大貫山茶花 その8
隣町の駅を出た直後、渡瀬さんから電話が掛かってきた。あぁ、そう言えば、
彼女はメールが嫌いだったような気がする。電話に出ると、かなり慌てた様子で
早口に捲し立てた。
「山茶花くん、さっきのメールって本当なの!?夜須くんが拉致されたなんて、
あまり信じられないんだけど・・・!」
まぁ、無理もない。いきなり友人が拉致されましたと言われても、簡単には
受け入れられないだろう。
「拉致されたんだと思うよ。目隠しもされてたし・・・。渡瀬さんは先に搜索を
始めてくれないかな。僕はもう少し手伝ってくれそうな友人を集めてみるよ。」
「うん、わかったッ!でも、なるべく早く合流してね?私一人じゃ、さすがに
限界があるから、そのへんよろしくッ!!」
渡瀬さんはそう言って電話を切った。気合入ってるなぁ。本気の彼女が協力して
くれたら百人力ってやつだ。さて、次は・・・。僕は続けて電話を掛けた。
「・・・・・・あ?何か用か?」
明らかに不機嫌そうな声が聞こえた。どうやら寝起きらしい。
「やぁ、おはよう。お前に手伝って欲しい案件があるんだが、出て来られるか?
そうだな、報酬はジャンボパフェ20食でどうだ?」
僕が提案すると、声の主は少し逡巡した後、ダメだと言った。
「それじゃあ乗れねぇな。バナナジャンボパフェ30食だ。それで考えてやる。」
ぐっ・・・、足下見られたなぁ。ただでさえバナナのは高いのに、それを
30食は少し金銭的にキツいんだが・・・、背に腹はかえられないな。
「・・・分かった、それで手を打とう。案件は人探しだ。対象は夜須トラヒコ。
顔写真は宮流璃に頼めばすぐ手に入るはずだ。どんな手を使ってでもいい。8時
までに見つけ出してくれ。頼んだぞ。」
「おう、任せろ。あっと言う間に見つけ出してやるよ。」
通話を終え、僕は辺りを見回した。ヤスの家はここからそう遠くない。
「さて、渡瀬さんに侘助、それから宮流璃。これでこっちの戦力はだいたい100人
ぐらいになったな。あの子がどれくらいの人数を用意しているかは分からないけど、
この3人を突き崩すのは容易じゃないはずだ。僕は、僕自身が出来ることをさせて
もらうとするかな・・・。」
自分で言うのも何だが、僕は顔が広い。この近辺のほとんどの住人が顔見知りだ。
ヤスの家から駅までのルートを順に辿って聞き込みをすれば、何かしらの手掛かりが
見つかるかも知れない。僕はヤスの自宅を目指して歩き始めた。