天骸百合 その8
私が言うと、私を取り囲んでいた者の大半が武器を手放して逃げ出した。しかし、まだ数人残っている。
「・・・逃げないのですね。何故ですか?」
「うるせぇよ!たかが女一人にここまでされて、尻尾巻いて逃げられるかってんだ!」
男が吠えた。確かにその通りかも知れない。大勢で女子を囲んで、その結果が返り討ちなんて聞けば、いい笑いものだ。勝ち目がないと分かってもなお向かってくる理由としては正しいのだろう。だが、何か違和感がある。
ここに残る男たちには怯えが見えた。その対象は私ではない誰かだった。彼らは、恐怖によって縛られているようだった。
「・・・畏れているのですか?よろしければ、力になりますよ?」
私の言葉に、数人の男たちがざわついた。その内の一人が言った。
「・・・なぁ、この女なら、やってくれるんじゃねぇか?」
「あぁ、確かに、可能性は十分あるぜ・・・。」
「・・・・・・頼んでみるか?」
最初の声に釣られるように、次々と声が上がった。そして、ついに周囲の男から殺気が消えた。短髪の男が私の前に立ち、神妙な面持ちで口を開いた。
「・・・・・・いや、言っても無駄だ。話したところで、あの化け物みたいな女をどうにかできるわけがない。あの女と同じ次元に立てる奴なんか、それこそヒトじゃねぇよ。」
苦虫を噛み潰したような顔で呟く。周りの男たちは、どうしたものかとそれぞれの顔を見合わせている。どうやら、勝てない以上戦いを続けるつもりはないらしいが、かと言ってこれからどうするかは決めきれないらしかった。
「ならば」と、私はある提案をした。
「・・・ならば、一つ賭けでもしてみませんか?私たちハウンドが、その化け物みたいな女とやらを倒せるか否か・・・。」
周囲が再びざわつき始める。短髪の男が尋ねた。
「倒せた場合、俺たちは何をすればいい?」
「・・・簡単なことです、毎週末、お寺の掃除をして下さい。それだけです。」
「あ・・・?そ、それだけ?それだけなのか?」
「・・・それだけです。もちろん、わたしが納得するまで綺麗にしてもらいますが・・・。」
私はもう必要ないと判断し、木刀を竹刀袋に収めた。どんな無理難題を押し付けられるのかと不安がっていた男たちも、私の意外な要求に安堵したのか、それとも拍子抜けしたのかよくわからない表情を浮かべていた。
「じゃあ、もし、倒せなかった場合は?そうなった場合、俺たちには一体どんなメリットがあるんだ?」
「・・・私のこと、好きにしていただいて構いません。」