風嵐侘助 その3
ガレージに向かい、バイクを眺める。月神と契約を交わした数日後、俺の家に
月神が持ってきた代物だ。何かの悪巧みかと問い詰めると、奴は満面の笑みで
こう言いやがった。
『タダであげるのよ。もちろん新品。どこも弄ってないから、貴方の好きになさい。
その代わり、学校にはきちんと来なさい。授業も真面目に受けて、テストでは私の
納得がいく点数を採りなさい。いいわね?』
『お前は俺の母親か?』
立ち去る月神の背に、俺が反抗的に言い放つと、月神は振り向かず答えた。
『母親じゃなくて、母親代わりよ。』
売り捌いて遊ぶ金に変えることも出来たが、俺はそれをしなかった。
学校に行き授業を受け、試験はいつも80点以上。まさに優等生って奴だ。
休日は家でマニュアル片手にバイクを弄って過ごす。趣味なんて言うつもりは無いが、
油まみれになった自分の姿は、かつて夢に見た普通の高校生そのものだった。
「いや、普通の高校生には程遠いか・・・?」
苦笑しながら当時を振り返る。今思えば、月神に上手く乗せられていたような気が
しないでもないが・・・、まぁ、それでもいいじゃねぇか。
時計を見ると、何時の間にか30分以上経っていた。おっと、そろそろ頃合だな。
再び宮流璃の自室に戻ると、彼女は作業を終えて一息吐いていた。
「どうだった?」
『1つだけ、映像が保存されていた。解像度は悪いけど、襲撃の一部始終が完全に
録画されてた。既にコピーも終了している。』
文字が表示され、宮流璃がこちらを向いた。指示を出せ、そう言っているように
見えたから、俺は映像の再生を促した。彼女は肯き、キーボードを叩いた。
映像ソフトが立ち上がり、カメラの映像が再生される。
かなり薄暗いが、街灯の光のおかげでなんとか見ることが出来る。
映像は襲撃された部員が立っているシーンから始まっていた。
「これはお前が事前に編集してるのか?」
『違う。カメラが動体を認識した瞬間から録画がスタートする仕様。』
あぁ、なるほど。良いカメラ使ってんじゃねぇか。
映像はしばらく部員が誰かと電話するシーンが続いていた。何だ、誰と電話を
してやがるんだ・・・。
疑問に思ったその時、カメラの死角から手が伸びて部員を影に引きずり込んだ。
音声がないため、何が行われているのか検討が付かない。
「おい、これで終わりじゃねぇよな?」
終わりなら、打つ手無しだ。だが、宮流璃は首を横に降って否定した。
直後、パーカーを着てフードを被った大柄の人物が画面を横切った。