表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひまわり☆彡スピリッツ  作者: はりねずむ
第二章 スターダスト
84/91

石神コタロウ その1

12月1日


 早朝の寒空の下、俺は星屑姉妹の自宅前に居た。今回の案件は単純明快だった。黒を白に変えること。真実を嘘で塗り潰すこと。

 最低最悪の案件。俺が抱いた感想は、ただそれだけだった。俺が生まれて18年経つが、こんなに苛立ちを覚えたのは初めてだった。理由は至ってシンプルで、俺じゃなくとも、嫌な仕事を押し付けられればこんな気分になるはずだ。

 鈴蘭を含め、ほとんどの部員が部長の命令を拒否した。結果、この案件に参加したのは部長と百合、山茶花、それから俺を含めた四人だけだった。当然と言えば当然だと思う。逆を言えば、部長の命令に従った俺たちの方がおかしいのかも知れない。ただ、断れない理由があった。侘助に彼女たちのことを頼まれたからだ。そうでなければ、俺だってこんなこと願い下げである。

 突然、一陣の風が駆け抜けた。余りの寒さに体が震え上がる。寒風に体温を根刮ぎ奪われてしまったように感じた。


「・・・・・・飲む?」


 目の前に缶コーヒーが差し出された。見ると、首元から口までをマフラーでぐるぐる巻きにした百合が佇んでいた。俺は一言礼を述べて缶コーヒーを受け取ったが、俺の手はすっかり冷え切ってしまっていたため、缶の熱さに慣れるまで少々時間が掛かった。


「自動販売機の、あの表示は何とかならんものか。」

「・・・どういうこと?」

「ほら、“つめた~い”と“あったか~い”が在るだろう?“つめた~い”はまだ良い。だが、“あったか~い”は、響きの柔らかさに比べて熱すぎる。いっそのこと、“つめた~い”と“あっつ~い”にして欲しいものだ。」


 俺の文句に、百合は僅かにキョトンとした後、軽く吹き出した。


「・・・・・・そうね。石神君の言うことにも一理あるわ。」

「だろ?・・・はぁ、早く春になってもらいたいものだ。」


 言いながら缶の蓋を開け、暖かな中身を一気に流し込んだ。それによって僅かに体温が戻ったのも束の間だった。再び吹いた寒風が俺を責め立てたことで、俺の体温はまたしても下がりきってしまった。

 白い息を吐き、百合を見た。それから、一つ気になったことを聞いてみた。


「そういえば、お前、なんでこの案件を断らなかった?何が目的だ?」

「・・・目的?いいえ、そんな大それたものは無いわ。ただ・・・、興味があるの。」


 彼女はそう言って、目を細めた。おそらく、マフラーで隠れた口元は不敵に歪んでいるに違いない。彼女もやはり俺たち同様にネジの外れた人種なのだ。大人しそうな顔をしてはいるが、その裏で物騒なことを考えている。これが同じ歳の女の子だと思うと、ゾッとする。


「・・・そう言う石神君は、何故?」


 彼女に尋ねられ、俺は侘助から頼まれたと答えた。


「あいつには色々と借りがあるからな。俺に手伝えることなら、喜んで協力するさ。」

「・・・それに、彼はあなたに期待しているものね。」

「それこそ、買い被りだぜ・・・。俺はあいつが思うような人間じゃない。」


 空になった缶を弄りながら言った。本心だった。ただ、そんな過度な期待を嬉しく思う自分がいることもまた事実だった。


「・・・・・・動いたわ。」


 唐突に百合が言った。俺には何のことか分からなかったが、家の裏口に張り込んでいた執行部部員の悲鳴が聞こえたことで、戦争の火蓋が切って落とされたことを察知した。既に百合は走り出している。空き缶のポイ捨てという行為を躊躇した俺は、電信柱の裏に缶を隠してから駆け出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ