表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひまわり☆彡スピリッツ  作者: はりねずむ
第二章 スターダスト
80/91

姫咲向日葵 その4

 彼に続いて蒲公英が口を開いた。その表情は相変わらず冷たい。


「それに、今更何を言ったところで手遅れよ。既に星屑姉妹に対する自宅謹慎処分が通達されているわ。隠密治安維持部には、このまま彼女らの監視任務を継続してもらいます。」

「・・・・・・その依頼、拒否するわ。私たちは、隠蔽工作の片棒を担ぐために協力しているわけじゃないのよ。」


 たとえ蒲公英でも、こんな依頼は承諾できない。この案件には関わらない、そう決意し彼女に背を向けた。


「・・・隠密治安維持部部長、姫咲向日葵さん。貴女は一つ大きな勘違いをしているようですね。これは“依頼”ではありません。学園のトップとしての“命令”です。」


 振り返り、蒲公英の目を見据える。


「・・・拒否権はない、と?私たちの間に上下関係は存在しないことをお忘れかしら?」

「何事にも、例外というものはあります。今がその例外に当たる状況です。それに、もし拒否すれば、相応の対応をさせて頂きますが・・・。例えば、宮流璃瞿麦さんは不足分の出席日数を隠密治安維持部での活動で補っていますが、これは特例として認可されているものです。私の一声で、それを取り下げることも可能です。それから、大貫山茶花くん。彼は喫煙行為によって一度謹慎処分を受けていますが、更に追加処分を下すこともできます。もちろん、貴女自身にも・・・。」


 最早、この場において彼女との友情は存在していないことは明白だった。ここに居るのは生徒会会長と隠密治安維持部部長であり、そして学園の支配者と兵士だった。私は何も言わず肯いた。首を縦に振るより他に選択肢はなかった。

 私の返事に対して、蒲公英は一言礼を述べた後、こう続けた。


「・・・正義が常に正しいわけではないわ。私は学園を守ることを優先した。貴女は仲間を守ることを選択した。貴女なら、理解しているはずでしょう?」


 窓の外を見ながら話す彼女の目は、どこか悲しげだった。先程からの冷徹な口振りは、平静さを装うためのものだったのだろうか。私には彼女の本心は分からないが、お互いに苦渋の決断であったことだけは理解できた。

 生徒会室を出て、私はまず月神先生に電話を掛けた。正直な話、鈴蘭や百合、山茶花にこのことを話すのが怖かった。幻滅され、私の下から離れていくことを恐れていたのだ。だから、月神先生に逃げた。それに、あの人ならば既にこの状況も把握しているはずだ。何か助けになってくれるのではないかと、淡い期待を抱いていた。短い呼出音の後、月神先生が電話に出た。先生の声は明るかった。


「あぁ、もしもし。そろそろ電話してくる頃だろうと思っていたところよ。」

「・・・教えてください。私の選択は・・・、あの決断は正しかったんでしょうか?」


 そうせざるを得なかったとは言え、自信がなかった。学園の悪を正す者として、やはり生徒会と対立すべきだったのではないか。私の選択が正しかったのか否か、先生ならその答えを与えてくれるのではないかと思ったのだ。だが、私の思いとは裏腹に、先生は淡々とこう述べた。


「そんなの、私が知るわけないでしょう。私は貴女たちに干渉しない。ただ報告を受けるだけよ。顧問なんて名ばかりの、お飾りなのよ。」


 足元から崩れていくような奇妙な感覚があった。硬いはずの床が、やけに柔らかく感じる。いや、実際には硬いままで、単に私の平衡感覚の方が狂っているのだ。どうすれば、私はどうすればいいのだろう。皆は、私の決断に納得してくれるだろうか。いや、侘助は絶対に納得しないはずだ。このことを彼に話せば、彼は学園と戦争を起こすに違いない。それを回避するに、私はどう行動すれば・・・!

 床は益々柔らかくなっていく。ついに足が沈み始めた。だが、その時、先生が暖かな声で話し掛けてきた。


「・・・貴女は、貴女が信じた道を行きなさい。それが正しいかどうか、私は答えを持ち合わせていないわ。だけど、結果はあとから付いてくるわ。だから、自分自身に殉じて、精一杯生きなさい。私が言えるのはそれだけよ。」


 ハッとした。足下を見ると、床は何時の間にか元の硬さに戻っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ