大貫山茶花 その1
5月9日
昼休み、僕は部長に呼び出された。どうやら、新たな任務らしい。
「今日から数日間、渡瀬秋桜の周囲を監視して。監視の手段は君に一任するわ。」
渡瀬秋桜?なんで彼女が・・・。いや、同姓同名かも知れない。
一応、確認だけはとっておくか・・・。
「それって、2年A組の渡瀬秋桜ですか?」
「ええ、そうだけど・・・。よく知ってるわね。」
あぁ、やはりそうか。僕は頭を軽く掻きながら事情を説明した。
「僕と同じクラスなんですよ、彼女。しかも、友人です。」
そう言うと、部長は目を丸くして驚いた。予想外だったようだ。
部下のプロフィールぐらい覚えておいて欲しいものだ。
「なら、好都合ね。期待してるわよ。」
「あいあい、了解しました。」
屋上を出て、階段を下りながら、これからの流れを想定していく。
授業中の監視は問題ない。登下校は何かしらの理由を付けて僕がくっつけば
十分にカバーできるはずだ。
休日は・・・、まぁ、追追考えよう。
「おーい、大貫ー!」
「おぉ、ヤス、どうしたんだ?」
入学してすぐに友人になった夜須トラヒコが、教室の窓から顔を出して手を
振っていた。歩み寄り、何だと尋ねる。
すると、ヤスは財布で僕の腹をポンポンと叩いた。
「お前、昼飯まだだよな?コンビニ行こうぜ。」
「イイねぇ、コンビニ。じゃあ、早速行くとしよう。」
さすが大貫!彼はそう言って爽やかに笑い、華麗に窓枠を飛び越えた。
「あっ!山茶花くん、待って!私も行くよッ!!」
教室のドアが勢い良く開いたと思うと、中から女の子が飛び出してきた。
桃色の柔らかな髪の毛が、動くたびにサラサラと靡いた。
「よう、渡瀬。お前もまだなのか?」
「それがね、お弁当を忘れちゃったのさッ!」
彼女が今回の対象、渡瀬秋桜。名前と同じ、コスモスを想わせるピンク色の髪が、
彼女の愛らしさをより一層際立たせた。