月神菖蒲 その3
続いてやって来たのは、部長の姫咲向日葵と生徒会長の法条蒲公英だった。
「月神先生、一体何の用事ですか?この前みたいなくだらない仕事なら帰りますよ?」
「あら、子供の世話だって立派な仕事よ?いつかは貴女も子を持つんだから、
今のうちに予行演習しておくのも悪くないんじゃないかしら?」
私がそう言ってからかうと、部長は顔を真っ赤にして俯いた。
あの子、いつもは取っ付きにくい雰囲気を醸し出しているけど、女の子っぽい話題、
お嫁さんとか、あの辺の話には極端に弱いのよねぇ。実に可愛らしいじゃない。
「先生、そろそろ本題に入りませんか?私たちも暇ではありません。
確かに部活も大事ですが、学生の本分は学業ということを忘れてはいませんか?」
この流れ、非常に面倒臭いことになりかねない。彼女が一度説教を始めると、
小一時間は終わらないのだ。
「そもそも、先生は毎度毎度勝手過ぎます。こちらの都合というものも
少しは考えてください。・・・ちょっと、先生、聞いてますか?」
「言われなくてもちゃんと聞いてるってば。以後気を付けるから勘弁して。
それより、貴女たちを呼んだ理由だけど、コレよ。」
説教の軸を強引にずらし、まだ何か言いたそうな会長を黙らせる。
部長は既に気付いていたようで、問題のモノを見つめて考え込んでいた。
コレを見て物怖じしないなんて、流石は関鬼連の四天王ね。
「私たちへの“宣戦布告”ってことでいいのかしらね、コレって。
ふぅ・・・、侘助が見たら、怒り狂って生徒全員ぶちのめすんじゃない?」
冗談ぽく聞こえるが、実際あの男は過去に似たようなことを為出かしている。
まぁ、今更昔のことを蒸し返すつもりも無いが、常に最悪のケースというものを
想定しておかなければならない。
「・・・今回の件、侘助君には他言無用とするわ。彼には、宮流璃と一緒に
情報収集に徹してもらうことにする。」
「彼の性格を考えれば、当然の指示ですね。ですが、この件をどう説明する
つもりですか?隠していたことがバレたら余計に面倒では?」
会長が顎を触りながら言った。相手を肯定しつつも遠まわしに反対意見を
ぶつけてくる、素晴らしい話術だわ。
「さぁ、その辺は考えてないわ。そこは貴女たちの腕の見せ所じゃないの?
とにかく、山茶花君を降ろしたらすぐに宮流璃の所に向かうよう伝えて。」