序章
<依頼書>
差し出された一枚の紙にはそう書かれていた。
「これは・・・・・・?」
差し出された若者が尋ねる。それを差し出した中年の男性が答える。
「見てわからんか、上からの依頼だ。<スカウター>を一機持っていけ」
「いや、しかし・・・・・・」
若者は狼狽した。普段なら二つ返事で快諾するのだが、今回は事情が違うの
だ。
「極東の命運がかかっているのだよ」
「・・・・・・」
「もし、彼ら―<シェルズ>がMI5その他諜報機関に拉致されるようなこ
とがあっては、世界情勢が大きく反転してしまうのだよ。かといって大げさ
に護衛をつけると、かえって目立ちかねん。そこで、君の登場というわけだ
」
「はぁ・・・・・・」
若者は首をかしげた。合点がいかないという様子である。
「彼らと同い年だったと思うが」
「正確な生年月日は自分でも―」
反論しようとした若者を男性は手で遮った。
「それくらいわかっている。何ヶ月一緒に暮らしてると思ってるんだ?」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
男性は近くの写真立てを手に取りながら述べた。
「必要なバックアップはする。お前も普通の日本人としての生活を楽しんで
みるべきだ」
「わかりました・・・・・・失礼します」
若者が部屋を出ていく。身を翻したときに、胸のペンダントが煌いた。
「苦労をかけるな・・・・・・」
男性は書類作業を始めた。それには、<転入届>と書かれていた。
東京の某所に平和学園という小規模の学園都市があった。ここは、その付属
高等部。
「ねえねえ、聞いた!?」
起き抜けで不機嫌な小野井恭子のもとへ、上機嫌な朝比奈恵美がやってきた
。不機嫌な恭子は、
「何さ〜朝から元気ね・・・」
「今日、うちのクラスに転校生がやってくるらしいよ〜!それも帰国子女!
」
「きこくしじょぉ〜?」
恭子は至極不機嫌な声で聞き返した。彼女も普段は陽気なおてんばガールな
のだが、寝起きは最悪だった。特に昨夜ローカル系のテレビで放送していた
「タカシの元気になるTV」を見ていたため、2時間しか寝ていないのだっ
た。
「そう、帰国子女!なんでも、アメリカの西海岸で生まれたんだって」
笑顔で瞳をときめかせる恵美に恭子が冷たく指摘する。
「・・・・・・それって帰国子女って言わないよ」
「えっ?そうなの?」
「まったく・・・・・・ホームルーム始まるよ」
興味ないといった感じでそそくさと自分の席に戻る恭子。恵美は声を掛けな
おそうとしたが、担任が教室へ入ってきたので仕方なく自分も席に戻った。
「はい、もう何人か知ってるかもしれないけど、今日から新しいお友達が増
えます。さあ、入ってきなさい」
担任が手招きし、廊下から転校生が入ってきた。
「・・・・・・ぉお・・・」
恭子は思わず唸った。平均身長よりはすこし低めだが、なかなかの二枚目な
若者がそこにいた。
「は、萩原純一であります。よ、よろしく」
緊張で肩をガクガクと震わせ、若者は挨拶した。
それが、彼らのファースト・コンタクトだった。