崩焔寺鈴蘭 その2
ケータイを折畳み、机に置く。私は思わず溜息を吐いた。まぁ、了承しちゃったものは
しょうがないな。私は立ち上がり、出掛ける支度を始めた。
ベージュのハーフパンツを履き、ピンクのポロシャツを着る。鞄にケータイや財布を
放り込み、麦わら帽子を被って私は外に出た。うーん、いい天気だ!
路地を通って近道をする手もあったが、私は敢えて遠回りになる大通りに
向かって進み始めた。だって、こんなに素敵な天気なんだもの。満喫しなきゃ!
通学路を進み、大通りに出る。休日ということもあってか、人が多い。
人混みを華麗にかわしながら進んでいくと、街で一番大きな総合病院が姿を現した。
病室は予め聞いていたから、私は中に入ってから真っ直ぐ4階に向かった。
「403、403・・・、あぁ、ここか。」
扉を開けると、病室は4人部屋で、中に居たのは見知った顔ばかりだった。
どうやら、部員がまとめてこの病室に放り込まれているらしい。
3年生の部員の一人、石神コタロウが私に気付き、声を掛けてきた。
「よう、鈴蘭じゃないか。どうしたんだ、今日は休みだろ?」
「鬼顧問にその休日を潰されちゃったんですよ。まぁ、その原因を作ったのが
コタロウちゃんたちという訳で・・・。さぁ、詳しく聞かせてもらいましょうか?」
軽く毒を吐くと、病室の4人が全員笑った。
「ハハハッ!あぁ、全くその通りだ、情けないことにな。ちょうどいい、さっきまで
俺たちの方でも状況を整理していたところだ。聞いて行け。」
ベッドのそばに置いてあったパイプ椅子に座るよう促され、私は席に着いた。
コタロウちゃんはメモ用紙を取り出し、話を始めた。
「さて、と・・・。まず最初に犯人だが、全員違う人間だ。それは襲撃された時刻
から考えてほぼ間違いないはずだ。おそらくは組織的な犯行だろうな。」
「それは分かってる。会長さんに心当たりがあるらしいですよ。それよりも
聞きたいのは、どうしてあなたたちはノコノコとあんな人通りの少ない場所に
出向いたんですか?何か理由があるんでしょう?」
私が尋ねると、しばらく黙ってからこう切り出した。
「・・・なぁ、鈴蘭。学園内で俺たちの存在を知っているのは何人だと思う?
そりゃあ、噂程度なら誰だって聞いたことはあるだろうさ。だが、ハウンドの実在と
その存在理由を知っているにはごく僅かだ。何故なら、俺たちは日陰者だからだ。」
日陰者。そう聞いたとき、私はハッとした。確かに、ハウンドは通常なら有り得ない
存在であり、私たちは普通の学生からは逸脱した領域に居るのだ。私が当たり前だと
思っていた日常は、よくよく考えれば非日常だ。異常な世界に身を置き続けたために
私の感覚は何時の間にかおかしくなってしまっていた。