姫咲向日葵 その14
「・・・学園の伝統を根こそぎ破壊する気か?生徒会長とはいえ、個人がそんなことをして許されると思っているのか?それは、傲慢だ。」
「生徒の学園生活を守るためなら、伝統だって壊すわよ。権力だって振りかざすし、武力だって問答無用で行使するわ。私は、そういう人間なのよ。」
「その考え方は危険だ。君なら分かるはずだ、その思考の行き着く結末が、独裁者や暴君が行うような恐怖政治であると。」
「私が暴君、つまりタイラントと化すと?そうならないために私の改革案があって、貴方というストッパーがいるのよ。」
蒲公英の目に迷いはなかった。握手をしたままの手に力がこもっているのが分かる。
「・・・俺の行動には、意味がなかったのだろうか・・・。」
「いいえ、貴方の行動がなければ、私も動かなかったでしょう。学園が変革する直接的な要因を作ったのは、他の誰でもない、貴方よ。貴方の力が、学園を変えるの。」
蒲公英と副会長の視線が交錯する。廃工場を沈黙が支配した。ランプの灯が微かに揺らめいたかと思った時、副会長が軽く息を吐いた。
「・・・分かった。君のストッパー役、俺が引き受けよう。」
彼の言葉に、蒲公英の表情がふっと和らいだ。一件落着、と言いたいところだが、正直、まだ事件は解決していない。
「ちょっと待って。そっちの問題が片付いたのはおめでたいことだけど、まだ残っているものがあるでしょう?山茶花のお友達はどこにいるの?」
私の質問に、山茶花が「あ」と間の抜けた声を出した。彼自身も今思い出したのだろう。なんとも薄情な男だ。すると、副会長が首を捻った。
「ん?なんのことだ?話が見えてこないのだが・・・。」
とぼけているようには見えない。そもそも、今更嘘をついたところで、彼にメリットがあるとは思えない。つまり、彼は何も知らない。これは、一体どういうことだ。私は頭を抱えた。一難去ってまた一難。世の中というのは、とことん甘くない。
さて、どうしたものか。私が思案を始めようとした時、新たな人影が現れた。
「そいつの居場所なら、知ってるぜ。学園の体育倉庫だ。」
人影の正体は、風嵐侘助だった。肩に誰かを担いでおり、顔は見えないが、女の子であることは分かった。二人とも傷だらけで、相当激しくやり合ったことが見て取れた。侘助は女の子を担いだまま、こちらに歩み寄り、山茶花の前で女の子を乱暴に降ろした。
「渡瀬さん!?おい、どういうことだ?」
「知るかよ。詳しいことは、この女に聞け。あぁ、それから、こいつに伝えといてくれ。リベンジしたきゃ、何時でも掛かってこいってな。」
侘助が女の子を見下ろしながら言った。なるほど、この子が噂の渡瀬秋桜さん。麻雀部の部長さんだったっけ。こんな可愛い子が、侘助をここまで追い込むとはね・・・。
「で、その彼は、どうしてそんなところに居るの?説明してくれる?」
「・・・この女の電話が鳴ったから出てみたら、知らねぇ女がいきなり『トラ君がどうのこうの』と捲し立ててきやがった。」
「その女の子、如月マイか?」
「おう、よく分かったな。そうだ、確かに如月マイだ。着信もその名前だったから、まず間違いねぇはずだ。とにかく、その女が言ったんだ。『事情を説明して、取り敢えずは体育倉庫に匿っている』ってな。」
侘助は私に向かって言ってから、山茶花に向き直り、軽くその肩を叩いた。
「おら、さっさと行って来い。お前が行ったほうが、話も早いだろ。それから、この女も連れていけよ。見てると無性に腹が立つからな。」
山茶花は、小さく頷いてから秋桜さんを背負った。「お先に失礼します。報告は後日ということで!」彼はそう言って駆け出した。