崩焔寺鈴蘭 その8
山茶花ちゃんの表情は分からなかったが、おそらく、呆れているか、面白がっているかのどちらかだろう。
「・・・山茶花ちゃんは、何か痛い目にあったんですか?まさか、殴られるのが嫌で自分から進んで縛られたなんてことは、ないでしょう?」
「お、流石は先輩ですね。可愛い後輩のことをよく理解してらっしゃる。」
彼は悪びれる様子もなく言った。正直、ここまで開き直られると、呆れはなく、奇妙な清々しさすら感じられた。私は彼のこういった部分を好意的に思っていた。
「ハハハッ、まったく、アンタらを見てると飽きないねぇ。笑いのセンスが光ってる。」
御原が笑いながら言った。敵意は感じられない。まるで、友人と他愛のない会話を楽しんでいるようだった。
「で、私たちを拘束してどうするつもりなのですか?そちらの言う革命ごっこを、特等席で見届けろ、とでも言いたいのですか?」
「・・・革命ごっこ、か。なるほど、間違ってはいないだろう。だが、この革命ごっこによって学園は変わる。間違いなく、だ・・・。」
ソファの後ろから声がした。暗がりで姿は見えなかったが、声で分かった。おそらく、黒蜜学園の生徒であるならば誰しもが聞き覚えのある声。
「・・・今回の件の首謀者、あなただったのですか、副会長?」
「首謀者?・・・なるほど、君たちから見れば、俺が首謀者だろうな。」
こちらに姿を見せないまま、副会長は何やら意味深なことを言った。彼は更に続ける。
「だが、正確に言えば、この事件に首謀者など存在していない。すべては起こるべくして起こった事象だ。関わった者たちは、俺を含め、あくまで歯車でしかない。人の意思ではなく、様々な事象がプロセスを経て革命を起こしたんだ。」
私には、彼の言っていることの意味が理解できなかった。いや、できなかった、という言い方には語弊があるだろう。正しくは、したくない、だろう。明確な理由があったわけではないが、ただ、彼の言葉を聞いた瞬間、頭で考えるよりも先に口が開いていた。
「そんな・・・。それは違うんじゃないでしょうか?人に意志がなければ、物事は成り立ちません。人は数多の選択を繰り返して行動しているのです!」
「・・・・・・。ならば、君の意思を聞かせたまえ。君は何故ここにいる?」
沈黙の後、副会長が私に訪ねた。
「何故って、私は山茶花ちゃんに頼まれて・・・。」
そこまで言って、私はハッとした。そして、私が口にするよりも早く副会長が言った。
「君は選択していない。暇で時間を持て余していた所に仲間が現れ、頼まれ事をされる。家に帰ってもすることがない、なので協力することにした。これは、選択ではない。君がここにたどり着くまでの間、意思による選択はなかった。」
「・・・しかし、山茶花ちゃんを手伝おうと思ったのは私の意思です。他の誰でもない、私自身の意思です!」
「違う、それは君の意思ではない。この件に関わる人間は、もっと大きなモノの意思によって動かされている。だから、君の意思ではない。」