風嵐侘助 その2
俺の問いに、宮流璃は何も答えなかった。いや、正確には何も言わなかっただけだ。
彼女が見つめるものとは別のモニターに、『まずまず。』と表示された。
「そうか・・・。こっちも大した成果は上がってねぇ。午前中に襲われた連中を
訪ねてみたが、どいつもこいつも分からないとしか言いやがらねぇ。まったく、
俺らに喧嘩売ろうなんざ、犯人は余程死にてぇらしいな。」
1本目のコーヒーを飲み干し、2本目に手を伸ばす。
『襲撃を受けた部員は7人、場所はいずれも人通りの少ない路地。目撃者無し。』
新たに表示された文字を見て、俺は溜息を吐いた。あまり状況は芳しくないが、
まだ打つ手が無くなったわけではない。宮流璃の頭に手を置き、耳打ちするよう
に呟いた。
「病院に向かうついでに、襲撃現場を一通り見てきた。全部という訳じゃないが、
防犯カメラも在った。そこでだ、お前に頼みたいのは・・・。」
『カメラの映像?』
俺が言う前に文字が表示された。よく分かってるじゃねぇか。
「そう、映像だ。すでに消去されていれば手詰まりだが、映像が残されていれば、
あっと言う間にチェックメイトだ。俺たちはキングを包囲できる。」
『クラッキングなら可能。でも、データが残されている可能性は低い。』
「まぁ、とにかく一度やってみてくれ。お前だけが頼りなんだ。」
俺がそう言うと、宮流璃は少し考えた後、キーボードを叩き始めた。どうやら彼女も
事前に調査していたらしく、カメラが設置されていた現場がリストアップされていた。
複数のサーバーが唸りを上げ、見たことのないソフトウェアがいくつも起動していく。
似たような場面には何回も居合わせたことはあるが、いつ見ても壮観だ。
見ていて分かるわけでも無いし、何か手伝える訳でも無い。俺は部屋の外に出て、
一階に降りた。風呂やキッチンといった場所以外には、生活感がまるで無い。所見だと
空家と間違えられるかも知れない。それほどまでに、宮流璃は、およそ女子高生には
程遠い生活を送っていた。
俺も柄にもなくこの生活を改善してやろうと色々頑張ってみたが、無理だった。
いつも、あと少しというところで彼女は諦めてしまう。慌てて部屋に戻ってパソコンと
にらめっこを始めてしまうのだ。まさかあそこまで酷いとは思わなかった。
さすがの俺もお手上げ、すぐに降参した。その代わり、ちょくちょく彼女の家に顔を
出すようにした。人生に絶望して自殺していないか、確認するためだ。
今のところ、まだ大丈夫だ。