天骸百合 その7
私が一度は言ってみたかった決めゼリフを言い放つと、部長は小さく笑った後そのまま廃工場に向かって走り去った。その背中を見送り、竹刀袋から木刀を取り出す。
「・・・・・・始めましょうか。」
林の影から敵が現れた。数は約20人程度、既に周りを取り囲まれており、切り抜けるには全員倒さなければならないだろう。だが、さっきの言葉に偽りはない。この程度なら何の苦もない。そう言い切れる。
「お前、確か近所の寺の娘だったか。噂には聞いていたが、なるほど、かなりの上玉じゃねぇか。悪いが、俺たちはフェミニストじゃねえんだ。手加減はしないぜ?」
一人の男が下卑た薄笑いを浮かべて、手にしていた金属バットを構えた。それに合わせて周りの仲間たちも距離を詰めてくる。
ふと、昔に父がよく言っていたことを思い出した。
『魑魅魍魎の類など、欲に飲まれたヒトに比べれば可愛いものだ。』
まだ幼かった私には、父の言っていることは理解できなかった。しかし、今なら分かる。強過ぎる欲は他人を滅ぼし、自分も滅ぼす。そういったヒトからは、独特の色が滲み出ていて、私にはそれが見えた。
「・・・人の心に巣喰う悪鬼を狩るのが、巫女たる私の務め。鬼道に堕ちしヒトを救うため、斬らせていただきます・・・!」
木刀を両手で握り、肩に担ぐ。中腰で構え、体の重心を前へ・・・。
「あ・・・?何だそりゃ?そんなんで俺らを全員やろうってのか?」
「・・・ご心配には及びません。私の剣技は我流ですので、これでいいんです。・・・では、黒蜜学園隠密治安維持部所属、天骸百合、推して参ります・・・!」
溜め込んだ力を一気に開放し、大きな歩幅で飛び出す。低い姿勢で距離を詰め、木刀の攻撃圏内に入った瞬間、肩に担いだ木刀を男目掛けて振り下ろした。木刀が男の肩にめり込んだ。男の体から力が抜けるのを感じ、その瞬間、前蹴りで男を蹴り飛ばす。名付けて、奥義『映月』。・・・いやまぁ、木刀を持ち上げるのが面倒くさいから、相手を退かしたほうが楽ってだけなんだけど。何にせよ、私の剣は剣術と体術の融合。鈴蘭に教えてもらった護身術と、剣道部の皆と考えた創作技からなる天骸流剣術に敵なし・・・!
「こ、この・・・!調子に乗るんじゃねぇ!!」
弾かれたように数人の男が飛び掛ってきた。数は4、武器はそれぞれ鉄パイプ、木刀、金属バットを持ったのが2人。
「・・・神鳴月・・・!」
まず男の鉄パイプを切り払い、鳩尾に掌打を放つ。バランスを崩し倒れていく男を一瞥し、振り返りざまにすぐさま木刀を振り抜き、背後で金属バットを振りかぶっていた男の腹に叩き込んだ。男は低い呻き声を上げ、ゆっくりと倒れていく。その隙に金属バットを奪い取り、左右から同時に仕掛けてきた男二人も叩きのめした。
「・・・コレでも戦えないことはないけれど、やっぱり、風嵐君のようにはいかないか。使い勝手が違うとこうもやりづらいなんて・・・。」
金属バットを捨て、倒した二人の片方が手にしていた木刀を拾い上げて振ってみる。
「・・・うん、やっぱり、木刀が一番手に馴染む。さぁ、偶然にも二振りの剣を手にしてしまったので、ここからは手加減できません。・・・悪しからず・・・。」