風嵐侘助 その1
11月28日
生徒会が会議に使用するための専用会議室で、俺と星屑夜顔は対峙していた。
「先輩・・・。私、何かしました?心当たりがないんですけど。」
「そりゃあ、お前、あるだろうが。この間の“校内ピタゴラスイッチ”、不問になったわけじゃあないんだぜ?温情だよ、可愛い後輩の誼で一時保留にしてやってるだけだ。」
俺が言うと、夜顔は不機嫌そうな顔で最高傑作だの何だのと小声で呟いた。
「でも、その件じゃないんですよね?仮にそうなら、朝顔がこの場に居るはずです。」
「お、流石はスターダストのブレイン、良い読みじゃねぇか。・・・いいか、よく聞けよ。今、ハウンドはとある件で動いているんだが・・・。」
「期末試験の件ですか?流石、学園の暗部は対応が早いですね。ご苦労様です。」
夜顔がさも他人事のように言った。俺は一つ息を吐いて、夜顔の目を見据えた。
「・・・標的は朝顔だ。現場からアイツの髪の毛が見つかってな・・・。まぁ、見つけたのは俺なんだが・・・。」
俺の言葉に、夜顔の顔が蒼白になったかと思うと、次の瞬間には烈火の如く怒り出した。
「まさか、先輩は本気であの子が犯人と?あの子の名前の花言葉をご存知ですか?愛情ですよ、愛情!そもそも、あの子はそんなことしません!先輩もご存知でしょう!?」
「当たり前だ、アイツ自身に事実を確認するまで、胸に留めておくつもりだったんだよ。だがな、夜中の学校から逃げてく朝顔を見たって訳の分からねぇ証言が出てきやがってな。金髪の縦ロールなんて、この学園に朝顔しかいねぇだろうが。」
予想していたとは言え、夜顔が余りにヒートアップしたため、ついつい俺も熱くなってしまう。放っておくと何時までも喚いていそうな勢いだったため、少し黙らせることにした。机を殴って大きな音を出すと、夜顔は我に返ったかのように静かになった。
「はぁ・・・。俺がアイツを疑ってるなんて、何時言ったよ?朝顔を信じてるからこそ、テメェを呼んだんだ。テメェが落ち着かねぇと、話が進まねぇぞ。」
そう言うと、幾分か冷静になった夜顔はゆっくりと肯いた。
「取り乱してすいません・・・。あの、私はどうすれば・・・?」
「今日、アイツは登校してんのか?」
「いえ、今日は体調が悪いみたいで、自宅で寝ています。」
「そうか、そいつは好都合だ。いいか、暫くは朝顔を家から出すな。暢気に登校して来て確保なんて笑えねぇからな。生徒会長やハウンドの関係者が家に来ても居留守を使え。絶対に出るなよ。その間に何とかする。」
夜顔の顔がパッと明るくなった。
「そうですか、先輩が動いてくれるのなら、安心できます。」
「・・・残念ながら、俺が直接動けるのはここまでだ。俺はお前らと関係が深すぎるからな、今回の案件から外されるのは間違いねぇだろう。先手を打ったからこそ、お前とこうして話せたんだ。これ以降は裏からのサポートしか出来ねぇが、俺の信頼している人間が直接的、間接的に協力してくれるはずだ。そいつらを頼れ。」
俺が直接動いてやれないことを知った夜顔は、やや不安そうな表情を覗かせたが、時間は待ってはくれない。俺の電話が鳴ったのだ。相手は鈴蘭さんだ。なるほど、どうやら、俺を監視する役は彼女らしい。俺は頑張れよ、と夜顔に伝え、会議室を後にした。