風嵐侘助 その4
チッ、やっぱり顔は映ってねぇか・・・。だが、こんだけデケェ図体してりゃあ、
探し出すのはそう面倒なことじゃないはずだ。
「・・・ん?このパーカー、どっかで見たような・・・。おい、コイツの背中を
拡大することって出来るか?」
俺の質問に、宮流璃は首を振った。
『それは出来ない。この映像はあくまでコピーだから。』
「そうか・・・。まぁ、それなら仕方ねぇな。ここから先は、俺の独断じゃ動けねぇ。
月神の指示を待つしかなさそうだ。お前の仕事はひとまず終了だ、お疲れさん。」
労いながら宮流璃の頭を撫でると、こちらを向いて嬉しそうに微笑んだ。
こうやって感情が表に出てくるようになっただけでも、随分な進歩じゃないか。
「さて、俺はこのことを月神に報告してくる。ついでに今後の動きについての確認も
しなきゃならねぇな。お前はのんびりやってりゃいい。じゃあな」
そう言って立ち去ろうとすると、宮流璃が服の裾を引っ張った。振り返ると、手には
いつ出したのか分からない缶コーヒーとディスクが握られていた。
『一応、さっきの映像をディスクにコピーした。あと、コーヒー。』
「・・・ありがとよ。」
それらを受け取り、部屋を後にする。家を出て、俺はそれを飲んだ。
長い時間握っていたのだろう、中身は温くなっていた。
「・・・なんだ、温いのもなかなかイケるじゃねぇか。」
全て飲み干し、空き缶を道路の隅に投げ捨てる。電話を取り出し、月神に掛ける。
「はい、もしもし。どうしたの?」
「宮流璃が犯人の映った映像を手に入れた。とりあえずアンタにもそれを
見てもらいたいんだが、今から大丈夫か?」
出来るだけ物腰柔らかに話すと、電話の向こうから含み笑いのような声が聞こえた。
「ちょっと、今日はえらく大人しいじゃない?お腹でも壊した?」
「うるせぇ!おかげさまでいつもどおりの不機嫌になりました、どうもありがとう!」
「あはは、ごめんごめん。そうね、もう予定もないし、大丈夫よ。じゃあ、私の
家に来て頂戴。ついでに晩ご飯でも作ってあげるわ。」
晩飯はいらないが、とりあえず了解だ。俺は分かったと短く答え、電話を切った。
バイクに跨り、月神の住むマンションに向かって走り始めた。
っていうか、あいつ料理なんか出来んのか?