姫咲向日葵 その12
「・・・貴方は、星の数を数えたことがある?」
唐突に、蒲公英が尋ねた。私には、そう質問する彼女の意図が理解できなかった。同じように、副会長にも意味は分からなかったようで、やや困惑した表情を浮かべた。私たちを置き去りにしたまま、蒲公英は滔々と続ける。
「私は、あるわ。幼い頃、両親と星を見に行った時にね。夜空に浮かぶ数多の星を見て、私はあることを閃いた。この空に浮かんでいる星が、一体幾つあるのかを全部数えれば、両親が褒めてくれるに違いない。根拠はない希望を胸に、私は必死になって星を数えた。星を指で差して一つずつ数え、首が痛くなるのも我慢して上を向き続けた。けど、結局、無理だった。まさに、多勢に無勢。小さな子どもがたった一人で、幾億の星を相手にしたのが、そもそも無謀だったのだけど。」
話の全容が見えてこない。彼女の思い出話が、副会長の説得に繋がるとは思わないし、どうして、星の話を選んだのかも分からなかった。
「それで、論点から外れたつもりか?俺が聞いているのは、例外への対策であって、君の思い出話ではない。俺を馬鹿にしているのか?」
ちょっと、火に油を注いでどうするの。益々以て説得しづらい感じになってるわよ。私は、もしや蒲公英が敗北するのではないかと、だんだんと不安になってきていた。そんな大どんでん返しは、全く微塵も期待していない。
「馬鹿にしているつもりはないのだけれど・・・。そうね、回りくどい言い方だったのは認めるわ。じゃあ、貴方の問いに対する答えを簡潔に述べるわね。対策なんて無いわ。」
彼女の言葉に、辺りは凍り付いた。空いた口が塞がらない。副会長ですら、その返答に拍子抜けし、口をパクパクと動かすのがやっとだった。
「“偶然”という要素をトリガーとして発生する事象なんて、それこそ星の数ほど在るわ。さらに、様々な分岐点を経て、それぞれの結末にたどり着く。その全てに対する対処策なんて、私一人では手に負えない。多勢に無勢。土台、無理な話だわ。」
「・・・開き直り、と捉えていいのか?」
「そうね、その通り。これは、まさに開き直りよ。ただ、一人では無理、という意味での開き直りだけど。つまり、多勢に無勢というハンデさえ解消すれば、なんとかなる。偶然だろうが何だろうが、夜空の星ですら、一切合切が敵じゃなくなる。」
「だが、君は、その偶然に敗北した。ハウンドを以てしても、偶然には勝てなかった。」
「それは仕方ないわ。だって、貴方が居なかったんだもの。今回、私が偶然に勝てなかったのは、私の側に貴方が居なかったから。」
蒲公英は、副会長の目を真っ直ぐに見て言った。
「俺を懐柔して、もう一度手元に置く気か。まぁ、監視しやすいという意味では、当然だろうな。だが、考えが甘いな。今更、元通りというわけにもいくまい。」
「でも、私と貴方ならそれが出来る。あと、勘違いしないで欲しいのだけど、これは懐柔じゃなくて、命令よ。生徒会長が、部下に命令しているだけなの。」