月神菖蒲 その5
会長は腕を組みながら、静かに話し始めた。
「初めは素晴らしい政治をしていても、人はいずれ権力に溺れる・・・。
彼らは彼らなりに、学園の将来を案じているんだと思います。情けない話です、
本来なら生徒から信頼されなければならない人間が、生徒を不安がらせている
なんて、生徒会長失格です・・・。」
言いながら肩を落とす会長を、鈴蘭が慌ててフォローした。
「そんな、蒲公英ちゃんが凄く頑張っていることは、私たちが一番知ってますよ!
学園のみんなもそれは理解してます!一部の革命家気取りなんか気にしてちゃ
身が持ちませんよ!?自信持って下さい!」
鈴蘭が落ち込む会長の肩を物凄い力で揺すった。会長の頭がカクカクと
力無く揺れる。
「そ、それでも、反対勢力を抑えきれなかった結果が、今こうして、出ているわ。
そのせいで、ハウンドにも迷惑が、掛かっている・・・、もういいから!」
しばらく揺すられつつも話し続けていたが、余りにも長かったのだろう。
普段はあまり出さない大声を出して鈴蘭を押しのけた。
「とにかく、今はコレをやった奴らを吊るし上げるのが先決よ。このまま
舐められっぱなしってのも、胸糞悪いじゃない?」
鉄柵にもたれ掛かってやり取りを眺めていた部長が、不敵な笑みを浮かべながら
集まったメンバーに向けて言い放った。まぁ、このまま見過ごすなんてことは
有り得ない話だけどね。他のメンバーも力強く肯いた。元々血の気の多い者たちが
集まった部活だ、ここまでやられて引き下がるような腰抜けはどこにもいない。
何時の間に戻ってきたのか、手にバケツとモップを持った百合がドアの前に
立って何度も肯いている。
「さぁて、久しぶりの大仕事よ!超弩級の戦争を始めましょうか!・・・っと、
その前に、まずはコレを消さないとね。校則第三条、学園は清潔に!」
全員が掃除用具を取りに下へと降りる中、私は一人残ってもう一度ソレを目に
焼き付けるために見つめた。タバコに火を点け、紫煙をくゆらす。
吐き出した煙は、吹き抜ける風ですぐに消えた。
「『革命の時は来た』、か・・・。」
地面には、ペンキでべったりとその言葉が書かれていた。再び強い風が吹いた。
その時、私の中にある疑問が浮かんだ。
「・・・部長、山茶花君、鈴蘭、百合。会長は違うし、侘助君と宮流璃は来てない。
あれ、ハウンドの主要メンバーって、こんなに少なかったっけ?」
用事か何かで来られなかっただけだろう。そう思った。だが、そうではなかった。
他のメンバーが謎の人物の襲撃を受けて病院送りになった事実を、翌日聞かされた。