風嵐侘助 その7
雷桐カツヒコ。俺がこの街に来た時に知り合った不良であり、数少ない友人の一人でもある。雷桐は倒れた不良たちに歩み寄り、全員に帰って休むよう促した。
「・・・久しぶりだな、風嵐。こんなことになってしまって、本当にすまないと思っている。言いたいことが山ほどあるだろうが、まずは俺の話を聞いてくれ。」
公園から立ち去る不良たちの背中を見送りながら、雷桐は静かに言った。俺たちはひとまず公園内のベンチに腰掛けた。
「さて、とりあえず、お前が聞きたいのはこれだろう?誰がお前を狙っているのか。まぁ、これに関しては、もう分かっているだろう。」
「・・・あぁ、オルトロスだろう?つまり、これはテメェの指示ってとこでいいんだよな?いくらテメェとはいえ、笑えねぇ冗談だぜ・・・。」
思わず声が怒気を帯びる。今にも飛び掛りそうな俺の殺気を感じ取った雷桐は、一つ息を吐いてタバコをくわえた。
「残念ながら、俺はもうそういう立場にはいない。例の件のせいでな、今じゃあ下っ端の一人にすぎないんだ。あのパーカーも、今の頭に譲ったよ。」
「・・・すまねぇ、ついカッとなっちまった。なるほど、それでそんな普通のパーカーを着てるのか。しかし、あの“豪腕の雷桐”と恐れられた男が、ただの兵隊とは・・・。」
安堵から出た軽口に、雷桐は僅かに顔を綻ばせながらタバコに火を点けた。
「大層な二つ名を付けられはしたが、所詮、俺は人の上に立つ器じゃなかったってだけだ。最近じゃあ、もっぱら新人のお守りだ。慕ってくれている連中もまだいるが、それでも、俺の時代は終わったって空気感の方が強いな。」
「そうか・・・。で、オルトロスの目的は・・・いや、だいたい想像できるぜ、俺たちを潰しに掛かってるんだろう?だが、何故ハウンドを狙う?」
「さぁな、皆目見当もつかない。さっきも言ったとおり、俺は下っ端だ。入ってくる情報も限られている。“真島”も詳しいことは聞かされていないらしい。」
「“真島アスカ”、か・・・。今回の件、あの女はどう思っているんだ?“知略の真島”が何の考えもなしってのは、有り得ねぇだろ?」
俺が質問すると、雷桐はタバコの火を消し、それを携帯灰皿に押し込んだ。
「真島なら、護衛という名目でかなりの数の監視を付けられているよ。真島はオルトロスの双頭の一人で有名だ、いつ狙われてもおかしくない、ということだそうだ。」
「・・・チッ、めんどくせぇ奴が頭になったな。用心深さが並みじゃねぇ。しかし、真島が動けねぇとなると、統制とれねぇんじゃねぇのか?古参メンバーも多いだろ?」
「その辺も抜かりはなさそうだな。既に古参組は脇に追いやられて新人組が中心になって動いている。完全な世代交代ってわけだ。」
「おいおい、お手上げ状態じゃねぇか。そんなんで大丈夫かよ?お前には、これから色々と手伝って貰わなきゃならねぇんだぜ?」
俺がそう言うと、雷桐は怪訝そうな表情を浮かべた。
「・・・俺に何させようって言うんだ?厄介事に巻き込まれるのは御免なんだが・・・。」
「厄介事?馬鹿言うんじゃねぇよ、俺はテメェをもう一回オルトロスの頭にしてやるって言ってんだよ。さぁ、オルトロスを殴りに行こうか・・・!」