大貫山茶花 その2
「いやはや、渡瀬さんはいつも元気だね。僕みたいな根暗には
その明るさは眩しすぎるよ。」
「私はそんな君を照らすためにいるんだよッ!私の愛は太陽よりも
光輝いているものッ!」
僕と渡瀬さんのやり取りを見ていたヤスは、死んだ魚のような目をしていた。
「・・・頼むから、他所でやってくれ。」
うんざりした表情で、わざと大きく舌打ちをした。
他愛ない世間話をしつつ、僕たちは上靴のまま校門を出た。一応これは
校則で禁止されているが、これを守っている者は誰もおらず、教師や生徒会も
黙認していた。所謂、暗黙の了解というやつだ。
学校から徒歩15分程度の場所で営業しているコンビニで、それぞれ弁当を購入した。
僕は添加物たっぷりの若大将弁当、ヤスは豪快な鬼盛り弁当、渡瀬さんは
謎のサプライズ弁当を買った。
コンビニの前に設置されたベンチに座り、僕たちは弁当の蓋を開けた。
「渡瀬、それ何?その、当たり・・・なのか?」
「いやぁ・・・、かなり回答に困っちゃうかな・・・。それよか、この内容は
夜須くん的には当たりなのかッ?」
渡瀬さんが買ったサプライズ弁当は、きちんと包装されて中身が見えないように
工夫されており、それがサプライズたる所以らしかった。
そして、彼女が引き当てたものは、大盛りの白ごはんに、オカズは巨大な厚焼き玉子
だけという、なんともやりきれない内容だった。
「まぁ、オイシイか否かで考えるなら、ある意味アタリだよね。」
「ったく、お前にオチを言われると、悔しくて笑えないぜ!」
談笑もそこそこに昼飯を食べ終わり、僕を残してヤスと渡瀬さんは先に学校へと戻った。
僕はある物を買うため、そこからさらに5分かけて河川敷へと向かう。
河川敷に着いた僕は土手を下り、橋の下に建てられた汚いプレハブ小屋へと入る。
中には、薄汚れたハットを目深に被った初老の男性がいた。
「おいおい、また来たのかい?この前止めるって言ってたのは誰だったかな?」
「・・・金なら払います、いいからください。」
僕はポケットの小銭を男性の前に置かれているワックスの空き缶に放り込んだ。
男性はニヤニヤと下品に笑い、木製の小箱から煙草を取り出した。
「まだバレてないのかい?なかなかしぶといなぁ。」
煙草を受け取り、制服の内ポケットにいれながら答える。
「・・・えぇ、隠れてコソコソ吸ってますから。」
「ククク、そうかい。・・・おっと、そうだ、お得意さんだから教えといてやる。
この煙草なぁ、そろそろ仕入れが途切れそうなんだよ。だから、近々値上げも
考えているんだが、今のうちに買溜めしとくなら、サービスしますぜ?」
相変わらず、足下見てやがんなぁ。もう慣れたけど・・・。