崩焔寺鈴蘭 その5
「・・・え、それって、マズイんじゃないですか?と言うより、侘助ちゃんは今回の件には不参加だったはず・・・ですよね?」
私の質問に、山茶花ちゃんは苦笑いしながら頭を掻いた。
「いやぁ、この事態は正直予想外というか、想定外というか・・・。まさか、侘助が首を突っ込んでくるとは夢にも思わなかったんスよ。」
確かに、侘助ちゃんはハウンドに対してそんなに情は持っていない。どちらかと言えば、彼は顧問である月神菖蒲先生に従っているイメージの方が強い。身内に何かあったところで、動くような男ではないとタカをくくっていたのだ。余りにも誤算・・・。
「・・・考えが甘かったようです。おそらく、彼を動かし得るほどの起爆剤が、今回の件に絡んでいたんでしょう。とにかく、侘助ちゃんを止めるか、最悪その起爆剤を見つけなければ、更に面倒なことになりかねませんですよ。」
「まぁ、それはそうなんですけどもね・・・。そろそろ、あいつのことを少しは信用してやっても良いんじゃないですか?僕たちが心配しすぎてるだけかも知れませんよ?」
山茶花ちゃんの言っている事も分からないではない。彼がこの街に来てもう1年が経つ。変わっていてもおかしくない。だけど、何かあってからでは遅い。半年前の“あの事件”から得た、忘れてはいけない教訓だ。
「・・・分かりました、今回は山茶花ちゃんに免じて彼を信用しますです。ですが、部長や先生の意見も聞かなければいけませんね。話はそれからです。それよりまず、私たちはやらなきゃならないことがあるでしょう?さっさと百人組み手の会場に案内してくれませんですか?」
実のところ、私の頭の中はそのことでいっぱいだった。思えば、私はいつもそうだった。護身術というのは建前に過ぎず、本心は自分がどこまで強くなれるかを知るため。先生が私をハウンドに誘ってくれたときは、心底喜んだ。この部に居れば、存分に暴れられるに違いない。そして、その予想は正しかった。揉め事を裏で処理する、当然暴力的な解決に至ることだって多々ある。そういう時、いつも私は楽しんでいた。仕事を達成した喜びを味わうためじゃない、人を殴り、蹴り倒すことに高揚していたのだ。
暴力は悪であり、滅ぼされなければならないモノである。それは十分理解しているが、それでも私は、それを、暴力を肯定するだろう。そうでなければ、私が私でなくなる。
「確かにそうですね、急ぎましょう。侘助は足が速いですから。でも、その前に中ボスを倒さないといけないかも知れませんよ?」
山茶花ちゃんがそう言って前を見た。その方向を見ると、私たちの前に黒いパーカーを着た大柄の男が立ち塞がっていた。
「中ボスねぇ・・・、まぁ、アンタらからしたら、俺もその程度なのかねぇ。まぁ、どうでもいいことだけどなぁ。アンタらには悪いんだけどさぁ、ちょっと付き合ってもらえるかなぁ。まぁ、こんなところじゃなんだし、場所変えようか。まぁ、別にここで“お話”しても構わないんだけどねぇ・・・?少なくともそっちのお姉さん、崩焔寺さんだったか、アンタはどこでやろうが気にしないってタイプだろう?」