天骸百合 その6
午後7時、私と部長は郊外の廃工場へと向かっていた。敵の正体さえ掴んでしまえば、後は宮流璃さんの出番だ。あの子の持つ情報量は凄まじい。しかも、その情報はリアルタイムで更新され続けている。日本中のネットユーザーと逐一情報を交換しているからだ。もちろん、この街の情報も例外ではない。街に住む著名人のゴシップや犯罪の詳細、不良グループの勢力関係まで幅広く集まってくる。つまり、オルトロスが現在どこを拠点にしているか、主要なメンバーがどこに居るのかを調べるのは造作もないのである。
私は蒼宮さんから借りた木刀を木刀袋に仕舞い背中に担いでいた。所謂、大太刀ほどの長さの木刀なのだが、実は大太刀こそ私が最も扱い慣れている刀であり、違和感は全く感じなかった。どうやら、これも戌淵さんが用意していたものらしい。
部長はというと、いつものようにオーダーメイドの長い学ランを羽織り、袖に隠密治安維持部の文字の刺繍が施された腕章を着けている。ちなみに、会長は来ていない。力仕事は向いていないそうだ。
「私と百合がいれば、大概の問題は片付くんだけどね。一応、山茶花には連絡しておこうかしら。解決したのも知らずにせっせと探し回る彼を見てみたい気もするけど。」
言いながら部長は小さく笑った。確かに、いつも落ち着いている大貫君の慌てる姿には興味がある。滑稽であることは間違いないだろう。漫画のように走り回る大貫君を想像しながら、私は彼に電話を掛けた。
「・・・・・・・・・・・・出ない。」
しばらく待ってみたが、一向に呼出音が止む気配はなく、ついに留守番電話サービスに繋がってしまった。再度かけ直してみたものの、やはり彼は電話に出なかった。
「あまりそういうことを想像したくないけれど、何かあったのかも知れないわね。山茶花のことだから、単独行動してるってことはないでしょうけど・・・。何にせよ、万が一に備えて、急いだ方が良いわね。」
悪い予感というのは往々にしてよく当たる。胸の中に不快なざわめきを感じ、私たちは走り出した。
しばらく走り続け、廃工場へと続く林道の中で、私は気配を感じ立ち止まった。部長も立ち止まり、どうしたのかと尋ねてきた。
「・・・敵がいます。正確な数は分かりませんが、この程度なら私一人で。」
「そういうわけにはいかないわ。仲間を置いて先に進めるものですか。」
私の言葉を遮り、部長は懐に手を伸ばした。
「・・・部長、何か勘違いされているようなので、先に訂正しておきます。プライベートでのお気遣いなら光栄ですが、仕事中はやめて下さい。私の仕事は道を拓くこと、部長の仕事は道を進むこと。違いますか?」
「・・・・・・ごめんなさい、確かにその通りね。」
「・・・それに、私は今少し怒っています。」
私の言葉に部長は首を傾げた。
「・・・雑魚相手に私が遅れを取るとでも思っているんですか?」