大貫山茶花 その6
異常に粘る渡瀬さんをなんとか説得し、公園へとやって来たが、どうやら侘助は
まだ来ていないらしい。僕は内ポケットに入ったタバコに手を伸ばした。
「っと、もうコレとは縁を切ることにするか。もう、死にかけるのはごめんだ。」
人生二度目の禁煙宣言だ、僕はタバコとオイルライターをゴミ箱に放り込んだ。
すると、聞きなれたバイクの音が聞こえてきた。
公園の入口に大型バイクが停まり、ライダーがメットを脱ぐ。
乗っていたのは、金髪のオールバックで左目に傷のある男だ。
どこからどう見ても柄の悪いチンピラだが、彼は歴とした高校生だ。
僕と同じ黒蜜学園の生徒、“風嵐侘助”である。
「俺より早く着いてたってことは褒めてやる。だが、女の自宅に
しけこんでやがったのは許せねぇ。今度、学食のジャンボパフェ奢れや。」
「そんなことより、早く行かないと月神女史に怒られるぞ?」
僕の言葉でそのことを思い出したのか、侘助は慌ててメットを被りながら僕に
後ろに乗るよう促した。
「テメェ、後で覚えてやがれ・・・。」
「はいはい、さっさと行ってくれぇっ!!」
僕が言い終わる前に急発進しやがった!舌を噛み切るところだった。
違法に改造を施したバイクはどんどん速度を上げていき、あっと言う間に
法定速度をオーバーしてしまった。ヤバイ、お、落ちるっ!!
「お、おい!ここは高速道路じゃないんだぞ!?そんなにスピードを出すな!」
「テメェと無駄話して遅くなったから急いでんだよ!まだまだ上げていくぜ!
それに、俺のテクニックなら問題ねぇよ!」
そういう問題じゃないんだよ、侘助。お前の後ろにいる僕が今にも
振り落とされそうなんだ。分かってくれ。
だが、僕の願いは彼に届かなかったようだ。侘助が力一杯アクセルを捻ったのだ。
侘助にしがみつき、必死に耐え続けた結果、僕は無事に学園にたどり着けた。
一般生徒は出入りを禁じられている裏門から校内に入り、駐輪場にバイクを停める。
「はぁ、はぁ、侘助・・・、覚えてろよ・・・?」
「あぁ?何を覚えとけって?テメェに奢ってもらうジャンボパフェのことなら、
死んでも忘れねぇから安心しろって!ハハハ!」
僕の背中を叩きながら高らかに笑う侘助を見て、僕は溜息を吐いた。
こんな奴を手懐けるなんて、“月神”女史はどんな手を使ったんだ?