姫咲向日葵 その2
男子生徒の顔が恐怖に歪み、今にも泣きそうになっている。
その顔を見て、私は無性に腹が立った。
なんでお前が泣きそうな顔をしている、その権利があるのはお前じゃない。
泣く権利があるのは、お前が傷つけた女子生徒だ。
引鉄に掛かった指に力がこもる。
私の殺気を感じ取ったのか、男子生徒は言い逃れを始めた。
「ま、待ってくれ!確かに僕は執行部から逃げたし、屋上にも侵入した!それは
認める!だが、下着泥棒は誤解だ!その証拠に、下着なんて持っていないだろ!?」
この期に及んで、まだそんなことを・・・。
その根性には、呆れを通り越して尊敬すら覚えるわ。
「ちょっと黙っててくれない?それとも、口の中に弾を撃ち込まれたいのかしら?
まぁ、どっちにしろ、君には少々痛い思いをしてもらわないといけないわね。
そうでないと、私の気が収まらないのよ・・・。」
銃口を鳩尾へと向ける。本当は顔にぶち込んでやりたいが、さすがにそれはまずい
だろう。多少改造しているため、威力は折り紙付きだ。
おそらく苦痛にのたうち回るだろう。想像するだけで顔が綻んでしまう。
「さぁ、おしおきを始めましょうか。」
私が引鉄を引こうとした瞬間、再び屋上の扉が開いた。
「部長、それは執行部の仕事じゃないッスか?」
私の部下、大貫山茶花だった。彼は私と男子生徒の間に強引に
割り込み、何も言わずニッコリと微笑んだ。私は銃を懐に戻しながら、山茶花に指示を出した。
「・・・彼を拘束して。執行部への引渡しは君に任せるわ。事後処理もいつもどおり、
“宮流璃”と協力して行なって頂戴。」
「はいはい、お任せあれ。さて、これから君を執行部に引渡すわけだけど、あそこの
取り調べはソフトだから安心していいよ。少なくとも、いきなり改造モデルガンの弾
を撃ち込まれる心配はないから。」
山茶花は手錠を掛けながら軽口を次々と並べていく。
彼は非常に優秀な部下であり、その能力を高く評価している。だが・・・。
「ねぇ、山茶花。」
私の呼び掛けに山茶花が顔を上げた。私は、彼の切れ長の細い目を見つめた。
「・・・いえ、何でもないわ。じゃあ、頼むわよ。」
「任しといて下さい。」
そう言って、山茶花は小さく笑いながら男子生徒を連れて屋上を去っていった。