天骸百合 その1
11月27日
屋上には私を含め、隠密治安維持部の主要メンバーが集まっていた。部長はパイプ椅子に腰掛け、グラウンドに目を向けている。ふと、部長が口を開いた。視線はグラウンドを向いたままだ。
「・・・私が招集しといて言うのもアレだけど、よくもまぁ、これだけのメンバーが雁首揃えて集まったものね。あなたたち、勉強の方は大丈夫なの?」
「勉強する必要がなくなったから、ここに居るんじゃないのですか?そうじゃなければ、この忙しい時期に集まったりしないですよ。」
「・・・まぁ、その通りなんだけど。それじゃあ、無駄話も程々に、始めましょうか。」
鈴蘭の返答に、部長は相変わらずこちらを見ないまま肯き、話を進めた。懐から愛用の手帳を取り出し、その文面を読み上げる。
「・・・昨日、侘助と宮流璃が調べた結果、学内の教員用PCから試験問題のデータが無断でコピーされていることが分かったわ。という訳で、今回の案件は、その犯人を捕まえること。どう、簡単でしょう?」
手帳を閉じ、懐に仕舞いながら軽い感じで言った。確かに、言うのは簡単だ。あくまで“言うのは”である。
「・・・言うは易く行うは難し、という言葉を知っていますか?」
私が言い放つと、部長は口をへの字にして不機嫌そうな顔でこちらを見た。
「あら、私は事実を簡潔に述べたまでよ。それに、あなたたちの実力を信頼しているからこそ、簡単に言えるのよ。犯人を見つけて、捕まえる。この場に集まっている人間なら、この程度は容易にやってのけると確信しているわ。」
部長は、そう言って部員たちを鼓舞した。皆が、自分が期待されていることを実感し、やる気を出したのが分かった。たった一言で、この場にいる者の士気を上げたことに、私は改めて彼女のカリスマ性を痛感した。
「さあ、私からの連絡は以上よ。現状では、ひとまず情報収集をメインに活動して頂戴。今回の案件には執行部も加わるから、彼らとの情報交換もしっかりと行うように。」
一通り指示を出した後、部長は解散を告げた。屋上を後にする部員たちに私も続いたのだが、私だけが部長に呼び止められた。振り返ると、彼女は相変わらずの仏頂面でグラウンドを見つめていた。何か用かと尋ねると、部長はこちらを見ずに頭を掻きながら言った。
「・・・百合は、侘助と仲が良かったわよね?えっと・・・、その、少し恥ずかしいんだけど、色々と相談に乗って欲しいことがあるのよ。これから、時間ある?」
彼女はチラチラとこちらの様子を伺いながら、そう申し出てきた。なるほど、と彼女が不機嫌だった理由を察した。大方、風嵐君とまた揉めたのだろう。お互い、意地になって歩み寄るという選択を取り難いのはよく分かるが、いい加減、仲良くなって欲しいものだ。
私は財布を取り出し、中を見てから部長に言った。
「・・・・・・『蒼々』、ですよね。・・・部長の奢りなら、お供しますよ?」
部長は苦笑しながら、「巫女が集るなんてアリなの?」と言ったのが聞こえた。