姫咲向日葵 その3
「・・・部下が優秀すぎると、それに比例して扱いは難しくなるわ。かく言う私も、一度は手綱を握り損ねているのだけど。」
蒲公英は言いながら副会長を見た。皮肉混じりの言葉と視線に、彼は黙って肩を竦めただけだった。蒲公英はなおも続ける。
「まぁ、そうは言っても、使える部下が揃っているのは悪いことではないわ。その限度さえ超えなければね。風嵐くんに加え、他にも彼に干渉している人物が複数いるわ。それがどの程度の規模かは予測し得ないけれど、一筋縄ではいかないことは確かなはずよ。」
彼女の指摘に、私は何も答えなかった。答えるまでもない。侘助が動いている時点で、一筋縄は有り得ない。その証拠に、事態は私の予想の斜め上を行っている。
「・・・確実に宮流璃も加担しているわね。」
「まさか、あの頃の付けがこんな形で回ってくるなんてね。」
そう言い切れるのには理由があった。生徒会は以前、“黒蜜電撃ニュース”の削除と管理者の特定を試みていた。しかし、超厳重なセキュリティに阻まれた挙句、逆にサーバへの侵入を許した。これについて、副会長はこんなことを言っていた。
『侵入しただけで、それ以外は何一つしていない。だが、それが逆に恐ろしい。何時でも容易に攻撃できるという事実を見せ付けられることで、こちらは完全に後手に回ってしまった。そこへ相互不干渉の提案だ。・・・いや、提案とは名ばかりの、一方的な要求だな。それでも、その要求を飲むより他にない。何せ、反撃や防衛が無意味であることを知っているのだからな。』
こんな芸当が可能で、かつ学園に通じている。しかも知略に長けているとなれば、自然と人物は限られる。宮流璃瞿麦と、風嵐侘助の二人だ。今思えば、これも彼なりに宮流璃に生きる気力を与えようとしての行動だったのかも知れない。
「・・・まぁ、なにはともあれ、真犯人が見つかって何よりじゃない。後は星屑朝顔さんにきちんと謝罪して、犯人に対して処分を下す。それで万事解決ってことで―――。」
「いいえ、この件は内密とするわ。星屑朝顔の処分は自宅謹慎、姉の星屑夜顔に関しても同様の処分を下します。」
私が言い終わる前に、蒲公英はそう言った。無機質に、冷徹に、人としての一切の感情を取り払ったような声色でそう言い放ったのだった。私は自分の耳を疑った。
「・・・自分が何を言っているか分かっているの?そんなこと、許されないわよ!?」
思わず声を荒げたが、蒲公英と副会長は無表情のままだった。
「タイミングの問題なんだ。近頃、学園上層部に対する不安感が高まってきている。件の会長の宣言が原因なのは明白。情報開示、校則改正の直後に比べればまだマシだが、それでも水面下で混乱は広がり続けている。そこへ来て、犯人の誤認。しかも、無実の生徒に対して執行部に加えてハウンドまで動かしたとなれば、生徒の不信感は爆発するだろう。それだけは、絶対に避けねばならないんだ。どんな手を使ってでも・・・。」
副会長は、確固たる意思を持って言った。