月神菖蒲 その4
「またそんな無責任を・・・!」
会長が呆れながら文句を言おうとしたが、鈴蘭が間に入って彼女を宥めた。
百合は既にこの場から消えていた。おそらく、コレを処理する準備をしに行った
に違いない。無口ではあるが、気配り上手だなと、改めて感心した。
部長も侘助君に連絡を取っていた。どうやら、もうここに到着しているらしく、
ケータイから彼の喚き声が微かに漏れていた。
「えぇ、えぇ・・・、分かったわ、これから気を付ける。」
困ったような表情を浮かべてケータイを仕舞った部長に、何を言われたのか
尋ねると、微苦笑しながら答えた。
「『俺はハウンドの部員でテメェは部長だ、一応命令には従ってやる。だが、
俺の飼い主はあくまで月神だ。いいか、それだけは覚えておけ、クソッタレ。』
・・・だそうです。年下にここまで言われたのは初めてです。」
そんなことを言うとは、思いもしなかったわ。まったく、私に懐いてるのか
そうじゃないのか、よく分からない飼い犬だこと・・・。
無性に彼が可愛く思えて、今度デートでもしてやろうかなと、半分冗談で、
だけど半分は本気でそんなことを考えた。
「遅ればせながら、只今馳せ参じましたよ。一体何があったんですか?」
急いで階段を駆け上がってきたのか、やや息の上がった山茶花君が現れた。
ひとまず状況を簡単に説明し、問題のモノを見せてみる。
彼は目を細めてしばらくソレを見つめた後、軽く息を吐いた。
「これはまた、えらく大袈裟なペインティングですねぇ。こんな大掛かりな
作業、多分一人じゃ無理ですね。複数人の仕業じゃないですか?」
「良い推測だわ、山茶花君。その通りよ、ご明察。実はね、最近この学園の
体制を疑問視する生徒がちらほらと現れているのよ。ねぇ、会長?」
山茶花君を褒め称え、後方に立つ会長に質問した。もちろん、回答は
分かりきっていた。予想通り、会長は少し間を置いてイエスと答えた。
「えぇ、そうですね、その通りです・・・。自分たちと同じぐらいの年の
女子が、学園を事実上支配してるという構図が気に入らないようです。
私を引きずり下ろそうと画策してるって噂もあります・・・。」