崩焔寺鈴蘭 その4
2時過ぎ、私は街で一番大きな公園でハンバーガーを食べていた。公園の中央に設置された噴水付近のベンチに腰掛け、道行くカップル達を眺める。リア充め・・・、一人残らず爆発してしまえばいいんです。私の恨めしそうな視線を感じ取ったらしいカップルが、私の方を横目で見ながらひそひそと話して足早に去っていった。あぁ、こんな天気の良い休日に一人で公園に居るなんて、寂しい女と思われてるに違いないです。
「・・・ヤバい、暗黒面に落ちそうです・・・。」
何か楽しいことはないだろうか。バニラシェイクを啜りながら地面を行進するアリたちを眺めていると、それに人影が覆い被さった。何事かと見上げると、後輩の大貫山茶花が私を見下ろしていた。
「どうも、こんにちは。えらく暇そうですね?」
「こんにちは。まぁ、暇といえば暇ですよ。見て分かりませんですか?」
やや皮肉った調子で返すと、山茶花ちゃんはにっこりと微笑んだ。
「それは、こちらとしては好都合です。どうです、暇つぶしに、僕に付き合ってもらえませんか?実は、前から魅力的な女性だと思っていたんですよ。」
「・・・それは嬉しい申し出です。どこにエスコートしてくれるんですか?」
詳しいことは聞いてみないと分からないが、大凡の検討はつく。ほぼ間違いなく厄介事に巻き込まれるのだろう。まぁ、どうせ暇だし、運動がてら少しばかり暴れるのも悪くはない。日頃の鬱憤を晴らさせてもらうとしましょうか。
私が立ち上がると、彼は相変わらず微笑んだまま私に尋ねた。
「先輩、百人組み手、したくありませんか?」
「はぁ、まったく、ハウンドには休日って概念が無いのですか?次から次へとイベントが舞い込んでくるなんて・・・。山茶花ちゃん、百人組み手なんて楽しそうなイベントを、断る人がいると思いますか?」
腕を回し、空になったシェイクのカップを握り潰す。この時、私がどんな顔をしていたかは分からないが、たぶん凄く楽しそうな表情をしていたに違いない。
私のやる気が伝わったのか、山茶花ちゃんは親指を立てながら流石です、と言った。
「さて、そうと決まれば早速いきましょうか。実は、友人が厄介事に巻き込まれちゃいまして、オルトロスって不良グループに拉致られてしまったんです。しかも、会長の読みが正しければ、この件は例の屋上の落書きにも繋がってますね。」
「それは・・・、まぁ、お友達ちゃんには悪いですけど、こちらとしては好都合ですね。一気に事件を収束させられますよ。」
私が言うと、山茶花ちゃんは少し困ったような表情でこう言った。
「その通りなんですがね、ちょっとばかりイレギュラーが・・・。侘助も絡んでます。」