すなわち政府公認の要請なんだぞ!? 極刑執行猶予中の貴様に断る権利はどこにもないっ!」

「むぅ……。しかし既に政府公認の任とやらはいくつかやっておるじゃろう。魔界の情報提供、魔力研究への協力。この前なぞ貴様ら、わしに投薬実験までしとったじゃろ。これ以上わしに何を望むつもりじゃ?」

「なに、そう難しい話じゃない。おまえには学校に通って欲しい」

 わしが? 学校に? 

「一般常識と義務教育の類はこの三年で習得したじゃろう豆電球」

「高等教育はまだだろうが万年寝太郎。それに、我々はおまえに充実したスクールライフを送ってほしいわけじゃない。おまえには生徒として学業へ勤しむ傍ら、教鞭を取ってもらう事になる」

「教鞭じゃと?」

「そう、魔学教師として。……すなわち、魔力の行使・制御の仕方。それらに対する深い知識を生徒に教育しろというのが上からのお達しだ。どうだ? 適任だろう税金泥棒」

……上層部はよほどわしの話を聞いておらんと見える。

魔力を扱うというのは、これは完全に素養の問題である。この世界にも確かに、タクトの様にその素養が眠っておる魔魂持ちと思われる存在は希少ではあるがいることはいる。が、その全員の素養が完全に眠っている事は、この世界がいかに魔学の知識に乏しいかではっきりしている。そのうえ、たとえ魔力の素養無きものに手ほどきをしたとしても、それは腕が二本しかないものに三本目の腕の動かし方を教えるのと同じ事。説明し、その扱い方を練習させても全くの無駄。最初から無いものを操る術など教えたところで完全な徒労に終わる。そのあたりキチンと理解しておるのじゃろうかこやつらは。

「おまえが教鞭をとるクラスは、この国内中から選びぬかれた、魔力の素養を持つ者達だけで構成されたクラスになる」

「なっ――!?」

「探し出したんだよ。それこそ国籍、人種を問わずその素養を持つ才能ある若者たちを、日本中駆けずりまわってな。大変だったんだぞ? おまえの協力の下で出来た魔力の観測機片手に北は北海道、南は沖縄まで。職員と研究員が泣きながら無茶だと抗議してくるほどにな」

 まずいの、今度ある実験は逃げたほうが得策か。下手したら研究員にホルマリン漬けにされてビンの中で一生を過ごしそうじゃ。

「そしておまえには最終的に、彼らを魔王に対抗出来る人材へと育て上げてもらいたい」

 そう言って、柳葉はあごに手を当てるとその口元をニヤリと持ち上げた。

「そうだな……そう、さしずめ『勇者』といったところか」

「は?」

「知っているだろう? ゲームなんかで魔王を倒すあの勇者だ」

「……つまりあれか? わしに、わしを討伐できる勇者を育てろと?」

「まぁ厳密には、おまえの他にあと五人いるとかいう魔王達に対抗出来る勇者に、だがな」

「帰る」

 ふざけた事をのたまいおって。魔王のわしに、よりにもよって魔王を倒す勇者を育てろというのかこの国は。さすがフライパンをインターフォンの代用品に選ぶ部下がいるだけの事はある。頭のネジが緩いのは上も下も同じということか。

「……いいのか?」

「いいに決まっておるじゃろうがハゲ親父、あまりたわけた事を―――」

「上層部は、これを拒否するならおまえの執行猶予の撤回を決める腹だぞ」

「なに――っ!?」

 ピタリ、と。出口に向かって進んでいた足が止まった。

「上は、この決定にそれだけ本気だという事だ。おまえの話を元に研究者達が作成したレポートを読んだ時の連中の顔はなかったぞ。なにせたった個人で世界を敵に立ち回り、核をも無効化したような化け物が、異世界にとはいえ最低でもあと五人も存在しているというんだからな。そりゃぁ、将来の対抗策の一つや二つ打っておくのは当然だ」

 ……確かに、わしという超絶な魔王と肩を並べるとは言わんが、それに近い力を他の魔王も持っておる。しかも世界を隔てて干渉不可で存在すら知らなかった今までとは違い、わしという魔王が実際にこの世界に来てしもうた。対策を立てるというのもまぁ百歩譲って理解できるとしても、しかしなぜわしがそれを断って極刑にされねばならんのじゃ。

「……しもうた、心当たりが多すぎる」

「理解したか糞魔王」

くそ、こやつのそのどや顔を潰れたザクロの様にしてやりたい!

「どうする? 断れば極刑。引き受けても、おまえは魔王でありながら魔王を倒す勇者を育てるということになるが……。まぁ、おまえがよっぽどの馬鹿で間抜けでなければ例え立派な勇者を育て上げたとしても、大人しくしてさえいればおまえに害はないという事くらいは解るよな?」

 あぁ腹立たしい! 毎回毎回極刑を盾にして、わしに面倒事を押しつけては得意そうな顔をしおってからに……! いつか、いつかこやつらのその面にわしの糞を投げつけながら高らかに笑ってやる――…ん? いやまてよ。


「さぁ、決断の時だ」

 

 ……もしや、これはチャンスではないのか?

 わしは今、魔力を全く使えない。あの核の爆発を抑え込むのに、全魔力を使い果たしてしまったから。あれから三年と少し経つが、今でもその回復の兆しは見えぬ。このままわし一人でこやつらの鼻を明かすには少々無理がある。

ならば、わし一人では無理なのならば―――


「勇者を育てるのか―――」


 協力者を募るのが道理か。

それも、出来るならばこやつらとは全く異なる繋がりを持つ、わしを慕ってくれる者達を。

そう考えると、この話はうってつけなのでは……? 


「くだらないプライドを守って極刑を受けるか―――」


わしの事はもちろん知っておるじゃろうが、高校生といえば年の頃は二十歳にも足らぬ小僧小娘ばかり。わしの天性の人望と匠な人心掌握術さえあれば懐柔するに容易く、幸いこのハゲ共のお膳立てでこの国内における優秀な素養を持つ者達はそのクラスに既に集められているという。

もしかすれば金の卵ともいうべき才ある者もおるかもしれぬ。そうなってしまえば……。

勇者を育てるのではなく。

わしの協力者を育ててしまえば……?

「さぁ、どうする魔お――」


「全てこのわし! 魔王に任されよ!」


自分自身、もうどうしようもなくなった事がありました。

そんな方にすこしでも笑っていける作品を流したいと思っています。

もちろん稚拙なのは解っています。

もし好んでいただけたなら、その時はよろしくお願いします。

酷評も、喜んで頂きます。

失礼しました。

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