姫咲向日葵 その1
5月8日
今日も空は青い。この空よりももっと上空に存在する宇宙が、
本当に暗黒の世界なのか疑わしく思えてくる。
ブブブ・・・!
私の哲学的な思考は、携帯電話の着信音によって停止させられた。
「ターゲットは捕獲できたの?」
「すんません、まだッス。現在、屋上に向かって逃走中。」
何処に逃げようが構わないけど、よりによって屋上とはね。
「はぁ、いいわ、私に任せて。」
通話を終えて携帯電話を折り畳むと同時に、鉄の扉が勢い良く開いた。
屋上に足を踏み入れたのは、眼鏡を掛けた陰気臭い男子生徒で、
私を見るなり後ずさって尻餅をついた。
女の子に対してそのリアクションはどうかとも思うが、まぁ、いい。
さっさと終わらせよう。
「なっ、なんで屋上に人が!?ここなら見つからないと思ったのに!」
慌てふためく男子生徒を後目に、私は黒い革の手帳を開く。
ふむ、下着泥棒の疑いと執行部への暴力か。あ、屋上への侵入も付け足しね。
「なんでここに私がいるのか。それはね、君みたいな子悪党を処理するためよ。」
赤い文字が刺繍された腕章を見せると、彼の顔面は一気に蒼白になり、ガタガタと震え出した。
「馬鹿な、そんなの、ただの七不思議じゃないか!?存在しているはずがない!!」
ああ、そんな噂を聞いたことがあるわね。
確か、『校長先生が鬼神連合会の元会長』に並んで信憑性が低いとか。
・・・いや、違うな、こんな無駄話に付き合ってる場合じゃなかった。
座り込む男子生徒に歩み寄り、腕章を突きつける。
「七不思議?笑える冗談ね。七不思議も何も、君が今見ている腕章が証拠なの。
私たちは実在している。そして、今回の任務は下着泥棒を執行部に引き渡すこと。」
特注品の学ランの懐に縫い付けられたホルスターから、モデルガンを抜く。
「【S&W M19】、コンバットマグナムって言った方が伝わるかしら?
私はね、君たちみたいな姑息な輩が大嫌いなの。」
額に銃口を押し当てながら言う。彼の体の震えがモデルガン越しに伝わってきた。