崩焔寺鈴蘭 その3
コタロウちゃんの話はまだ終わらない。
「だが、今回の件はハウンドのメンバーを標的にしている。俺たちですらメンバーの
全容を把握しきれていないのに、どうして敵は俺たちをピンポイントで狙えたんだ?
ハウンドの誰かが情報を流してるって考えるのが、まぁ道理だよな。さて、じゃあ誰が
そんなことをしたんだ?化け物みたいな連中をわざわざ敵に回して、何のメリットが
ある?鈴蘭、お前分かるか?」
私は言葉に詰まった。彼が何を言おうとしているのか、理解できないのだ。
「・・・私に分かるわけないでしょう。なら、あなたは分かるんですか?」
逆に問うと、彼は間髪入れずに分からん、と答えた。思わず椅子から落ちそうになる。
私が椅子に座り直していると、コタロウちゃんが言った。
「まぁ、無駄話はさて置きだ。俺たちはあの晩、部員からの連絡で学園に向かった。
連絡を寄越した部員が誰かは分からなかったが、ハウンドの緊急招集と言われれば、
行かないわけにもいかんだろう。で、俺たち皆この様だ。」
「つまり、何が言いたいんですか?回りくどい男は嫌いなんですけど。」
遠回しな発言に対して嫌味を言うと、彼は真面目な顔で言った。
「・・・近いうちに、お前を含めた他の奴らも襲撃を受けるはずだ。まぁ、いらん心配
だとは思うが、用心しておけ。特に侘助だ。あいつは何だかんだでこの近辺じゃあ一番
有名な奴だ。去年、派手にやらかしてるからな・・・。とにかく、しばらく夜の外出は
控えたほうがいい。知り合い以外からの連絡にも耳を貸すな。」
「・・・分かりました、気を付けます。ところで、この病室に侘助ちゃん来ました?
彼、今回は情報収集担当なんですけど。」
「侘助?いや、ここには来ていないが・・・。たぶん、別の病室にいる1年生たちの方
に行ったんじゃないのか?あいつ、後輩にはかなりビビられてるからな。」
なるほど、それなら彼が上手く話を聞けなかったことにも納得できる。壁に掛けられた
時計を見ると、話を始めてから40分程経っていた。私は立ち上がり、服のシワを手で
伸ばしながら言う。
「それだけ聞ければ十分です、どうもありがとうございました。後は私たちに任せて、
コタロウちゃんたちはゆっくり休んで下さい。なるべく早く復帰してもらわないと、
その分私の仕事が増えるんですよ。分かってますか?」
「建前はいらないぜ?お前が言いたいことはお見通しだからな。早く良くなってまた
一緒に部活をしましょう、愛してますよ、コタロウちゃん。ってことだろう?」
彼の軽口に、私は思わずカッとなった。気がつくと、持っていたカバンを彼の鳩尾に
思いっきり振り下ろしていた。心配して損をした、さっさと帰ろう・・・。
病室を出て廊下を歩く。ふと、さっきのコタロウちゃんの軽口は、私を心配させまいと
する彼の優しさだったのではと考えた。もしそうだとしたら、悪いことをした。
「お詫びに、ラーメン屋にでも誘ってあげようかしら・・・。」
私は一人呟き、病院を後にした。