月神菖蒲 その2
電話を掛けてから10分程たった頃、ようやく最初の待ち人が現れた。
「さすが、家が近いと来るのも早いわねぇ。」
現れたのはロングヘアーで目付きの悪い美少女と、こちらに小さく手を振る
ツインテールの可愛らしい少女だった。
目付きの悪い少女は3年生の“天骸百合”、かつては剣道部が
誇るエースだったが、私が裏工作を行なって引き抜いた女生徒だ。
もう一人のツインテールの少女は同じく3年の“崩焔寺鈴蘭”。
彼女は隠密治安維持部であると同時に、陸上部のキャプテンでもある。
私は冗談で「1本どう?」と言いながらタバコを差し出したが、百合は黙って首を
振って拒否した。相変わらず、無口な子だ。
一方、それとは逆に鈴蘭は愛らしい笑みを浮かべながら人差し指でペケを作った。
「あー、いけないのですよ、先生!生徒に喫煙なんて勧めちゃダメなのです!
百合ちゃんが不良になっちゃったら、先生のこと殺っちゃいますよ~?」
こっちも相変わらず、とんでもないロリボイスね。
電話越しだと小学校低学年に間違われるって噂、本当なのかも・・・。
「冗談よ、冗談。お願いだから殺っちゃわないでくれる?で、本題なんだけど・・・、
って、もう見れば分かるわよね?」
私の問いに、二人は無言で肯いた。先程とは打って変わって、鈴蘭も真面目な表情だ。
余程“コレ”が衝撃的だったのだろう、かく言う私も、“コレ”を発見したときは
思わずくわえていたタバコを落としてしまったほどだ。
今までに無い事態に困惑する二人を落ち着かせるため、一度間を置くことにした。
「まぁ、もう少し待てば他のメンバーも合流するでしょう。細かいことは
それからにしましょう、ね?あ、そうだ、“宮流璃”はどうしたの?
あの子にも招集かけてくれたんでしょ?」
「あぁ、“瞿麦”ちゃんはダメですよ。あの子、侘助ちゃんの
言うことしか聞かないじゃないですか。」
そう言えば、宮流璃が彼以外と話してるの見たこと無いわね。迂闊だったわ。
後で侘助君から伝えておいてもらわないといけないわね。
「あの子は・・・・・・、やっぱり、何でもない・・・。」
珍しく百合が口を開いたと思ったら、何か言いかけて再び黙ってしまった。
まぁ、彼女が何を言いたかったかはだいたい予想がつくけど、
それはまた今度にしましょうか。