風嵐侘助 その1
5月11日
俺は愛用のバイクに跨り、行く宛もなく気ままに走り回っていた。
特に理由なんてものはない。強いて言うなら、暇だからだ。
市内をしばらく走った後、ガソリンを給油するためにガソリンスタンドに
立ち寄った。給油をしている間、自販機で缶コーヒーを買おうとしたが、
俺が愛飲している微糖のコーヒーが売り切れていた。
「チッ・・・、しょうがねぇ、あまり好きじゃねぇが、ブラックを・・・。」
ブラックのボタンを押そうとするが、こちらも売り切れだった。おいおい、
冗談じゃねぇぞ、どうなってやがんだ、ここの自販機はよぉ!?
頭に血が上り、店員を怒鳴り散らしそうになるが、なんとか堪える。
いやいや、こんなことでいちいちブチギレてちゃあ、クールじゃねぇ・・・。
軽くこめかみを押さえ、落ち着きを取り戻す。飲み物は諦めよう、自販機なんて
このご時世、どこにでもある。給油が終わったらしいバイクの下に戻り、店員に料金を
支払ってさっさと出発する。
行き先は同僚の宮流璃の自宅だ。飛ばせば5分もかからない。宮璃璃の家には何故か
大量に微糖のコーヒーとパフェの材料が備蓄されており、よくお世話になっている。
因みに、パフェは宮流璃が作ってくれる。さて、今日は何パフェを戴こうか・・・。
逸る気持ちを抑えきれず、ついついアクセルを捻る手に力が篭もる。
あれやこれやと考えているうちに、俺は宮流璃の自宅に到着した。
見た目は普通の二階建ての一軒家。ガレージも完備しているが、中は空っぽだ。
俺は勝手にバイクを停め、呼鈴も押さずに中に入る。一階からは人の気配はしない。
それは相変わらずだった。さっさと二階に上がり、階段に一番近いドアを開ける。
「よう、調子はどうだ?」
言いながら部屋に足を踏み入れる。窓のカーテンは取り外され、代わりに板が張ら
れ、完全に外界からの光を遮っていた。部屋の光源はパソコンのディスプレイのみで、
なんとも頼りないものだ。そのパソコンの前には目が隠れるほど前髪が長い黒髪の
少女が座っていた。この家の家主、“宮流璃瞿麦”だ。
部屋に置かれた冷蔵庫を開けると、中では大量の缶コーヒーが冷やされていた。
因みに宮流璃はコーヒーが飲めない、簡単に言えば、この冷蔵庫は俺専用だ。
缶を1本取り出し、蓋を開けて口に運んだ。うむ、やはり微糖に限る・・・!