姫咲向日葵 その11
二人のやりとりを他所に、雷桐さんがそばにやって来た。どうやら、御原は相変わらず気絶したままで、脇に手を入れて引き摺っていた。
「あの子が、君の言っていた主役か?なんと言うか、その、あれだな、凄いな。」
「やっぱり、分かりますか?ええ、彼女は凄いですよ、色々と・・・。」
隣の鈴蘭と山茶花を見ると、何故か正座で正面を見つめていた。背筋はピンと伸び、顔が強ばっている。何故だろうと思ったが、すぐに理由は分かった。先ほど話した“伝説”の主人公が目の前にいるというので、緊張しているのだろう。私は前方に視線を戻した。生徒会会長と副会長の問答はまだ続いている。
「同じ場所に同じものを置いておくと腐ってしまう、冷蔵庫の奥で駄目になってしまう野菜が良い例だ。だが、この現象が起こるのは、何も冷蔵庫の中だけではない。」
「・・・生徒会においても、その例が適用されると?でも、そうならない為に、定期的な入れ替え選挙と、校則における生徒会の不信任号令が存在している。このくらい、貴方なら理解しているはずでしょう?」
「もちろん。だが、それでも問題はある。ハウンド、隠密治安維持部だ。掃除部の存在もそうだ。個人が使役するには、この“力”は強大過ぎないだろうか。大き過ぎる“力”を与えられた権力者は、どんなに有能な人物であっても、力の使い方を誤る。」
副会長の語調が一段と強くなった。組んでいた足を解き、膝に肘を乗せて前のめりの姿勢になる。蒲公英の目を見据え、威嚇する。いつも冷静沈着の副会長からは、全く想像できない姿だった。ただ、蒲公英も負けてはいない。彼女も同じように彼を見た。同じようにというのは、言葉の通りだ。視線が、そのまま彼を貫通してしまうのではないかと思うほどに、彼女の視線には威力があった。
「そうね、貴方の言うとおりかも知れない。だけど、そうなるとは限らない。そもそも、私には、彼らを自由に動かしたりできる権限は無いわ。仮に私が依頼をしたとしても、そこにいるハウンドの部長が了承しなければ、彼らは絶対に動かない。」
その通りだ。たとえ親友でも、そこに依頼が発生すれば、生徒会会長とハウンドの部長という間柄でしかない。私が拒否すれば、例外でも発生しない限り、その案件に私たちが関与することは有り得ない。
「だが、例外もあり得る。大貫山茶花と風嵐侘助は、互いに独自の思惑をもって行動した結果、偶然にも俺たちにたどり着いた。もし、依頼を棄却されていた状態で、今回のような不測の事態が発生したとしよう。君は、どう対処する?」
副会長の指摘に、私は思わず両手で顔を覆い、天を仰いだ。流石と言うべきか、案の定と言うべきか。彼は、的確に“例外”という問題点を突いてきた。例外、つまり、私たちが意図せず案件に巻き込まれてしまう、というケースだ。各部員のプライベートを管理することは不可能であり、それこそ、偶然による事象の結末を把握し、コントロールするなんてことは、神様でもなければ到底叶わない。彼は、「どう対処する?」と尋ねたが、偶然に対する対策を考えること自体が、そもそもナンセンスなのではないだろうか。