姫咲向日葵 その3
鉄の扉が閉まると、一陣の強い風が吹いた。
「大貫山茶花・・・。彼からは、深淵よりも深く暗い闇を感じるわ。」
「確かに油断できない男だけど、ああ見えて、私が最も信頼している部下よ。」
声の方向には貯水タンクがあり、その上に一人の女子生徒が仁王立ちしていた。
腕を組み、ただならぬ威圧感を振り撒く彼女の名は、法条蒲公英。
黒蜜学園の生徒会長であると同時に、執行部の部長でもある。
蒲公英はたまにチラッと見える下着を隠そうともせず、私を見下ろして話を続ける。
「彼はいずれ、この学園に災いをもたらすような気がする。
部下の手綱はしっかりと握っておくことね。はぁ、個性は大事だけど、個性が強過ぎる
のも考えものね。」
彼女の勘は必ず当たる。良い悪い関係無く、全て当たるのだ。
「縁起でもないことを言わないで頂戴、怖いじゃないの。
どうせ“侘助”のことを言ってるんでしょうけど、彼も意外に好青年なのよ?」
「そうね、でなければ、『ハウンド』で人の為に働こうなんて思わないでしょうね。」
私や彼をあそこにねじ込んだ張本人が何を言うか。
彼女が生徒会長と執行部部長の権限を行使して、色々と根回ししていたのを知っている。
大方、他の部員にも同じ手を使ったのだろう。
蒲公英のピンクの下着を眺めながら、私は小さな溜め息をついた。
「はぁ、こんな誰も寄り付かないような所に隔離されて、呼ばれればお仕事って、
私はどこぞの大魔王なのかしら?まったく、勘弁して欲しいわ。」
言った瞬間、蒲公英を取り巻く威圧感が霧散した。
夜明けの静けさのも似た穏やかさが彼女から感じられた。
「そうね、もっと頑張ってくれるなら、生徒会の情報網を駆使して
いくらでも素敵な好青年を紹介してあげる。」
これ以上どう頑張れというのか。もしかしたら、蒲公英は私を殺す気なのかも知れない。
もう一度軽く溜め息をついて、私はやや西に傾き始めた太陽を見た。
「遺書でも書いておこうかしら・・・。」