崩焔寺鈴蘭 その6
男はその体格に見合わないずいぶんと間延びした話し方をした。口調はアレだが、物腰は比較的柔らかい。一見すれば油断してしまうような男だったが、それ以上に、桁外れの威圧感を感じた。
「いえ、場所は変えましょう。人に迷惑をかけるのは良くないことですよ?私はそこまで凶暴な女じゃありませんからね。」
「なるほどねぇ、まぁ、そういうことなら、さっさと行くとしようじゃないか。俺だって好き好んで他人に迷惑かけようってんじゃないからさ。場所は郊外の廃工場、そこに役者が揃うことになってる。」
そう言って歩き始めた男に、私は名を尋ねた。男は振り返らず、ただ“御原カゲキヨ”とだけ答えた。
しばらく彼の後ろを山茶花ちゃんと一緒について歩いていたが、私はその間、この男、
御原とどう戦うかをずっと思案していた。山茶花ちゃんの強さはあまり知らないが、確実に御原には敵わないだろう。かと言って、私一人では勝てない。たとえ強さは互角でも、根本的な体格差やスタミナ量は彼が圧倒的に勝っているに違いないからだ。持久戦に持ち込まれれば、力技でゴリ押されるのは明白。なら、山茶花ちゃんとの共闘がこの状況における最もベストな戦い方だと思う。
しかし、分からない事が一点。何故、私たちを役者が集まるという廃工場へと導くのか。おそらく、一連の襲撃事件の実行犯は御原に間違いない。だとすれば、同様の手口で私や山茶花ちゃんを潰しておけば手っ取り早かったはず・・・。
色々考えはしたが、結局答えは出ないまま目的地へと到着してしまった。そもそも、私の頭で分かるはずもなかったかも知れない。こういう考え事は、部長や会長、先生の仕事だろう。下っ端は下っ端らしく、目の前の障害を叩けばいいのだ。
「この辺でいいかねぇ、ほかの役者はまだみたいだが、まぁ、気にしなさんな。アンタらのお仲間の力が本物であるならば、この場に辿り着くはずだ。」
御原はそう言って振り返った。その背には廃工場がある。閉まった扉の隙間から僅かに漏れる光を見る限り、中に誰かが居るのは明らかだ。
「なるほど、先に進みたければあなたを倒していけと、そういうわけですか。でも、いいんですか?私たち2人であなたを含め黒幕も倒しちゃうかも知れませんよ?」
強気に言うと、御原は顔を覆い肩を揺らした。徐々に揺れは大きくなり、ついに大口を開けて笑い始めた。
「ククク・・・!あぁ、失礼。そう言えば、何でアンタらをここまで招待したか言ってなかったか。理由は簡単さ、アンタらがハウンドの中で一番楽に潰せるからさ。」
それを聞いた瞬間、無意識に私は駆け出していた。