崩焔寺鈴蘭 その1
5月12日
今日は待ちに待った休日です。何をしようかな。散策ついでにショッピングもいいし、
百合ちゃんを誘って食べ歩きってのもアリだなぁ。
「・・・と、私は色々と考えていた訳なのですよ、先生。なのに、先生は貴重な休日を
潰してまで働けって言うんですかぁ?あれ、先生って鬼畜ですか?」
「悪いとは思ってるって。仕方ないじゃない、せっかく宮流璃が危ない橋渡って情報を
手に入れてくれたんだから、それに答えないと。」
まぁ、言ってることは正しいです。まさに正論です。ですがねぇ、こちとら花の
女子高生な訳ですよ。巷で流行りのJKって奴ですよ。
珍しく陸上部の練習も休みで、久しぶりに羽を伸ばせると思ってたのに!
「断固拒否します!他に動ける人は山ほど居るはずです!」
私が力強く言うと、先生はしばらく黙ってからこう提案した。
「・・・じゃあ、こうしましょう。駅前に出来たばかりの新しいラーメン屋、
あそこで一番高いやつを奢るわ。それで手を打ってくれない?」
それを聞いた私は、一瞬呼吸の仕方を忘れてしまった。慌てて深呼吸をして、
落ち着こうとする。
ま、まさか、いつ行っても行列が半端じゃなく途中リタイアする者が続出している
あのラーメン屋!?いや、先生は私の根負けを狙って提案しているんだ。
その手には乗りませんよ!
「・・・ま、またまた、そんなこと言って。私は騙されませんよ?私のリタイアを
狙ってるんですよね?先生もせこい手を使いますねぇ。」
「・・・実は、私って、あの店の主人とは面識があるのよねぇ・・・。」
え・・・!?
言葉に詰まる。先生はその動揺を見逃さなかった。畳み掛けるように続ける。
「しかも、彼は私に借りがあるからね、私が頼めば一日貸切かつ食べ放題・・・、
なんてことも有り得るかも知れないわね。」
不敵にほくそ笑む先生の姿が容易に想像できた。非常に腹立たしいが、
私は折れてしまった。折れるしかなかった。
「はぁ・・・、分かりました。働きます、働けばいいんですよね。それで?
私はいったい何をすればいいんですか?」
嫌々ながらも承諾すると、先生は嬉しそうに指示を出してきた。要件は
簡単だった。入院中の部員に対する事情聴取。
「あれ、でも、それは侘助ちゃんがしたんじゃないんですか?」
「侘助君はあんな顔だからね、皆がビビって何も話せないのよね。
そろそろ落ち着いてきた頃だと思うから、念のためにもう一度ってね。」
なるほど、そういうことならお安い御用だ。ここからなら病院も近いし。
そう思い了承すると、先生は早口に後はよろしくと言って電話を切った。